6.従弟の正体
日曜日、私達は朝早くから身支度を整えながら、車で迎えに来てくれるという、誠さんとその従弟さんを待っていた。お店の方は、忙しい時間帯は私達の代わりに、お祖母ちゃんが手伝ってくれる事になったので一安心だ。
「ねえ優、これとこれだったら、どっちが良いと思う?」
ワンピースとフレアスカートを手にしたお姉ちゃんに尋ねられた。
昨夜も似たような事を訊かれたような……。まあ、お姉ちゃんなら何でも似合うと思うけど。
「お姉ちゃんならこっちのワンピースの方が似合うけど、今日はリズニーランドに行くんだから、それだとちょっと上品過ぎるんじゃない? 動きやすそうなこっちのスカートの方が良いと思う」
「や、やっぱりそうだよね! ありがとう!」
どうやら着る物が決まったらしいお姉ちゃんは、いそいそと着替え始めた。私も小さな溜息を一つついて、スカートをちらっと横目で見てから、デニムのショートパンツを手に取る。
香奈ちゃんがダブルデートとか言っていたから、変に意識してしまうけれど、今日の主役はお姉ちゃんと誠さんで、私はあくまでもオマケなのだ。スカートなんて普段あまり穿かないんだから、背伸びする必要はない。着慣れない物を身に着けても、ボロが出るだけだろう。
私達が漸く支度を終えた時、お姉ちゃんのスマホが震えた。今着いたという誠さんからの連絡で、私達はそそくさと家を出る。
「おはよう、誠さん!」
「おはようございます!」
「おはよう、唯ちゃん、優ちゃん」
「おはようございます」
車の横に立って私達を待ってくれていた誠さんと、もう一人の男の人を見て、私は目を疑った。
うえぇぇぇ!? 嘘でしょ!? あのイケメン君が何でここに!?
「紹介するよ、優ちゃん。俺の従弟の最上秀。何度かジュエルには来ているらしいから、顔だけは知っているかも知れないけど」
はい! 勿論! お顔だけは良ーく存じておりますっ!
「最上秀です。どうぞ宜しく」
「あ、はい! 高良優です。こちらこそ、今日は宜しくお願いします!」
爽やかに微笑んで手を差し出してくる、イケメン君改め最上君に動揺しながら、私も手を出して握手した。
うわあぁぁぁ!? まさか誠さんの従弟さんがあのイケメン君だったなんてっ!! こんな事なら、スカート穿いて来れば良かったかなっ!? あ、いや、私のスカート姿なんか見ても、誰も得しないか。
誠さんが助手席のドアを開け、慣れた様子でお姉ちゃんをエスコートしている傍らで、私は後部座席のドアを開けた最上君に促されて車に乗り込んだ。最上君はそのまま、私の隣に乗り込んで来てドアを閉める。
えええぇぇぇ!? 聞いていない!! 何の心の準備も出来ていないよ!? 一体私、どうすれば良いの!?
***
うわあぁぁぁ!? 俺一体どうすれば良いんだよ!?
優ちゃんの後に続いて車の後部座席に乗り込みながら、俺は内心で狼狽えていた。
優ちゃんが隣に居る!! しかも私服!! あぁぁ可愛い直視出来ない!!
ちらり、と横目で優ちゃんを見れば、緊張した様子の優ちゃんと目が合ってしまった。
な、何か話し掛けないと!
「あ、あの、いつもジュエルに来てくださって、ありがとうございます」
優ちゃんに笑顔で話し掛けられた。
嬉しい! ……って違うだろ!! しっかりしろ、俺!
「こちらこそ、何時も美味しいコーヒーをありがとう。でも良かったら、敬語は止めてくれないかな? 俺、優ちゃんと同い年だから」
「あ、はい。じゃなくて、うん」
咄嗟に出てくる営業スマイルと営業トークに胸を撫で下ろす。
よ、よし! この調子で何か話し掛けるんだ、俺!
「そうなんだ。最上君って私と同い年だったんだね。知らなかった。高校生くらいかなとは思っていたけれど、しっかりしていて大人っぽかったから、年上かなって思っていたよ」
「俺は全然しっかりしていないよ。肝心な所でいつも弱気になってしまうし。でも、そう思ってくれていたなら光栄だな。あ、もし良かったら、俺の事も名前で呼んでくれないかな? 高良さん、だったらお姉さんもいるから紛らわしいし、優ちゃんって名前で呼ばせてもらいたいんだけど、良い?」
「あ、うん。じゃあ、秀君って呼ばせてもらうね」
そう言って、照れたように微笑む優ちゃん。
うおあぁぁぁ可愛い!! しかも念願の名前呼びありがとうございます!! 協力してくれた誠君と唯さんには頭が上がらないな……。
この勢いで、優ちゃんの事を色々訊いてみたい!
「でも、秀君と誠さんが、従兄弟だったなんて吃驚したよ。こうして休日に一緒に外出するくらいなんだから、仲が良いんだね」
「そうかな? 叔母さん……俺の父さんの妹が誠君のお母さんなんだけど、その叔母さんと俺の母さんが凄く仲が良くて、しょっちゅう会っているんだ。誠君には小さい時から会う度に本当の兄さんみたいに接してもらっていたから、仲が良い、と言えば良いのかも知れないけど、最近は良く揶揄われて弄られているから、何とも」
「おいおい、色々力になってやっているのに、それはないんじゃないか?」
運転席から誠君が口を挟んで来たけれども、先日言いたくない事まで洗いざらい吐かされたばかりなので、無言の抗議をしておいた。
その後も、接客業をしているだけあって、優ちゃんは話題作りが上手く、結局俺は、優ちゃんが作ってくれた話題に乗っかっている事しか出来ないうちに、目的地に着いてしまった。
くそ……頑張るんだ俺!! チャンスはまだある筈! 諦めるな!!