第46話『Q.あなたの信じるものは?』
「よし今だ! 一旦距離を取れ!」
腕に二度目の集中攻撃を終えた僕たちは敵の反応から確かな手応えを感じていた。トールたちが思っていた以上にダメージを与えてくれていたおかげで予想以上に順調に作戦が進み、敵が球体になるまで追い込むことができている。
すでに支えとなっていた一本の腕はいくつもの箇所にほころびを見せており、今にも崩れ落ちそうだ。僕たちが完璧なタイミングで距離を取ると、魔を開ける事なくグランドガントレスは怒り狂ったように腕を地面に叩きつけている。それによって巻き上がった土煙が消えた頃には腕は収納され、再び一つの岩石の塊となっていた。岩が擦れ合う音とともに瞼が閉じられると、グランドガントレスはその巨体を回転させ始める。
「よし、手筈通り行くぞ! ユナ、ティナ、そっちの指揮は任せた」
「了解!」
二人の落ち着いた返事が僕へと返ってくる。俺たちは素早く自分たちの持ち場へと移動をした。
グランドガントレス……名前が長い。グラ岩ちゃん。そうだそれで行こう。グラ岩ちゃんはすでに加速を終え、俺たち囮部隊に照準を合わせている。
さて、派手に踊ってくれよ。グラ岩ちゃん。
俺は心の中でそうメッセージを送り、同時にグループメンバーへと喝を入れた。
「俺たちの役目は誘導だ。アイツを壁際まで誘い出し、仲間たちが攻撃する隙を作らなければならない。この戦いの勝敗は我々にかかっているといっても過言ではない! トールたちが作ってくれたこの状態を無駄にするわけにはいかない。みんな行くぞー!」
グラ岩ちゃんへと向き直り、剣を掲げた俺の背後から大きな勝どきが返ってくる。俺たちは一斉に床にある石を拾い上げるとグラ岩ちゃん目掛けて思いっきり投げつけた。十数の石が宙を舞い、勢いよく巨大な岩石へと向かい飛んでいく。石はどうやら瞼へと命中したようだ。グラ岩ちゃんは攻撃の方向から俺たちの位置を感知するとこちらへと一直線に転がり始めた。標的となったのは――どうやら僕のようだ。運がいいんだか悪いんだか……。
「こっちだぜグラ岩ちゃん。せいぜい自分で瞼潰さないようについて来な!」
俺はそう言って壁沿いを走り出した。グラ岩ちゃんは狙い通り僕の後ろを取り速度を上げながら追いかけてきている。
さて、後は任せたよポール。
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うちのクラスのトップ生徒たちは本当にすごい。予想外の状況をくぐり抜けるため想定よりもはるかに長い時間あんな小規模なグループで持ちこたえたり、瞬時に敵の弱点を探り出し打開策を導き出したり、自身の奥底にある記憶から危険を察知したと思えば、素早い判断を下すなどの行動力があったり、そしてそこにいるだけで勝利すら見せる圧倒的攻撃力だったり、僕はそんなパーティ、レイドの一員としてこの三日間本当に充実した時間を過ごすことができた。学ぶことも多かったし、改めて騎士になるためにもっともっと頑張らなければならないと思った。現在グランドガントレスはこのレイドの総指揮官であるテューを標的として猛追をしている。テューは言っていた。標的となったものが外周を回れば瞼は必ず内側を向く。瞼を誤って潰さないために。だからティナやユナがいる方向に瞼を向けた時、外周を回る者、今回で言うとテューが当てた攻撃より強力な攻撃を当てる事でターゲットを変更させられるはずだと。そして作戦は順調に進み、今がその時である。俺は右手に持った黒い鉄球を握りしめた。
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「じゃあ僕たちのグループが二つに分かれてティナとユナのグループに合流してくれ」
テューが新たに立てた作戦を実行するために四グループを三グループにする必要があった。テューのグループは囮を引き受けてくれるという事だったので残りの三グループを二つにする必要がある。今僕は自分のグループを二つに分けてそれぞれのグループに合流させる指示を出していたところだ。僕もどちらかのグループに合流してサポートをしなければ……やっぱり火力のことも考えてユナの方についた方がいいかな。ティナは僕が加わるまでもなく最高の火力を出してくれるはずだ。そう考えていると、どういうわけかテューが僕に話があると声をかけてきた。
「ポール。君に大役を任せたい」
「え?」
「グラ岩ちゃんが見張り台の方向に瞼を向けたらこれをぶつけて欲しいんだ」
そう言ってテューは黒い鉄球を僕に渡してきた。どうやらそれは衝撃に反応して爆発する爆弾のようだった。
「どうして僕なんだ?」
「――信じてるぜ」
そう言ってテューは持ち場へと行ってしまった。理由は教えてはくれない。自分で考えろと言うことだろう。だが今の僕に答えが見つけられるとは思えない。ならば――
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あのテューが僕に任せると言ったんだ。おそらく昨日までの二日間で一番足手纏いだったのは僕だ。みんなについていくので精一杯だった僕をテューは頼ってくれた。そうだ、これだけは必ず成功させなければいけない。答えがわからないのなら、今できる最大の努力をしろ! 僕は仲間が頼ってくれた自分を信じ、手に握りしめた真っ黒の鉄球をグランドガントレスめがけて思いっきり投げつけた。鉄球は――見事瞼に命中し、その衝撃で爆発を起こした。黒煙が立ち込める中、グランドガントレスは標的をテューから僕へと切り替えた。徐々にこちらへと迫り来るグランドガントレス。僕は震える足を抑えながら向かってくる巨大な岩石に構えた。
とおるA「二次元と仲間と筋肉と根性!!」





