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7.二人きり

 リズニーランドに着いた私達は、午前中は四人でクルーズやゲームをして遊び歩いた。お姉ちゃんは絶叫系が苦手なので、それだけ避けてもらえるように頼んだら、誠さんと秀君がアトラクションの空き具合や移動距離を念頭に入れながら順番を考えてくれて、どれもスムーズに楽しむ事が出来た。訊けば、二人共何度も来た事があるので、慣れているのだとか。流石だ。

 最初は緊張していたけれど、四人でいる事にも慣れてきた私は、何時の間にかすっかり夢中になって楽しんでいた。だけど、やっぱりその時はやってくる訳で。


「じゃあ、午後からは別行動にしよっか」

 レストランで昼食を終えた後、予想していた事とは言え、唐突にお姉ちゃんに提案され、私は目を剥いてしまった。


「優は、私と違って絶叫系好きでしょう? 午後からは秀君に好きなだけ連れて行ってもらいなよ! 秀君、悪いけど優を宜しくね」

「あ、はい。分かりました」

 えぇ!? 『分かりました』じゃないよおぉ!?


 誠さんと一緒に楽しそうに歩いて行くお姉ちゃんの背中を、引き止めたいと思いつつも見送りながら、私は途方に暮れていた。

 ここまではお姉ちゃんと誠さんがいてくれたから、すっかり楽しんじゃっていたけど、秀君と二人きりになってしまったら、また緊張しちゃうに決まっているじゃない! どうしたら良いのよぉ……。


「優ちゃん、何処か行きたい所はある?」

 声を掛けられて振り向くと、秀君が優しく微笑んでくれていた。


 ああ、癒される……! その笑顔が神々しく見えるよ!!

 秀君が見せてくれた笑顔に、私は緊張を少し和らげる事が出来た。


 リズニーランドを秀君と二人で回るだなんて、まるで本当のデートみたいで緊張してしまうけど、どうせなら楽しまなきゃ損だし、折角だから秀君にも楽しんでもらいたいな。うん、泣いても笑っても、あと半日だけの事なんだから、頑張れ私!


「絶叫系が好きなんだったら、俺で良ければ付き合うよ?」

「あ、ありがとう! 秀君も、行きたい所があるなら付き合うよ!」

「俺は優ちゃんと一緒なら、何処でも良いよ」


 秀君がにっこりと笑って言ってくれた言葉に、内心で悶絶してしまった。

 うわあぁぁぁ!! 爽やかスマイルでそんな殺し文句を言うなんて、反則だあぁ!!


「じ、じゃあ、お言葉に甘えて、定番のここと、ここも行ってみたいな! 良い?」

 リズニーランドのマップを指し示しながら、秀君に尋ねる。


「分かった。今いる場所から近いのはこっちの方だから、まずはここに行ってみよう!」


 快諾し、楽しそうに笑ってくれた秀君に、私も嬉しくなってしまった。

 私が要望を口にすれば、すぐに最適解を見付けて実行してくれるなんて。やっぱり秀君って良い人だな!


 秀君と二人きりになってしまって、さっきよりも緊張している事に変わりはないけれども、秀君の優しい言動に、私の緊張は幾分か和らいでいく。その分だけちょっぴり胸をときめかせながら、秀君と一緒にジェットコースターへと移動して行った。


 ***


 唯さん、ありがとうございますっ!!


 優ちゃんと二人でジェットコースターに向かいながら、俺はこの状況を作り出してくれた唯さんに、心の底から感謝していた。

 何とか自分から優ちゃんに話し掛ける事も出来たし、このチャンスを活かして、もっと優ちゃんと親しくなるぞ!!


 ……と意気込んでみたものの、ジェットコースターの待ち時間でも、次のアトラクションへの移動中でも、相変わらず優ちゃんに話題を作ってもらっている俺。情けない……。

 だけど、ずっと明るく振る舞う優ちゃんに、俺は少し違和感を覚えた。


 そう言えば、さっき四人でいた時は、優ちゃんは今程喋っていなかったような……。どっちかと言うと、誠君と唯さんの惚気話の聞き役に回っていたよな? もしかして今は、俺と二人になったから緊張している? それで口数が増えているのか?

 だとしたら、ずっと優ちゃんに気を遣わせてしまっているよな、と罪悪感を覚える。俺と二人でいても、緊張なんてせずに、いつもの優ちゃんのままで気楽に接して欲しいんだけれども、やっぱり難しいのだろうか? せめて緊張だけでも解いてもらいたいのだけれども、何か良い方法はないか?


「あー、楽しかったね! 次は何処に行こうか?」


 二つ目のアトラクションを終え、振り返って尋ねてくる優ちゃん。

 緊張している様子も見せず、心底楽しそうにしてくれている、その笑顔が嬉しいし可愛い! ……じゃなくて。


「優ちゃん、少し休憩しようか? そこにカフェがあるから、何か飲んで行かない?」


 優ちゃんは、俺を気遣ってずっと喋ってくれていたから、疲れているんじゃないだろうか。そう思って、目に付いたカフェを指差しながら提案してみると、優ちゃんは少し目を丸くして、すぐにほっとしたように明るい笑顔を見せてくれた。


「そうする! 実はちょっと喉が渇いていたんだ。ありがとう秀君!」


 良かった!! でも、お礼を言うのはこっちの方だよ……!!

 優ちゃんが見せてくれた満面の笑顔に、俺は胸を撫で下ろしながらも、被った猫の皮の下では悶え死にしそうになっていた。

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