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プロローグ『Q.ホームルームにする事は?』

 バキバキと音を立てているのは他でもない俺の肋骨だ。

 激痛に悶え苦しむようにその場に倒れ込めば視界はぼやけ、意識が遠のいて行く。

 この世界に来て初めて経験したダメージ。それが一体どのくらいの数値なのか気になった俺は、震える指でステータスを表示させる。


「ん? まてまて、HP0!?」


 嗚咽を吐きながら立ち上がる俺を放り投げる試験官からは用済みだと言われているようで、あの時はただただ絶望するしかなかった。

 今俺は学校の校門の前に立っている。


「どうかヒロインと巡り会えますように」


 どうかこんな根性しか取り柄のない俺に異世界テンプレを!!

 そう願いながら俺はこの世界に来ることとなった経緯を思い出しつつ、新たな一歩を踏み出す。



 ■■■


「ふっ。今日もイカしてるぜ! 俺!」


 鏡にイケメンが映っている。漆黒の黒髪に、少し面長な輪郭、普段は全く力強さを感じさせないくせに睨みつけると怯んで一歩後ずさるほどの鋭い目つき、少し太めの眉ーーと、どこがイケメンなのかって? 分かってる。分かってるんだ。なにも言うな。


 そう。鏡に映っているのはイケメンなどではない。ただのクラスの端っこにいるようなモブ男子だ。


 この俺、マサラタウンの……じゃなくて北海道の『とおる』は、今日も変わらぬモブっぷりを鏡に見せつけられ、現実逃避をするのだった。


 おしまい。



 いやまて。こんなんで終わってたまるか! 俺はロッカーから学ランを取り出し、上に投げ、ヤッター……と言いながら変身! はせず、普通に着替えを始めた。


「にーちゃーん? 朝ごはん冷めちゃうよー!」


 一階から弟の声がする。え? 妹じゃないのかって? ラノベならここは可愛い妹だろって? ふふふ。現実はそんなに甘くないのだよ。


 俺は途中だった着替えをすぐ済ませ、急ぎ足で階段を降りていく。時刻は午前八時。学校が二十五分からのため、これから朝食を食べることを考えるとなかなかにギリギリな時間だ。


「ーーここはパンをくわえて学校へ走るべきか……」


 茶の間に入って放った俺の第一声。スタスタと机の前まで行き、流れるようにパンを掴み口へと運ぶ。

 と、次の瞬間パンが視界から消える。


 ーー口の中へ。


 んーんデリシャス! こんがりコゲメが出るまで焼かれた食パン。しかし中はふわふわとした食感を多分残しており、急いで食べる気力を失わせるはず。そんな普通の食卓。普通のーー。

 消えたパンの代わりに、口からまっすぐ前へ一本の腕が視界に入る。


「アホみたいなこと言ってないでちゃんと座って食べなさい!」


 グリグリと音を立てながらパンがさらに喉の奥へと押し込まれる。さらに逆の手で頭を下に押し込まれる。


「うっ……うぶっ……じぬ……死ぬぅ〜」


 俺は声にならない悲鳴をあげながら椅子に座った。全く、なんて母親だ。危うく意識が別の世界へと行って帰ってこないところだったぞ。


 朝食を終え、歯磨きもしっかりし、いざ家を出たのは八時十分のこと。


「あーもう! またギリギリだー!!」


 ちなみに俺はヘビーとまではいかないが、割としっかりオタクをやっている。今時どうなのかはわからないが、割と珍しいスポーツのできるオタクである。自分で言うのはなんだが、俺って割とスペックが高いと思う。外見以外ね。

 つまりだ! スキー部エースの俺にとって、こんな遅刻ギリギリで全力で走り続けなきゃいけない。なんてのは全然ピンチでもなんでもないのだ。


 いつも通りの変わらぬ日常。




 ■■■


「はっ! ちゃんとした自己紹介がまだだったな! 俺の名前は天草とおる。17歳の高校男子だ!」


「お前それ誰に言ってるんだ?」


「おお! おはよう我が親友よ! ……紹介しよう。俺の親友の大田海音(かいん)だ!」


「だからそれ誰に言ってんだよ……」


 学校に着いたのは八時二十三分のこと。ゆっくりと席に座りながら語る俺にツッコミを入れているのは、前の席に座る俺の友達の海音だ。


「いやね、俺の人生を誰かが見てるかもしれないだろ?」


「いやね、見てるわけないだろぅ?」


「今日から見始めた人のために自己紹介とかしといたほうがいいかなーってさ!」


「病院行った方がいいかなーってさ! お前はいつからラノベ主人公になったんだよ……」


 朝のショートホームルームなど全く気にせずペチャクチャと話をする俺と海音。

 俺は前を向いているからまだ良いとして、海音なんて椅子の背もたれを足で挟む様に後ろ向きに座っている。なぜ先生は何も言わないのか……あ! そっか! 俺たちがエリート学生だからか!


 そう。俺たちは俗に言う劣等生、問題児なのだ。エリートは嘘です。


「ラノベ主人公かぁ……異世界に召喚とかされちゃったりして」


「そんなことあるわけないだろ? 見ろこれは俺が書いた魔法陣なんだがな? これをお前の胸に貼り付けて……はっ!! ほら何も起きないだぁ……ろ?」


 海音がショートホームルームで先生以外誰も話をしていない静かな教室で、少し大きめの掛け声を発した瞬間、俺の意識は別の世界へと飛ばされた。


 あとで聞いた話だが、この時海音は俺が目の前から消えたことに驚き体が固まっていたらしいが、クラスの誰もそれを理解してくれず、ただ誰もいない後ろの席に向かい大声を出した問題児という扱いになったらしい。しかもいつもは俺と二人でバカにされるところを孤独にバカにされ、それはもう恥ずかしかったと言う。


 さてさて、俺はと言うと魔法陣の上で椅子に座っていた。


 そして目の前にはファンタジー世界のような大草原と快晴の空、そして魔法使いのコスプレをした少年。そして、そのコスプレ少年にこう告げられた。


「ーーチッ、ハズレかよ」

とおるA.「異世界転移!」

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