第38話『Q.あなたにとっての特別な言葉は?』
昨日は投稿できず申し訳ありません。
ジャイアントメタルアントの体はその名の通り鋼鉄の鎧をまとったように頑丈だった。
俺はガス欠寸前のスタミナを惜しむことなく使い、目の前のラスボスへと立ち向かう。しかしその鉄壁の硬さにとって俺の剣など新聞紙でチャンバラごっこをしているも同然。どう見てもダメージ一つ入っているようには見えない。
メタルアントの攻撃自体はこのまま動き続けていれば避けられる速度だ。だが、それでは俺の体力がもたない。それに――
「あぁもう鬱陶しい!」
通常サイズのメタルアントもただボスの後ろから見ているわけではない。隙を見て俺へとと襲いかかってくるものがチラホラいる。一斉に襲いかかってこないのはボスの邪魔をしないためだろう。なんとか剣で振り払ってはいるが、予想以上に体力を削られる。体当たりを食らったのも一度や二度ではない。MP無駄遣いできないからステータスを見れないが、どうせまた俺のHPはゼロになってるに違いない。
「ちくしょう……こうなりゃやけだ!」
俺は無茶に無茶を重ねる覚悟を決めた。勢いよくジャイアントメタルアントめがけて突っ込むと、俺は刃先を下向きに両手で剣を持つと力一杯ジャイアントメタルアントの左前足めがけて振り下ろした。
「皮膚が頑丈なモンスターとか巨大生物と戦う時はとりあえず関節狙えだったっけ?」
俺が剣を差し込んだのは前足の関節だった。やはりメタルアントといえど関節まで固めてしまうと動くことができないようで、胴体と足のつなぎ目や脚と足のつなぎ目などには胴体ほどの硬さはないようだ。
「おぉ効いてる効いてる」
ジャイアントメタルアントの悲鳴を聞き俺は辛うじて戦えているのだと思えた。なんとか目の前の絶望的な状況に立ち向かうことが叶っているのは地球で得た知識のおかげだろう。
「案外いけるかも……」
物事がうまく言っている時、人は心の中に余裕を持つことができる。余裕は良い方向に働けば動きを良くしたり、頭が回るなどの効果がある。しかし余裕とは決して良い方向だけに向かうものではなかった。
――余裕は油断を生み出す――
俺はこの巣に迷い込んでしまった時と同じ過ちを繰り返してしまった。
「このまま関節狙って胴体と脚バラバラにして倒してやるよ」
俺はそう言って再びジャイアントメタルアントへと飛び出した。しかし俺は理解していなかった。
一体誰がさっきまでのジャイアントメタルアントの攻撃が全力だったと言ったのだろうか。
気付いた時には俺が狙いを定めたはずの足はそこにはなく、それどころか俺の体はその脚の一撃によって吹き飛ばされ壁へと打ち付けられていた。打ち付けられた衝撃で俺は人生で初めて血反吐というものを吐いた。壁が崩れ、同時に俺の体も落下していく。辛うじて受けには取れたものの体へのダメージがあまりにも大きかった。確実に俺の人生で一番強烈なダメージだ。あばらも二、三本目じゃ済んでいないはずだ。
「ちきしょう…………いてぇ……」
だめだ。止まるな……。早く立たないと。
薄れゆく意識の中、体の感覚が麻痺していくのがわかる。メタルアントたちはこれを後期と見たのか、俺を一斉に囲む。そして警戒心を緩めることなくじりじりとその距離を詰めてきている。
やばい。もうダメかもしれない。
そう思った瞬間、俺はここに召喚される前の地球で過ごした日々を思い出していた。そして大切な言葉を思い出した。
――どうせここで終わるなら、あと一歩。もう一度だけでも良いから立ち上がれ!――
「クソコラァ! 俺の根性なめんじゃねぇぞ!」
叫ぶと俺の体には力が湧いてきている気がした。どうやらその気迫はメタルアントたちにも強く伝わったようで、俺がもう一度周りをにらんだ時にはメタルアントたちは距離を取り直し警戒心を強めていた。
俺は壁に打ち付けられた時に落としてしまった剣をもう一度取ると、合言葉と共にラスボス『ジャイアントメタルアント』へと向かい飛び出した。
「根性見せろとおる! 気合いだぁ!!」
俺は再び剣を両手で握ると、今度は後ろ足の関節めがけ剣を差し込んだ。剣は……届いた。
「さて、ここからがとおるのビリビリショウの始まりだぜ」
そして俺は覚えたての呪文を唱える。
「ザップ!」
指先に小さな魔法陣を発生させると、小さな稲妻を発生させる。稲妻は剣を伝いメタルアントへと感電していく。
ザップとは静電気だ。攻撃としての威力はそれほど高くはないが、というかほぼないが、受けた側は一瞬体が痺れ動けなくなる。俺はその一瞬を見逃さない。俺は剣を抜くと逆脚へと飛び移り再び関節目掛けて剣を突き刺した。剣に貫かれた脚は、まるで機能を停止させた機械のように崩れ落ちている。
「あと三本」
俺はそろそろザップの効果が切れると判断し、一度ジャイアントメタルアントから距離を取る。現在破壊に成功した脚は全部で三本。右前足、右後ろ脚、左後ろ脚だ。
恐らくジャイアントメタルアントの運動機能は半分以上削がれているはずだ。しかしもう油断はしない。目の前の敵には地球の常識は通用しないのだ。もしかすると脚が再生し振り出しに戻ることがあるかもしれない。
そこまで考えた時、俺は異変に気付いた。メタルアントが動き出したのは俺が距離を取り呼吸を落ち着かせたあとだったのだ。ザップにそこまでの持続時間は無いはずだ。
「頑丈なメタル装甲が仇となったな」
どうやらメタルアントたちは魔法に怯えていたわけでは無いようだ。恐れていたのは雷だ。どおりでサンダーボルト程度であそこまでヘイトが買えるわけだ。
今日の俺のMPは残り8だったはず。ライトニングボルトでもあと四回は打つことが可能。
「そうじゃなくても出し惜しみしている余裕はないよな」
俺は再びジャイアントメタルアントへと向かい走り出すと右手を胸の前に構え呪文を唱えた。
「ライトニングボルト!」
とおるA「気合いと根性は嘘をつかない!」





