第3話『Q.異世界の料理と言えば?』
「ただいま戻りました」
「おかえりなさーい。受付の方は……上手く行ったみたいですね!」
「はい。試験は三日後らしいので、それまでになるべく準備しておきたいと思います」
宿に戻ると、エリシアさんが素敵な笑顔で出迎えてくれた。俺のこの表情を見れば受付が上手く行ったこともすぐにわかるらしい。
それにしてもこの落ち着く空間といい、この美人な宿屋の奥さんといい、どうやら俺はちょっとばかしラッキーのようだ。
「そう言えばダグラスさんは何処へ行かれたんですか?」
「主人なら狩に出かけました。アレでも一応冒険者なので」
いや、アレでもって言うか見た目通りっていうか……なるほど、クエスト消化ついでに食料の調達なんかもしてるのかな? これは夕飯に期待が高まる。
「そーなんですね。したっけ僕は先に部屋でゆっくりさせていただきます」
「分かりました。夕飯ができ次第お呼びしますのでそれまでゆっくりしていてください」
俺の部屋は階段を上がり、右に曲がった奥の部屋だった。六畳ほどの部屋には、入口の正面にカーテン付きの窓があり、その下に一人用のベット。左側には壁にくっつくように、腰の高さほどの机と椅子がある。反対側にはロッカーらしきものがあり、上着や荷物を置くスペースが用意されていた。部屋もロビー同様工夫が施されており、見たことはないがおそらく他の宿にはない良さがあるのだと思う。っていうか俺が好きだこの空間。
俺は部屋に入り、荷物もなんもないのでそのままベット飛び込んだ。
「やっぱ飛び込むよねー。っていうかせっかくファンタジー世界に来たのに俺こんな格好してるんだよなー」
俺はお金もなければ、都合よく着替えを持っているわけでもないので学ランを着たまんまだ。不幸だ……。
この後俺はうとうとしてすぐに寝てしまった。こっちに来てからニ、三時間歩いて、宿に着いたと思ったら受付までダッシュして……動きぱなしだったのだ。仕方ない。
■■■
コンコンコンとドアをノックする音が聞こえてる。俺はむくっと起き上がり、寝起き感満載の返事をした。
「はぁ〜ぃ」
「失礼致します」
ドアが開き、エリシアさんが部屋に入ってきた。その途端、それはもう美味しそうな匂いが部屋に流れ込んで来る。――やっべ、よだれ出る……あ、もう寝ながら垂らしてたわ。ハハ。
「お夕飯の用意出来ておりますので、お好きな時間にいらしてください」
「行きます! すぐ行きます!」
なんなんこの美味そうな匂い。目ぇ覚めたわ。一階へ降りると、そこには異世界初の料理があった。もー腹減ったよ。減りすぎたよ。お昼食べてないんだよ。美味そうだよ。
椅子に座り、スプーンを手に取る。
でも……なんか一人で食べるのもなぁ。
「どうしたんですか?」
「あの、一緒に食べませんか?」
俺ん家はご飯をみんなで食べてたんだよな。宿の人と一緒に食べるって変かもしれないけど、やっぱご飯はみんなで食べたいし。
「ダグラスさんはまだ狩から帰ってないんですか?」
「いるぞー? どーしたんだ?」
台所だろうか。奥の部屋からダグラスが返事をしながら出てくる。流石に着替えていて狩の時の装備を見ることはできなかった。残念。どんなごっつい格好してるか興味があったんだがな。――せめて血塗れで登場してくれよな!
「僕の故郷では食事はみんなで取るんですよ。なので、一人で食べるより、ダグラスさんたちと一緒に取りたいなと思いまして」
二人は少し困ったような顔をしていたが、心良くOKしてくれた。料理は豪華なものではなかったが、家庭の味といった感じでみんなで囲んで食べた異世界料理はとても美味しかった。特に肉料理は、柔らかいのにかみごたえのある不思議な食感で、味付けは地球のオニオンソースみたいな感じで美味しかった。
食事の時に色々な話をした。どうやらこの世界にも魔王は存在するらしく、この国の討伐隊はもちろん、冒険者たちの中にも魔王討伐を目指すものがいるようだ。現在は六人いる幹部のうち一人しか倒せていないんだとか。ちなみにここはソオラム王国という国の王都で、ノーツェンスと言うらしい。
冒険者にも階級があり、ダグラスさんは下から三つ目だそうだ。
服装のことも話した。学ランを見てどこの国の学生か聞かれたが、例のごとく異世界の人間なことは秘密にするつもりなので適当にごまかした。でも、なんで学生ってわかったんだ? この世界にも学校なるものがあるのかな?
それと、最初に俺が一緒に食べようと言ったときに困ったのはお客さんと食べるなんて失礼ではないかと思ったからだった。元の世界のように避けられたわけではなくてホッとした。
食事も終わり、やる事もない俺は夜の王都を散歩することにした。
綺麗な満月だ。なんだか素敵な出会いとかあったりして。――なんてね。
とおるA.「ドラゴン鍋」