第1話『Q.異世界転移後まずする事は?』
なまら=とても
という意味の北海道弁です。
「え? ハズレ? なにそれ?」
突然のハズレ通告。っていうかこれはどういう状況だ? 紫のフード付きのマントを羽織る、片目にバツ印の付いた眼帯をつけた爆裂……は関係ないな。魔法使いらしき少女がそこに居た。ーーいや、これは少年だな。髪が長かったので一瞬少女かと思ったが、ズボンにチャックがある。ーーちなみに空いている。見た感じこの少年により異世界へと召喚された感じだと思うが……えっと、まじで? 夢じゃ無くて?
「お前じゃステータスが低すぎて話にならないってことだよ。まぁでも、召喚には成功したな……お前とは契約結ぶ気ないから。じゃあね」
どうやら本当に異世界に来てしまったらしい。しかしおかしいな。俺ってスペック高いはずなのに。チャックのこと教える前にテレポートしてしまった……すまん。
ーー俺の異世界ライフのスタートです!
■■■
「召喚されて十秒で捨てられたラノベ主人公なんて……世界のどこ探しても俺だけな気がする……」
あれからニ時間が過ぎた。日頃から異世界転生や異世界転移のシミュレーションをしていた俺にとって、異世界に召喚されるとか安パイ! と思っていました。なのに……なのになんですかこれは!
俺は何もない草原の一本道の上で一人クタクタになりながら王都を目指して歩いていた。
幸いファンタジー世界の知識はそれなりに持っていたおかげで、取り敢えず近くの町を目指せば良いことくらいは分かった。
「にしても……本当に異世界に来たんだなぁ」
俺は元いた世界に帰るべきだろうか……最近のラノベものは帰りたがらないけど、俺はやっぱ帰りたいな。あっちでやり残したことまだあるし、何より家族に会えないのが結構精神的に応えるんだよね。
「まぁ今は生きることに集中だな。こんな場所にいつまでもいたら、心地はいいが飢え死にする」
見渡す限りの大草原。空は青くなまら美しい。赤かったらクテゥルフ神話の萌えキャラたちと出会えると思ったんだけどな。まぁそれはそうと、そんな大空に一つ強烈な存在感を放ちながら浮かぶ島。正面には町……と言うか多分王都。ここからは町の中心にそびえる巨大なお城がはっきりと見えている。到着まであと三十分もかからないだろう。
「もぉ一踏ん張りだ。頑張れぇ俺」
ーーそれから三十分後、俺は王都だと思わしきところにようやく到着した。
だってさ、誰に聞いたわけでもないからここが王都かどうかなんて分かんないんだよ。周り見渡して唯一ちっちゃくお城が見えたから王都だ! と思って決て見たけど……うん。この賑わい方をみるに多分王都だ。
中世のローマの街並みを思わせる石造りの建物がずらりと並んでいる。道も綺麗に整備されており、これで大きな街じゃないと言われたら俺は確実に「馬鹿な!」と叫ぶ自信がある。ーーしかし、機械などの元いた世界の近代技術はまだこの世界にはないようだ。
「ヘイ兄ちゃん! 王都は初めてかい? 地方からご苦労さん。宿決まってないならうちに来なよ! もてなすぜ?」
ほら見たことが。やっぱり王都だ。
「すまん。嘘だ。ここ王都じゃなねぇ」
アホな! ……じゃあ何処だよ。
「こっから一歩先が王都だ!」
知らんわ! 大した変わんねぇよ。……ってそんな場合じゃねぇ。
武器屋にいそうなごっついスキンヘッドのおじさんが肩を組みながらからんで来た。ヤベェマジ怖ぇ……とおるはどうする?
・戦う
・逃げる
・モン○ターボール
・土下座
はい。結論。怖くて何も出来ません。
「あーすまんすまん。ビビらせちまったみたいだな」
はい。
「俺は宿屋のダグラス・オルロッツだ。ダグラスと呼んでくれ。宜しくな!」
……どうやら怖い人ではないようだ。一度深呼吸をし、冷静に受け答えをする。
「ど、どうも。天草とおるです。宜しくお願いします。ダグラスさん」
「トールって言うんか! 王都へようこそ! それで、宿の方はもう決まってるかい?」
「いえ、まだです。なるべく安いところが良いのですが……」
俺は、名前のイントネーションがなんとなく違うことが気になりながらも、宿代の値切りに取り掛かろうとした。ファンタジーと言えば値切りだもんね。
「うちは三食つけて一泊銅貨五枚だ。他の宿なら銀貨六枚は最低でも取るだろうからやすいと思うぜ?」
「すみません。実はーー」
俺は現在一文無しなことをダグラスさんに伝え、銅貨四枚で負けてもらえることになり、宿を出るときに後払いすることを約束した。
ついでにお金の単位について教えてもらったのだが、やはりと言うかなんと言うか、そんなことも知らんのかと言われてしまった。召喚されたと言えば納得してくれるのだろうが、やはりここは召喚されたことは隠すのがテンプレートだからな!
金貨一枚=銀貨十枚=銅貨百枚らしい。
なるほど。つまり白金貨幣一枚は金貨十枚と同じ価値という訳だな。ーーうん。バカでも覚えられる。実にいいシステムだ。距離とかリットルの単位みたいに変動するやつだったら絶対覚えられなかった。ただ一つ、コインが百枚で銅貨一枚と同じだということを除いて……なんでそこだけゼロひとつ多いんだよ!
「そんじゃ、宿に案内するぜ! 付いてきな」
俺はダグラスさんに誘導され、異世界初の宿へと向かうのだった。
とおるA.「絡まれる!」