第24話『Q.トラウマの克服方は?』
結果から述べよう。――――やっぱ辞めよう。
さてさて、今回もおふざけ全開で参りたいと思うのだが、試合自体は本気でやっている。相手は一目惚れした俺の異世界漂流物語のメインヒロイン。ここでいいところを見せて好感度を上げたいところ……。しかし、正直なところ俺にそんな事を考える余裕などなく、現在ユナの攻撃が速すぎて半分……とまではいかないが、体感それくらい躱せずにいた。いわゆる、防戦一方というやつだ。いや、現状はそれよりはるかに悪い。すでにHPは0だ。じりじりと疲労が溜まっていく。HP0の状態だとスタミナに影響を及ぼすようだ。誰だこんな底ステータスにしたやつは……。
そんな時、コレまでよりはるかに遅い攻撃が飛んできた。だが、明らかにコレまでの一撃よりも重い攻撃だ。これを受ければ俺は確実に失神するだろう。狙われている場所が……またしても脇腹。トラウマが蘇る。なんでみんな脇腹狙うの?そんなに俺をいじめて楽しいか! だが――。
「流石に……ね」
流石の俺も学習する。俺はそれを難なく受け止め、余裕そうな表情を見せた。
ユナも体勢を崩している。今なら攻撃を当てられるかもしれない。
「やるわね。でもっ――」
「俺がそう簡単にやられるとてもおも――」
ユナが何かを言ったその後から、俺には記憶がない。恐らくこの時俺は気絶したのだ。微かに残る痛みは……頭から来るものだった気がする。
――リプレイ。
■■■
試合開始とともに私は飛び出した。これまでの試合を見る限り、とおるは相手の癖や弱点を見極める能力に長けている。しかし、その力はまだ未成熟。解読には時間がかかるようだった。この試合、あまり時間をかけすぎると私の負けだ。とおるが私の動きを見切るのが先か、私がとおるを削りきるのが先か……今回も時間との勝負になりそうだ。
「私の王子様の実力、見せてもらおうじゃない」
小さくそう呟き、攻撃を開始する。
――おかしい。これまで見てきたとおるの試合展開は、攻撃を躱しきってから一撃で仕留めるというものだった。だが今回は違う。いや、大きくは違わないのだが……攻撃が当たる。少なくとも三割……いや、四割は当たっているだろう。これでは私の動きを見切る前にHPが全損してしまう。一体何を企んでいる……いや、そんな事は考えなくていい。ただ思いっきりぶつかる。それでいいんだ。
私はさらに勢いを上げて攻撃をした。そして、あと一撃でHPがレッドになるであろうところまで追い詰めた。――今だ!
「やぁぁぁぁ!」
一旦左に逸れてから、脇腹を狙った攻撃。
この時私はようやく気づいた。――全て誘導だったことに。
その攻撃は難なくとおるの件で弾かれてしまう。その時彼は、「流石に……ね」と言ったのだ。
体勢が僅かに崩れる。
ヤバイ。ここで攻撃されたら躱せないかもしれない。でも諦めない。全力で……思いを剣に乗せてぶつけるんだ!
「やるわね。でもまだ諦めないから!」
右足を下げ、傾く体を支えると、そのまま思いっきり踏み込んで正面へ。速攻で剣を上から頭めがけて振り下ろした。その間僅か一秒。恐らく今までのどの動きよりも速かった。自己ベストだ。
だがそれも苦し紛れの一撃。いくら速かろうが罠にかかったネズミだ。攻撃など当たるわずもなく、逆に私へと剣が振るわれる。
ガーン! と鈍い音が闘技場内に響き渡った。
「あ……あれ?」
目の前に大きなたんこぶを頭につけた少年が倒れている。
倒れたのはとおるだった。
私を危機から救ってくれた王子様は……どうやら私より弱いようだ。
■■■
ここでようやく結果を伝えよう。
俺の完敗だ。
試合後、例のごとくヒールの魔法で回復させてもらった俺たちは、観客席に戻り次の試合……つまり、このトーナメント戦の決勝戦を今か今かと待っていた。
「ユナはやっぱり強いね。俺じゃ手も足も出なかったよ」
「それね。とおるはまだまだ未熟者だわ」
得意げに答えるユナ。
俺たちは今、隣の席に座っている。正直決勝戦も楽しみだけど、心臓ばくばくでそれどころじゃない。ーーあぁテューよ。めいいっぱい時間を使って試合をしてくれ。そうすればこの時間を長く楽しむことができるから。
心なしかユナの頰も少し赤いようにも見えるが……恥ずかしいのかな。いや、試合終わったばっかりだからか。話を途切らせると気まずくなる。ここは男の俺が話を振らなければ……。
「そう言えばさ、俺最後の記憶がないんだけど、一回攻撃受け止めた後どうなったの?」
「あ……えっと、正面に回り込んで頭めがけて剣を振り下ろしたのよ。記憶がないのはそのせいね」
緊張して声が裏返る。ユナも緊張しているのか、どこかよそよそしい。
ちょっと意識しすぎだろうか。やけに肩の距離が近くに感じる。もうちょっと傾けたらくっ付きそうな……そんな気がして心臓が鳴り止まない。
いかんいかん。ドキドキしてる場合ではない。言葉を投げ返さなければ……。頭に残った痛みは夢ではなかったようだ。まぁそこはいいんだ。問題はその前。
この後、入団試験での脇腹のトラウマを話してすごく謝られた。
「くふ。はははは」
「ふふふ」
申し訳なさそうに謝るユナを見て、俺は何故か笑えてきてしまった。ユナもつられて笑い出す。
なんだか今の会話で少し吹っ切れた気がした。使徒に自分の過去を話したりするのって結構効果あるんだな。ちょっとは進展したって考えてもいいのかな?
そんな甘酸っぱい青春をしているうちに、決勝戦の準備は整い……。
――睨み合う二人がそこにはいた。
とおるA「気合いだー!!」





