第49話『Q.どうしてもやる気の起きない時の対処法は?』
明くる日。
俺はそろそろ見慣れてきた天井の下で目を覚ました。すでに日課となっている朝の部屋の掃除、そしてピース内の雑巾掛けをゆっくりと開始する。
あれから揺れる馬車の中でたっぷりと睡眠をとった俺たちは、なんとか学校に戻るまでに家に帰るために必要な体力を取り戻しぞろぞろと下校をした。もちろん俺もゆっくりとだがピースへと戻ったのだが、レイド戦以降どうも活力が失われている俺はそのままベットへと潜り次の朝を迎えている。恐らく使ったMPは完全回復し、むしろ寝すぎたせいでオーバーしているかもしれない。
そんなことを考えながらいつになく気合のない自分に対して小さくため息をついていた。
「よう、おはよう! どうしたんだ唸って?元気がなさそうだな。合宿の疲れか?」
エプロン姿で現れたのはこの宿の経営者である、初級冒険者のダグラスさんだ。
「ダグラスさんおはようございます。そうなんですよ。あれからと言うものどうも何にもやる気が起きなくて。気力が失せたと言いますか……燃え尽きたと言いますか」
「トール甘いぞ! ダンジョン攻略に終わりなどない。燃え尽きる暇などないのだ。ちなみに何階層まで行ったんだ?」
俺の言葉に先輩冒険者は熱弁する。
冒険に終わりはない。そうですね。そうなんですけど……。まぁいいや。考えるのもめんどうくさい。
質問について考えているとき、俺の頭の中で本当はこんなくだらないことを考えていた。
「王都の近くにあるダンジョンで、五階層まで攻略しました」
何事もなかったかのように済まして答える。しかし、何故だかダグラスさんは目を丸く見開き体をピクリと動かした。
「え? ご、ごご五階層?」
慌てふためくダグラスさんを横目に俺は床の拭き掃除を続行する。
「五階層といえば二週間前に階層主が再び出現して中級冒険者以上にならないと攻略が厳しいと言われていたあの五階層か?」
「いや、よく知りませんが階層主倒した段階で合宿は終了でしたよ」
どうしたのだろうか。五階層って相当浅い層な気がするが……。RPGゲームでも大抵百階層はあるからな。五階層なんて始めて数時間でたどり着く場所だ。(※トールがゲームガチ勢なだけです)
しかしダグラスさんからは驚きを通り越して呆れた表情すら現れているように見える。
「まじかよ……いったいどーやって?」
「五十人のレイドを組んで倒しました」
「五十人か……たしかにそれだけの数は冒険者だけではなかなか集められないかもしれないな。だが学生だけでそんなことが――」
「ちなみに階層主がいなければ初級冒険者はどこまでいけるんですか?」
もしかするとこの世界の常識では五階層は相当凄いのかもしれない。超難易度高めのゲームならたしかにあり得る。
「九階層だな。流石に十階層まで行くとまた更に魔力の濃度が濃くなるから必然と魔物も強くなる。そこから先は中級者の領域だ」
そうだったのか。中級冒険者というのがどれくらいのものなのかは知らないが、どうやら俺たちはとんでもないことを成し遂げてしまったらしい。ますます俺はやりきった感に包まれ、生活への活力が失われていくのだった。
■■■
「あまとうおっはヨゥ!今日は随分伸びた顔してるねぇ。なんて言うか、覇気がないヨゥ!」
「なんだその変な喋り方は。お前はDJか」
「ツッコミにキレが全然ないヨゥ!」
「お前は相変わらずだなぁ……」
テューは俺のやる気のないツッコミにノリノリで返答し続けている。正直鬱陶しい。
ラップ調のテンポを刻みながらいつもよりハイテンションでボケてくるテュー。俺が更に適当に返すと、やり返すようにテューもテンポを弾ませ絡んできた。本当にこいつはやかましいやつだ。
合宿が終了したあの時以降何故だか起きない俺のやる気。どうしてなんだろうか。もしかしてテューなら何か知っているかもしれない。俺はテューに事情を説明した。
「ん〜。怠け者っていうスキルでも身につけたんじゃね?」
スキルという言葉にほんの少し好奇心が湧いた俺は、冒険者カードを取り出し裏の印に指を当てた。
「あれ?」
「何してんだよトール。早くウィンドウ開けよ」
急かすテュー。俺は決してふざけているわけではない。ちゃんと俺の中のマナ、つまりMPをカードに注ごうとしている。しかしどんなに念じてもステータスウィンドウは表示されなかった。なんだか嫌な予感がした。
「開かね。ウィンドウ出ないわ」
しょげた様子で肩を落とす俺からテューは冒険者カードを奪い取る。
「あ、お前――」
「まぁいいから見てなって」
そう言いながらテューは俺の冒険者カードにマナを注いだ。するとウィンドウが出現し、ステータスは俺に向かい表示されていた。
「他人がマナ注いでもステータス表示できるんだな」
「まぁそれでも見れるのは本人だけだからカード奪ってステータス情報盗み見ようとしても無理なんだけどね」
「ふーん」
そんなものなのかと、テューの情報網に感心しつつ俺はステータスを確認していく。
「――え?」
「どうしたんだよ。僕にも見せろって」
俺は震える手でテューへとウィンドウをスライドさせた。
「バグってるだろ?」
「――これは……バグってますね」
校門前で苦笑する俺とテュー。
ステータスは、というかMPは――マイナス値を示していた。
とおるA「筋肉の歌を聴く」――ハローマッスル!





