第8話『Q.試験はどうでしたか?』
試験開始の合図とともに、俺は試験官へと向かい走り出した。
ここで一つ言わせてくれ。剣が重い。こんなんまともに振れないぞ。勘弁してくれ。
そんなことを考えながら、俺はその場から動かない試験官の懐に入り、右足の横に両手で構えた剣を、左上に切り上げようとする。しかし動きが遅過ぎた。剣を振った頃にはもう試験官は一歩後ろへ回避をしていた。一方俺は、振り上げた剣の遠心力で体が左に傾いていた。なんとか下半身の力で倒れない程に耐えてはいるが、完全に右側がガラ空きだ。
「っとと……危ない危ない」
あれ? 攻めてこない? どうやら試験官は攻撃してこないらしい。ならばと、俺は思いっきり剣を振り回した。振れば振るほどでかい隙ができる。しかし攻撃してこないのだから関係ない。そう思っていた。
結論から言う。罠でした。
初めは俺が弱そうな演技をしていて、斬りかかろうとしたところを反撃されるのではないかと警戒していたらしく、強さの確認と油断をさせるためにわざと攻撃をせずに回避をしていたのだ。
俺がただの雑魚だとわかった瞬間、試験官の剣が俺の横っ腹に直撃する。
「ゴッフッ……」
痛過ぎて倒れた状態から起き上がれない。使っている剣は歯がないものだったので、切れたりはしていないが肋骨が折れるかと思うくらい痛かった。
試験はこの一撃をもって終了した。
これはアレですね。絶対落ちた。
ふと自分のHPが今いくつなのかが気になり、倒れたまま冒険者カードをポケットから取り出し自分のステータスを見る。
HP0/10
ん? まてまてまて。俺死んでるぞ。どうなってるんだ?
「受験番号八十七番の人? 試験は終わりですよ。早く外へ……」
「あの、HPって0になるとどうなるんですか?」
試験など今はどうでもいい。俺は試験官の話は聞かず、自分の疑問をぶつける。試験官は何を当たり前の事を聞くのだと言うような目で俺を見ていた。
「はい? そんなの死んでしまうに決まってるじゃないか。いいから早くでて! 次が控えてるんだから」
試験官に肩を貸してもらい立ち上がると、強引に外へ連れ出される。どうやら認知はされているようだ。あと、実体もあるな。じゃあ死んでないってことか? でも表示は確かに0をーー。
見間違えかもしれないと思い、もう一度ステータスを確認する。
HP0/10
やっぱり死んでいる。俺はもう死んでいる!
「でも生きてるんだよなぁ……」
もしかすると、この世界にはまだ明らかになっていないステータスがあるのかもしれない。さっき見たけど、スキルってわけでもなかったしね。
一次審査の結果は、全ての受験者が終わった後すぐに伝えられた。案の定俺は落選しており、トボトボと宿に帰ることとなった。一次審査を通ったものたちの喜びの声を背に試験会場を出る。しかしそこには思いがけない出会いが待っていたーー。
「騎士学校に通ってみませんか?」
そこにはチラシを配る騎士学校関係者がいた。チラシには『君もきっとなれる!』のキャッチフレーズとともに、入学条件としては対象年齢のみが確認できる。他には入学手続き方法、入学式日程、校訓、主に学べることなどなどが記載されている。
「あの、これは僕でも入学できるものなのですか? あ、ちなみに歳は十七です」
「はい。十五歳から十七歳でしたら問題ありません。是非新設『国立国家騎士学校』へいらして下さい」
俺は思った。異世界に来ても学校かと。でも一つだけ違うことがある。田舎に住んでいた俺は、小中高と、その地域の学校に進学していた。別にそこに行きたいから行っていたわけではないのだ。しかし今回は違う。騎士になる為に学校に通うんだ。決められた道じゃない。成りたいから通うんだ! 俺は国家騎士に必ずなってやる!
■■■
「ここが騎士学校か……でか!」
あれから十日余りが過ぎた。
桜が舞い、ほんのり暖かな風が肌を撫でる。そんな春の日。ではない。うん。では無いのだ。そもそもこの世界に四季があるのかすらわからない。まぁそれはさておき、雲ひとつない快晴に割と冷たい風、定番の入学式とは少し違う感じだが、ここから俺の新しい学校生活が始まると思うと心の底から興奮してくる。早く学びたい。
学校は王都中心の城の左隣に建てられた巨大な校舎。白く塗られたその校舎は、例えるならば純白の要塞。しかし、庭は緑の芝生にポツポツと赤青黄様々な色の花がまばらに咲いてて華やかだ。
ここが俺の新しい学び舎。その門をくぐりーー今、新たな第一歩を踏み出す。
とおるA.「伸びしろですね!」