第45話『Q.敵の弱点はどうやって探るの?』
ウチは焦っていた。テンペストと呼ばれるようになってからもこんな戦いは見たことがない。目の前では初めて見る階層主との壮絶な戦いが繰り広げられている。
「あれがジャイアントメタルアントを倒したトールの戦い……」
どれだけの人が見えているかわからないが、トールはどういうわけか敵の弱点を即座にさぐり出し、少しでも危険があるときは無理せず防御に徹し、相手が隙を見せた途端一斉に攻撃をし深手を負わせると深追いはせず即座に安全な位置まで退避している。あの戦い方なら確かに巨大な魔物もトールを倒すのに苦戦を強いられるはずだ。しかし三本の腕を使い始めてからはトールたちの手数が減ってきているように見える。未だ私たちにはゴーサインが出ていない。ウチ一人なら今すぐに突っ込んでも構わない。しかし一つのグループを指揮するものとして勝手な真似をするわけにはいかない。ウチは目の前で必死に耐える友達を見ていることしかできなかった。
「ウチら三人はトールよりも強いはずなのに、ダンジョン攻略においては情けない限りね……」
悔しさを込めてはいたその言葉。しかし、どうやらウチらにもできることが見つかったようだ。
「いいかみんな、あの魔物の名はグランドガントレス。体力を失い追い込まれると腕を胴体へ収納して目の前の敵が全滅するまで転がり続ける厄介な魔物だ」
その言葉に生徒たちがどよめき始める。ようやく前へ出てき状況を説明しだしたテュー。生徒のそんな反応に想定内だというふうな表情で冷静に話を続ける。
「用意してきた俺たちの陣形、作戦では奴の攻撃に対応することはできないだろう。だが倒せないわけではない。奴にだって弱点はある。感覚器官である指と目だ。そこを攻撃できれば奴を倒することができるかもしれない」
テューはかもしれないと言った。あのテューが必ず勝てると言わないことがこの三日間で二度もあるとは想像もしていなかった。
「まず俺たちはトールたちが奴の気を引いている隙に体を支えている腕の指先を集中攻撃し、敵の体力を追い込む。」
「待ってくれ、そしたら奴はその後奥の手を使うんじゃないのか?」
ひとりの生徒がテューの発言に疑問を投げかける。もちろんこれも想定内なのだろう。テューは用意していた回答を淡々と述べていた。
「あぁ。だが腕は収納できても目は収納できない。もちろん瞼は閉じるだろうが、トールの情報では瞼は胴体のように硬くないそうだ」
「ということは……」
「自身の体重も考慮するに奴は瞼を下にしない。必ず横向きに回転をするはずだ。そしてカーブの時は瞼は十中八九上を向く」
「なるほどじゃあそこを狙うってわけか」
そこまで聞いた段階でウチはある疑問にぶち当たった。全てテューに任せ何も考えずにそれを聞いているだけでは気づけなかったかもしれない疑問。ウチはテューの説明を待たずに問いをぶつける。
「待ってテュー。盛り上がってるところ悪いんだけど、瞼にはどうやって攻撃するのよ。あの巨体の上側に瞼があるんじゃ攻撃のしようがないわ」
そうウチらにはそこまで跳躍力はなかった。下を向いてくれるならまだしも上を向いているのでは剣を届かすことが叶わない。
「ちょうどいい台があそこにあるじゃないか」
そう言ってテューはこの部屋の右奥にある壁を指差した。そこには人が待機できそうな足場があり、そこへ上るための階段も整備されていた。
「あれは?」
「おそらくこの部屋に登ってきた魔物を遠くから仕留めるために用意された見張り台だろう」
ちょうど反対側にもそれと同じようなものがあった。
「そういうことね」
ウチはテューの言わんとしていることが分かった。
「そういうことだ。あの位置でやつをカーブさせることができれば攻撃を当てられる」
猛スピードで転がる敵に攻撃をしようとしてもウチらの剣など簡単に弾き返されてしまうだろう。だがどんなものでもカーブのタイミングでは必ず減速をする。そのタイミングならば私たちでも攻撃できるということだ。
「台は二つしかない。おそらく俺たちが駆けつけた頃にはトールたちは限界を迎えているはずだ。トールたちを除いたこの四グループを三グループに分け、二グループは各見張り台で待機。そしてもう一グループは囮役をする。そしてその役割分担だが、俺たちサポートグループが囮を引き受ける」
クラス一位であり、国に認められるほどの頭脳を持つ細作の参謀テュー・ル・グン。彼の機転のきいた作戦には彼自身にしか理解できない細かな部分があるのだろう。敵をどのように誘導するのかなどウチには想像もつかない。だからこそ本来後ろでみんなに指示をする役目のテューが前へ出て囮を引き受けるのだ。
ウチにできることはみんなが作ってくれる隙を活かしてやつを倒すこと。自分で言うのはちょっと恥ずかしいけど、ウチだって二つな持ちの端くれ。
「あなたにテンペストをお見舞いするわ」
ウチは頼もしい仲間に敬意を表しつつ、今の自分にできることを精一杯しようと思うのだった。
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ユナが去った後、俺たちは最大の試練を迎えることとなった。先ほどの攻めで半数の見方が大きなダメージを負ってしまったせいで下手に動きを見せるとそこを突かれてしまうため、身動きが取れなくなっていた。この中でアイツに一番攻撃を与えられているのはおそらく俺だ。瞼への攻撃も踏まえ十分にヘイトを変えているはず。
俺は大きな声でグランドガントレスに向かって挑発をすると、倒れて起き上がれなくなっている生徒から離れるように走り出し、攻撃に巻き込まない位置まで敵の意識をそらす事で戦場を調整した。
「来いよ化け物。その不細工な眼球に俺の剣ぶち込んでやるからよぉ」
もしこの魔物に口があれば今の挑発は流石に発狂しながら俺に殴りかかってくるレベルだろうなと思いながら、俺は腰を低く構え敵の攻撃に備えた。飛んでくる拳の雨をなんとか耐え抜いていると、突然三本の腕は力を失ったように地面へと落ちていく。正面を見れば体を支えていた一本の腕の元にテューたちの姿があった。
「遅くなったなトール。よくここまで持ちこたえた」
「ったく遅すぎなんだよ。マジで死ぬかと思ったぞ」
「悪りぃ悪りぃ。でももう大丈夫だ。お前たちは負傷者を回収して安全圏で待機していてくれ」
「そうさせて貰うわ」
すでに俺の体には投げつけられた石やグランドガントレスの拳を受け幾つもの切り傷や痣が付けられていた。正直立っているのも辛かったところだ。俺は「後は頼んだぞ」と一言残すと、まだ動けるものとともに負傷者を担ぎ比較的安全な入り口付近へと向かった。
ただ一つだけ気になることがあった。巨大な岩の魔物。ダメージを受けるごとに防御を捨て攻撃力を上げていく。その戦闘スタイルが行き着く先は……。いや、考えすぎか?
この時俺の目にはグランドガントレスの眼球は先ほどより赤みを帯びているように見えた。
とおるA「なんとなく! それで分からなかったら全部の場所試す。粘り強くいこうぜ!」
作者「今回の『第45話』を持ちましてこの作品も10万文字を達成することができました。これも日ごろ応援してくださる皆様のおかげです。まだまだ底辺を抜けられないポンコツ作家ですが、今日のとおるくんが言っているように『粘り強く、気合いと根性』を持って読んで楽しい、書いて楽しい作品を目指して頑張っていきますので、これからもよろしくお願い致します」





