第33話『Q.仲間のピンチは?』
王国の紋章が刻まれた銀色に輝く大きな鎧。その背中はこの世界に来てから見たどの背中よりも頼もしく、俺たちを安心させるものだった。
「大丈夫かい? よくここまで持ちこたえたね。あとは我々に任せてもらおうか」
そう言って、その騎士は腰につけた剣をゆっくりと抜くと目の前の魔物へと向け構えた。
一瞬の静寂ののち、動きを見せたのは魔物側だった。先ほどまでと同じように影を伸ばし、その勢いで突進を図る。しかし今度はただの突進ではなかった。前足についた鋭い爪を振りかぶり、攻撃の構えをとっている。
しかし目の前の騎士には何もかもが無駄だったようだ。静かに目を瞑った銀色の騎士は、魔物が射程圏内に入ったと同時に剣を振り、その攻撃を防ぐにとどまらず、数十メートル先まで吹き飛ばしてしまった。
これにはどうやら魔物側も驚いているようで、警戒するように両足を立てて低く構えている。
しかしその警戒も虚しく、銀色の騎士の横を風のようにすり抜けて行った他の三人の騎士がそれぞれ豪快な一撃を魔物へと食らわせ、魔物は力尽きたようにその場に倒れ込んだ。やがて砂のように崩れた魔物は半透明な紫色の意思を残し跡形もなく消えて行った。
俺たちは目の前で起こるハイレベルな攻撃に目を奪われていたが、騎士たちが腰へと剣を戻した音を聞きはっとなりテューへと駆け寄った。
「おい、テュー大丈夫か!?」
「うっ……っ……何がどうなった」
よかった。意識が戻ったみたいだ。
テューは頭を抑えながらその場に起き上がると、状況把握のためか辺りを見渡している。
「お前がシャドウウルフに食われそうになっているところをこの騎士様たちが助けてくれたんだよ」
俺が早口で事情を説明していると、銀色の騎士様が俺たちの側へと歩み寄り声をかけて来た。
「君たち相手が何かわかっていたのか?」
「シャドウウルフですよね?」
俺が素っ頓狂な声で返事をすると、銀色の騎士様は俺の頭に優しく手刀を入れて来た。
「そうだ。シャドウウルフだ。この近くにある魔森に生息する中でもレベルの高い魔物だ。それに素手で挑むとは何事か」
それはそうだ。俺だって逃げたかった。でも俺たちは騎士を目指しているから。目の前で俺の惚れたメインヒロインが襲われそうになったら――。
「逃げるわけには行かないじゃないですか。俺たち、騎士を目指してるんですから!」
まっすぐな視線を目の前の、本物の騎士へと向ける。ユナも、ティナも、テューも、俺のこの言葉に「当然!」というように笑っている。
それを見た銀色の騎士はため息をつくと空に向かって小さく呟くのだった。
「まだ、お前たちみたいな騎士がいたのだな……」
俺はその言葉の意味は理解できなかったが、何か大きな問題を抱えているような気がした。しかし今の俺の頭の中は別のことでいっぱいだった。
この後任務を終えた国家騎士たちは俺たちに「今回はお手柄だったが、もうこんな無茶はするんじゃないぞ!」と言葉を残しその場を去って行った。
俺はその背中を見て思うのだ。
「か……カッコいい」
俺もいつかあんな騎士になりたい。鎧の輝きに負けない磨き抜かれた剣の技、そして強さを感じさせるオーラ。今の俺には到底届かない高み。でも、今日それを見て、本物を見て再確認した。俺は国家騎士になりたいと。
「みんな、絶対国家騎士になろうな」
「何言ってんだよ今更」
畜生。俺の新たな決意にチャチャを入れやがって。お前が気絶している間それがなくて寂しかったんだぞこの野郎。
「でも本当に凄かったわね」
「そうね。まさか騎士団長様が出てくるなんて……」
ん? 待って? ティナさん今何と申しましたか?騎士団長? え? うそ? もしかして……。
「あの銀色の騎士って、この国の騎士団長様?」
「え? あまとう知らなかったの?」
「知るわけないだろ! この前王都に来たばっかなんだから」
マジかよ。通りで強いわけだ。そうか、俺は騎士団長に憧れてしまったか。
「これはなるしかないな」
「言わなくてもあまとうが何になろうとしてるかわかるぞ。だが俺から一言言わせてくれ。そういう事は俺に勝ってから言いな!」
「さっきまで気絶してたやつが何言ってるんだよコンニャロめー!!」
俺はその場に置き去りになったシャドウウルフの魔石を手に取るとテューへと向かって投げ飛ばした。
テューはそれを軽々しくキャッチすると投げ返しながら言い返してくるのだ。
「あまとうなんて最初びびって逃げようとしてたくせに」
「おま……途中からちゃんと俺も戦っただろうがぁー!」
「やーいビビりぃ〜」
「てんめぇぶち殺してヤルァ」
「やめなさい!」
俺たちの醜い小競り合いはティナの拳骨によって強制的に終了させられた。
二人揃って後頭部を抑えながら起き上がるとようやく乗り切ったという実感が湧いて来て、全身のこわばっていた筋肉が緩んでいくのを感じた。
「そ、そろそろ帰りましょ?」
「そうだな」
もう動く気力もないというような様子の俺たちがったが、ユナの言葉に反応するように帰りの道を歩き出す。
その道はただの帰り道なのに、次のステージへ進むための大事な道のように思えるのだった。
さて、明日からまた頑張るとしますか。
とおるA「蜜の味じゃないからね! 俺そんな冷徹じゃないからね! まぁいいネタにはなるけど」





