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第23話『Q.女の子と夢といえば?』

 ――これで何回目だろうか。

 観客の視線が集まる中、私は目の前の相手に集中していた。これから始まるのは、騎士学校始まった次の日から急に始まった、模擬トーナメント戦と言う名の、現時点でのクラスランクを見極めるテスト――その準決勝だ。

 相手は幼馴染で親友のティナ。テンペストという二つ名を持つ彼女は、同じ騎士を目指すものとしては目指すべき目標で、親友としては誇りである。幾度と無く共に乗り越えてきた稽古の数々。その中には勿論模擬試合も――。そう、私はこれまでに一度もティナに勝ったことがない。


「ユナと模擬試合するのなんて久しぶりだね! 二年前のアレが最後だっけ?」


 片手で軽々しく持った剣を右肩に乗せながら、ティナは余裕そうにそうやって話しかけてくる。いつもの事だ。私はいつだって本番になると不安になって、弱気になって、いつも出来ることもできなくなってしまう。逆にティナは本番に強い子だった。剣舞祭に出場すれば、必ずと言っていいほど毎回の様に素晴らしい成績を収めてきた。何度憧れたことか――私も、あんな風に出来たら。

 正直、今回も勝てるビジョンが見えない。でも――。


「そうね。アレからお互い強くなったと思うし、どんな試合になるか楽しみだわ」


 これまでのユナ・カストレアとは一味違うわよ! って言うハッタリをうまく伝えられただろうか……。渾身の笑顔で、目だけは力強く、自信がある様に振舞いながらそう放った私の言葉。ティナを強気にさせないための策だったのだが……どうやら逆効果だった様だ。ティナの瞳に、先程よりも激しく闘志の炎が湧いている。凄い迫力だ。まるで巨大な嵐が地面をえぐりながら迫ってくる様な気迫。

 さて、そろそろ試合が始まりそうだ。


 ――互いに誓って、全力で!!――


 心の中でそう唱える。それは私だけではなく、ティナも。これは小さい頃に決めた約束。手は絶対に抜かない。そして――


「試合、開始!!」


 合図と共に私とティナは走り出す。スピードは――――ほぼ互角。二つ名の通り、嵐のごとく降り注ぐ剣の猛打。それを私は、得意の回避術で素早く立ち回りながら避けつつ、反撃する。ティナの様に一撃一撃に大きな威力は無いが、確実に攻撃を加えていく。

 私たち二人の戦闘スタイルはハイスピードという点を除いて対照的。一撃でも食らえば即ダウンまで持っていく様な、爆発力のある攻撃を止むことなく繰り出し続けるティナと、一撃には致命傷まで持っていく威力は無いが、剣先を鋭くすることで速度と隙を減らした私。

 何も知らないものが見れば、攻撃を常に与えているのは私だ。ティナは劣勢に見えるかもしれない。でもそれは違う。時間をかけて追い詰めていかなければいけない私のスタイル。しかし、時間が経てば経つほどティナの攻撃が迫ってくる。私のスピードに追いついてくる。私の疲労が観客に伝わる頃には、完全にティナのターンがやって来る。

 私は一旦距離を取り、スタミナの回復を図る。


「……相変わらず嫌らしいわね。その剣技」


「……それはこっちのセリフだよ。でも、もう逃がさないよ!」


 お互いに息を切らせながら一言ずつ。

 ティナのHPは後どれくらいだろうか、流石にレッドゾーンまで持っていけば参ったと言わせられるはず……。後どれくらいだ。

 考える間も無く、再びティナの剣が私を襲い始める。


「……っ!!」


 ティナの猛攻をかわし続けて十分。遂にそれは私の身体を捉え始めた。右肩を剣がかすめてしまったのだ。ティナの剣は掠めただけでも私の一撃以上のダメージが入る。持ち手側の肩にダメージを入れられてしまい、私の剣先は鋭さを失ってしまった。いよいよまずい。

 それでも諦めたくない。アイツに――とおるにいいとこ見せたいから!


「やあぁぁぁああ!!」



 最後の力を振り絞って放った一撃は届いたのだろうか。私はアイツにいいところ見せられただろうか。そんなことを考えながら、私の身体はティナの一撃で呆気なく吹き飛んだ。そして、地面に叩きつけられる感覚と同時に、私は意識を手放した。





■■■





 夢を見た。

 女の子なら誰もが憧れる王子様との出会い。困った時に駆けつけてくれる、上品でイケメンな……そんな王子様に助けられる夢を、誰だって夢見たことはあると思う。

 生憎、私は物心ついた頃から騎士としての稽古を受けてきていた。そのお陰というか、せいもあって、私は困った時には自分の力で解決し、むしろ困っている人を助ける側にいる存在だった。


 ある日の夜。私は厳しい稽古を終え、クタクタになりながらも、外の空気が吸いたくなり王都の街を散歩していた。月明かりの綺麗ないい夜だった。しかし、次の瞬間景色は一変する。路地に何か光るものを見つけ、それを確認しに行ったところを、三人組の不良男子に囲まれてしまったのだ。スピードに自信はあったものの、囲まれてしまったことで、稽古終わりでクタクタというのも重なり、何よりこういった状況に弱い私は、逃げ出すことができない状態になってしまった。不良達はいやらしい目つきで近寄ってきて、私の体に触ろうとして来る。恐怖で足がすくみ動けない。こんな時に臆病な性格が出て来るなんて……。全てを諦めかけたその時――彼は現れた。

 呑気な声で私と不良達の間に立つと、彼はこう言った。


「嫌がってるじゃないか!その子を離せ!」


と――。

 顔はよく見えなかったが、その背中には今までであったどの男の子よりも頼もしさがあった。彼は不思議なアイテムを使って、無駄な争いをすることなく見事不良達を撃退。その後も、足がすくんで立てなくなっていた私に手を差し伸べてくれて、私が落ち着くまでジョーク混じりの会話をして、一緒に居てくれた。ライトソードじゃないのは知ってたんだけどね。そして私が落ち着いたのを確認すると、彼は名乗りもせずにその場を去ってしまった。

 私の、夢にまで見た王子様との出会い。

 ちゃんとお礼がしたかったのに……。でも探す手がかりがないわけではない。それは、彼が最後に残した不思議な言葉。


「バイバイキン」


 ――事件から十数日。

 私は今年から開校される、『国立騎士学校』へと通い始めた。代表挨拶や色々な式を終え、空き教室で着替えをしようとドレスを脱いだその時、背後で何かがずれる音がした。慌てて肌を隠し、確認をする。


「誰?」


 そこにはクラスメイトのとおるが居た。とっさに怒鳴ってしまったが、落ち着いて考えてみれば、後から入ってきた様子は見られなかったし、私が後から入ってきて、彼に気付かずに着替えを始めてしまったから慌てて隠れたのだろう。だがそれに気づいたのは家に帰ってからで、それまでに散々ひどいことを言ってしまった。

―そして最後に校門で彼と別れる時に、再びその不思議な言葉を耳にする。


「じゃあ、バイバイキン」


「っ!!」


 慌てて彼を呼び止め、強引に先日私が絡まれた場所まで連行する。そこで私はあの不思議な言葉についてと、ここに来たことがあるかとを聞き、それはほぼ確信へとなった。この人が、とおるが私の王子様だ。――と。

 顔はイケメンとは言えない。性格や服装(制服の着こなし)も、上品とは言えない。しかし、彼が私の王子様だと思った瞬間から、私は彼の顔を直視できなくなってしまった。

 あれから三日。お昼の時間以外にまともに話せていない。


 回復魔法の効果で意識を取り戻した私はティナと共に観客席へと戻る。十分の休憩時間を挟めば、次は三位決定戦。王子様(とおる)との試合だ。もちろん手を抜く気は無い。私の王子様の実力、見せてもらおうじゃない。いつもはうまく話せないけど、剣でなら素直になれるから。

 そんなことを考えていると、時間はあっという間に過ぎ――。


「いい試合にしましょ!」


「おう! お互い頑張ろうな!」


今、試合が始まる――。

とおるA「お花みたいなケーキ屋さんのアイドル!! ……なんか混ざった気がする」

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