第9話『Q.入学式といえば?』
レンガの道を歩く。
新しい道を行く。
この世界に来てまだ数週間しか経っていないが、嫌という程現実を見せつけられた。
俺はそろそろ回想シーンが流れてもいい頃合いだろうと思いながら新たな人生を歩み始めるのだった。
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俺は天草とおる。元高校ニ年のライトなオタク男子だ。部活にも所属していて、クロスカントリースキーと言う別名冬のマラソンと呼ばれる雪国のスポーツをしていた。
それがどういうことか異世界に召喚され、その十秒後には捨てられるという始末。どうやらステータスがゴミらしく、話にならないのだとか。自称高スペックな俺はその事実が認められず、冒険者ギルドに登録した。そこでみたステータスは予想をはるかに上回るゴミステータスだった。
今危うくゴミステーションって言うとこだった。だってステーまで同じなんだもん。
まぁそんなことはどうでも良い。問題は俺の自意識過剰な部分にある。それを自分で言っちゃうところ。さすが俺、天才過ぎぃぃ!
俺はゴミステータスを見せつけられた。確かに見た。でも受け入れられなかった。だから俺は国家騎士団の入団試験でそれを証明しようとしたんだ。ーーでも無理だった。あばらが粉砕骨折するかと思った。
ここで俺はようやく理解した。俺は雑魚だーーと。
しかし俺の物語はここで終わるようなつまらんものではなかった。そこにはチャンスがあったのだ。『騎士学校入学生徒募集』の宣伝。俺はこれにかけることにした。
宿に戻ると、宿主のダグラスさんとその奥さんであるエリシアさんが俺を笑顔で迎えてくれた。すぐに結果を聞かれたが、俺が一次審査で落ちたと言うと、自分のことのように悲しんでくれて励ましの言葉をかけてくれた。この二人は本当にいい人達だ。
この宿には、王都に着いて辺りをキョロキョロしている俺を見つけたダグラスさんが、値段交渉をしたとは言え半ば強引に連れてこられた為、初めは期待をしていなかった。そしたらどうだろうか。部屋は俺好みでやすらぐわ、奥さんは超美人だわでもう大当たり。食事も高級な食材を使うのではなく、工夫を施された毎日飽きない料理に大満足だ。極め付けは、一文無しの俺の為に、ギルド登録代金などの資金をくれたこと。
支払い返金ももちろんだが、今度何かお礼をしたいな。
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そして今! 俺は国立国家騎士学校の入学式の会場いる。椅子に座って待つこと十五分。もう少しで式が始まるだろう。
今年から開校されたようで、俺はその一期生と言うことになる。対象年齢が十五〜十七だったので同期でも歳下は居ることになるが、ファンタジー世界ではあまり敬語は使われておらず、皆年齢を気にせず親しく話をしている。
入学に当たって用意しなければならないものがあった。制服。明るい灰色でダブルボタンのコートの様なロングブレザーに黒のズボンは男子用、同じく明るい灰色のセイラー服のようなブレザーに紺色でウエスト部分にダブルボタンが付いたハイウエストスカートが女子用。ネクタイは男女共に黒だ。教材。これはたいした量ではなかったが、主に言語の教科書を購入させられた。身分証明書……これは冒険者カードで問題なかった。そして最大の問題。ーーそれは入学金と授業料金の用意だ。先に述べた三つもそうだが、全てにおいてお金がかかる。俺にはお金がない。
さて問題です。そのお金どうしたと思いますか?
正解は…………ダグラスさん達が前払いしてくれました!
とはいかなかった。期待していなかったと言えば嘘になる。だが、ダグラスさん達はあまり裕福な家庭ではなかった。それなのにお金を貸してくれて本当に助かっているのだが、流石に今回のは大金すぎるとのことだった。ならばどうしたか……ギルドに借りました。総額二百十万ゼント。ゼントというのはこの世界のお金の単位だ。金貨一枚が一万ゼントと同じになる。宿代一泊銅貨5枚って考えるとーーまぁ無難なところかな。
さてさて、脳内解説をしているうちに開会式は始まり、すでに半分くらい進んだだろうか。
「続きまして、生徒代表『ユナ・カストレア』」
「はい」
あれ? 生徒代表? 入試があったわけでもないのになんでそんなものがあるんだ? もしかしたら俺の方法とは違う入学方法があったのかもしれない。
銀白艶髪のミディアムヘアに透き通ったエメラルドグリーンの瞳、身長は175センチの俺より一回り小さいくらいだろうか……制服の似合う可憐な、地元風にいうと、なまらめんこい女の子が壇上に上がり、挨拶を始める。
「可愛い……これだ」
これだよ! これこれ! 運命の出会いにしてはちょっと遠いかもしれない。でも間違いない。これは俺が求めていた物語だ! 最低辺からの成り上がり。リスタート地点で運命の彼女と出会う……これはアタックするしかない!
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退屈な入学式を終え、クラス分けの紙が張り出される。
「えっと天草、天草、あまくさ……あ、あった」
「あ、あった!」
声がハモった。後ろから聞き覚えのある声がする。振り返ると、そこには彼女がいた。代表挨拶をしていたユナだ。
「あ、ごめんなさい……もしかして、クラス一緒?宜しくね!」
これは奇跡か? クラスの端っこ族の猛者だった俺にこんな出会いがあっていいのだろうか……控えめに言って、やはり運命だ。
ベタな展開だと思った? でもみんなも気づいてんだろ?テンプレこそ正義だ。その想い、俺が叶えてやろう。
「俺とおる。代表挨拶良かったよ! こちらこそよろしく」
軽く挨拶を交わし、その場での会話は終わってしまった。ユナは友達と先に教室へ行くんだとか……もう友達がいるのか。流石代表。
さて、俺も行くとするか。
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オレンジ色の夕日の光が窓ガラスを通って、教室の奥の方まで照らしている。そろそろ日が落ちる頃だろう。黄昏時だ。
入学式が終わり、クラス分けと担任の先生の自己紹介を終えた後、俺は空き教室で絵を描いていた。空き教室で描いていた理由? 言わせるな。いつものことよ。……元いた世界の癖だよ。自分の教室にいたってリア充のキャーキャーした声ばっかでつまんないもんね。俺は静かな場所がいいんだ。
そう俺は絵ーー魔法陣ーーを描きたかっただけなんだ。
しばらく魔法陣を描く練習をしていると廊下から足音が聞こえてきた。俺はとっさに隠れた。教室のドアは、木製の両開き型なので俺がこの教室にいることは除いたくらいじゃ分からないはずだ。
この時、俺は間違えたのだろう。何故隠れてしまったのか。ぼっちで絵を描いている姿を誰かに見られたくなかったのだ。新しい世界でもクラスの端っこなんて嫌だからね。さっきは静かな場所が好きとか言ったけど、本当はみんなとワイワイやりたいのさ。
しかし今回だけは隠れるべきではなかった。
誰かがこの教室に入ってくる。入って来たのはーーユナだった。
「よぃっしょっと」
ユナはカバンから制服を取り出している。今着ているのは……ドレス? ーーそして次の瞬間、ユナはそれをを脱ぎ始めてしまった。
やばい。これは非常にまずい。バレたら俺の好感度は地獄の底へと落ちるはずだ。絶対にバレるわけにはいかない。絶対にーー。
心臓の鼓動が早くなる。夕日に照らされる銀白の髪、白く美しい肌、程よい胸。サイズは……そう。Cは下らないはず。俺の視線は彼女に釘付けになってしまった。そんな中、さらなる不幸が俺に襲いかかる。机の下に隠れたせいで脚が痺れて来た。なんとか楽な姿勢を取ろうと腕に力を入れる。と、その時ーー。
ガタン!
「誰!?」
ユナが音に反応してこちらの方向を睨みつける。
あぁもうダメだ。終わった。
俺は素直に両手を挙げてその場に立ち上がった。
「あなたは……とおる?」
「あ、えっと……」
「いいから出てって!」
「は、はいぃぃぃ」
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着替えを終え、制服姿で教室の外に出てくるユナ。
赤面なのがまた可愛い。
「変態」
「へんた……違うアレはっ」
「じゃあ覗き魔」
「ぐっ……それは……」
心に釘がぐさっと刺さる音がした気がした。変態も覗き魔も間違っていない。でもなんでこんな空き教室で着替えをしていたんだろう?そもそも何故ドレスを着ていたのだろうか……。
薄明るい廊下で、少ししかめっ面のユナの言葉に、俺は困った表情で応対していた。
突然、ユナの頰が一層赤くなる。
「……言わないで」
「え?」
「誰にも言わないでって言ったの。今日のこと」
「ーー二人だけの秘密ってこと?」
なんだかもう呆れられている気がした。終わったなーこれは完全に終わった。なんで俺はこーいうアホみたいなことしか言えないんだろうか。
「はぁ。……それでいいわ。だから、絶対内緒ね!」
「了解です!」
思わず敬礼をする。
決して許してもらえたわけではないが、取り敢えず一件落着し、俺たちは校門まで歩いた。俺が前を歩き、少し間を開けてユナが後ろを歩いていたーー。
校門についてからは、帰る方向が違うので最後にもう一度謝ってから、挨拶を交わして別れた。明日から会うのが気不味いよ……困ったなぁ。
俺は夕日を背にトボトボと歩いて帰るのだったーー。
「てか、結局異世界に来ても制服だな」
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え? え? なに? どうなってんの?
みんな聞いてくれ。今俺は、学校から少し離れた路地で別れたはずのユナ・カストレアさんに呼び出され、二人きりで向かいあっている。
とおるA.「必ず誰か一人制服の一部が変な奴がいる」
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