第2話『Q.異世界に来て、やりたい職業は?』
「ここがうちの宿『ピース』だ!」
宿まではそれほど時間はかからなかった。ダグラスさんの宿は周りの石造りの宿と比べると見た目が少し……と言うか結構残念な感じの木製の宿だった。なるほど。だから外に出て客引きしたり、他の宿より安いんだな。まぁしかし、外見だけで判断するのは良くないよな! 人間と同じ! 中身を見なくちゃ!
「すいません。おまけしてもらっちゃって」
「いいってことよ! まぁでも、おまけしてでも客を呼びたい理由がわかっただろ?」
「あっはは……」
やめろ! 反応に困るじゃないか!
「でも安心してくれ! おもてなしはしっかりとさせていただく。――それにうちの売りは見た目じゃないんだ!」
ダグラスさんは頭をカリカリとかきながら自信なさげに話していたが、ドアを開けながら中を紹介するときの彼は、自信たっぷりのいい顔をしていた。
「――おおぉ!」
思わず声が漏れる。やはり中身を見なくては! 宿の中には、高価なものは無いが工夫を施した家具や飾りが沢山並んでいた。俺はロビーのはじに置いてあるソファーのような椅子に座った。
――なんだろう……とても安らぐ……これいいな。
「気に入ってもらえたかしら? うちには他の宿のような立派なものは無いけれど、少しでも安らげる空間を作ろうとちょっとした工夫をしているのよ」
気持ち良さそうに目をつぶって首の力も抜きよしかかっていると、エプロンをつけた綺麗な女の人が声をかけてきた。
「はい。とてもいいですね。すごく落ち着きます」
「どうやら気に入ってもらえたようだな。コイツは俺の妻のエリシアだ」
「エリシア・オルロッツです。この度はうちの宿をご利用いただき、どうもありがとうございます」
「いえいえこちらこそ。天草とおると言います。今日から宜しくお願いします」
初めは椅子に座ったまま話をしていたが、挨拶されたのですぐに立った。挨拶されたら立たないとね。やっぱ礼儀として。
それにしても、エリシアさん……まじ美人。主人のいかつい顔とは正反対に、すごい優しそうな顔だ。スタイルも良いし、ダグラスさんズルすぎるんですけど。いいなぁ……俺もそろそろヒロインとの出会いとかないかなー。
「それで? トールはこれからどーするんだ?」
俺は再びソファーに座り、ダグラスさんとエリシアさんは近くの椅子に座り話を続ける。
取り敢えず挨拶も終えたし、次にやることは……ファンタジー世界だしやっぱり冒険者になるところからかな?
「そーですね。仕事を探したいと思います。この世か……王都にはどんな仕事があるんですか?」
危ない危ない。危うく世界とか言うところだった。そんなこと言ったら完全に異世界の人だってバレるじゃねぇか。ちゃんと注意しないとな。
「そうだな、やっぱ一番安定するのは騎士団に入ることかな」
おお! 騎士団! いい響きやー。
「でも騎士団はちと厳しいかもな。毎年入団試験があるんだが、倍率がエグくてな。去年は百倍だったそうだ」
なるほど。それは難しそうだ。でも俺召喚者だからな。ちょっと挑戦してみようかな。
「他には冒険者とか、鍛冶屋とか、武器屋とか……あとは情報屋とかかな。まぁ兄ちゃんには情報屋は無理そうだが」
「あっはは。まぁそーですね」
ウッヒョ〜! スーパーファンタジーっぽいのきたー!! どうしようかなぁ冒険者にすぐなるのもいいけど、元騎士団の冒険者とか言う肩書きあったらかっこいいしなぁ……。
「その、騎士団の入団試験はいつやるんですか?」
「あぁ明日だよ」
「なるほど明日ですか……え?」
「え? もしかして受ける気か?」
「っと思ったんですけど、でももう受付終わってますよね……」
「今日の十五時までだ! 今は十四時四十分だから走ったら間に合うぞ!」
「え、ちょちょちょちょっと行ってきます!」
なんなんだよもーまたギリギリかよ! ってか随分ギリギリまで受付してるんだなおい。
こんな時ワープできるドアとか、指をおでこに当てたら瞬間移動できるとか、そーゆうの無いかなーってつくづく思うよ。
俺は勢いよく宿を飛び出し、全力疾走で受付場所まで向かった。
この後ギリギリ三分前に受付までたどり着いた俺は無事に受付を終え、宿に戻るのだった――。
さて、帰ってゆっくりした後は待ちに待ったファンタジー世界初の食事だ! 一体何が出るのか楽しみだぜ! 俺はスキップしながらピースまで戻るのでした。
とおるA.「騎士と冒険者と鍛冶屋と盗賊と魔王と……あと勇者!」