第41話『Q.新しい陣形はどうですか?』
金属が岩に当たり震える音が鼓膜を震わす。敵は未だ俺たちに向かい攻撃を繰り返している。
「焦るな! 陣形を保ちながらゆっくり距離を縮めればいい!」
「了解!」
俺たちが今戦っているのはトカゲのような見た目の魔物だ。リザードマンと言うらしい。
リザードマンの攻撃はこれまで戦ってきた魔物と異なり、近接戦闘だけでなく水鉄砲のような遠距離攻撃も兼ね備えていた。そのため俺たちは近付こうにも攻撃がかわせず苦戦を強いられている状態だ。
テューが指揮を取ってくれているおかげでなんとか戦えているが、今の俺たちのチームワークではリザードマンを突破できそうになかった。
「敵は三体。でも近づけないんじゃ……」
今の厳しい状態に唇を噛むティナ。他のメンバーも打開策が見つからず焦っていた。
俺たちが今使っている陣形は鶴翼だ。第四階層まではこの形を取れば敵を閉じ込め倒すことができた。それは相手が必ず近接系の攻撃しか持っていなかったからだ。だが今は違う。相手をこちらに引きよせようにも、こちらに向こうより脅威となる遠距離攻撃がないためただひたすら遠くから攻撃をされている。俺の魔法はそれなりに使えるだろうが、MPが足りな過ぎてすぐに使えなくなってしまう。そんな諸刃の剣をあてにした作戦など立てられない。だがこのジリ貧な現状を打破できる可能性がある陣形を一つ知っていた。
「なぁテュー、一旦俺に指揮権くれないか?」
「――新しい陣形か?」
「あぁ」
「そんなすぐにできるのか?」
「分からない。でもやる価値はある」
「……オーケー。みんな! 一旦トールの指示に従ってくれ!」
一度前進する足を止め俺の言葉にみんなの意識が向いているのが分かった。俺は素早くかつ分かりやすくこれから行う陣形についての指示を始めた。
俺が提案した陣形は『蜂矢』と呼ばれる、矢印型の陣形だ。矢印の後方に大将を置きそこを背後とし敵と対峙する。突破力が高い反面包囲されると非常に脆い一面がある。だが、今いるのは周りを壁に囲まれた一本道。最高の状況だ。
ティナを先頭に、両サイド後方にユナとポール、俺がその後ろでテューが最後尾だ。
指揮権をテューへと戻した俺はすかさず自分の持ち場へと戻る。そして――
「突撃、開始!」
テューの一言で俺たちは一斉にリザードマンへと走り出した。襲いかかる水弾はティナが全て剣で撃ち落としている。
一本の矢がリザードマン三体を貫通していく。振り返るとそこには先ほどまであんなに苦戦していたリザードマンの残した魔石が転がっていた。
「こんなあっさり」
正直俺も驚いた。こんなにうまくいくとは思っていなかった。俺が無言で苦笑いをしている前でユナは言葉を我慢できず漏らしていた。
この陣形はこうしたダンジョンの地形と相性が良いようで、俺たちはこの後この陣形だけで全ての魔物を群ごと突破していた。
そうしてやってきた第五階層の最終地点。このダンジョンは先人が攻略した時、五階層ごとに拠点を設置するべく次の階層の手前に広い部屋を用意していた。ちょうどメタルアントの巣のようなものだ。だが時を経てそこは魔物たちの巣となり、今では階層主と呼ばれる強力な魔物がそこを縄張りとしている。俺たちは遂にその部屋へと入るための扉の前まで来ていた。
「どうする? 私達だけで入ってみる?」
「いや、やめておいたほうがいいと思う」
ティナの確認に意を唱えたのは意外にもポールだった。自称このパーティで一番の臆病者。うん。ポールは自称が多い気がする。まぁそれはともかく、ポールは上手くいき続けているこの状況を不安視しているようだ。
この意見には他のメンバーも同意している。もちろんティナだってあくまで確認のために聞いただけだ。本気で自分たちだけで勝てるなんて思ってはいなかった。
「今日は他の陣形も試しながら戻るとするかねぇ」
俺たちはテューの指示を受け人生を保ちながら拠点へと戻った。
■■■
「なに? 階層主の部屋まで到達しただと?」
大きな声を上げているのは俺たちの担任の先生だ。その声を聞いてデイヴォリッド先生がこちらへとやって来た。
「このダンジョンは長年放置されていたものだ。恐らくフロアボスも再び現れているはずだ……これより、レイドを編成する! 被害を出すことなく階層主を撃破せよ!」
俺たちの初のレイド戦が迫って来ていた。
とおるA「見ろ! 魔物がゴミのようだ!」





