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5.ダブルデート!?

「はあぁ……」

 金曜日のお昼休み、教室でお弁当を広げながら、私は思わず溜息を吐き出してしまった。


「どうしたの? 辛気臭い顔して」


 前の席の椅子を半回転させ、私の机を挟んで向かいに座りながら尋ねてきたのは、私の長年の親友の天宮香奈あまみやかなちゃん。羨ましくなる程素敵なツヤサラストレートの長い黒髪に、涼しげな二重の切れ長の目で、普段は無表情のクール系美人なのに、笑うと一気に親しみやすくなる可愛い笑顔の持ち主だ。学校一の美貌と頭脳を誇る上に、天宮財閥のご令嬢でもある香奈ちゃんは、近寄り難い高嶺の花、と全校生徒が憧れる存在なのに、どうやら本人だけはその自覚が全くないらしい。


「明後日の日曜日に、リズニーランドに行く事になりまして」

「あら良いじゃない。羨ましい」

 さらりと答えた香奈ちゃんが、視線で続きを促しながらお弁当を食べ始める。相変わらずクールだなぁ。


「一緒に行くメンバーが問題でして」

「どんな人達なの?」

「お姉ちゃんと、お姉ちゃんの彼氏と、その彼氏の従弟とやら」

「それの何処が問題なの?」

「お姉ちゃんは彼氏とラブラブデートしていれば良いじゃない。何でわざわざ四人で行く必要があるの? チケットが四枚あるんだったら、二人で二回行けば良いのに。『いつも私ばっかりじゃ悪いから、偶には優も一緒に!』とかってお姉ちゃんは言っていたけれど、お姉ちゃんの彼氏も一緒に行くんだから、いくら姉妹とは言え私だって気を遣うよ。それにどうせ二人の時間を作るんだろうから、もしその間私は初対面の従弟さんと取り残されたらどうしたら良いのよ。何かもう面倒臭い行く気しない」

「それが本音? 良いじゃない別に。折角のリズニーランドなんだから、その従弟とやらを引き摺り回す勢いで楽しんで来なさいよ。優なら出来る問題ない」


 私の愚痴をスパスパとぶった切る香奈ちゃん。うう、冷たい。

 しかも、私ならその従弟さんを引き摺り回せるって、一体どういう意味なんだい?


「それに、もしかしたら素敵な出会いがあるかもよ? その従弟が超イケメンかも知れないじゃない」

「別にイケメンってだけじゃ惹かれないけど」


 何故かは知らないけれど、ジュエルに来てくださるお客様にはイケメンが多く、贅沢にもイケメンに見慣れてしまった私は、男の人は顔だけじゃないと思っている。

 因みに、イケメンの大半は天宮財閥の関係者の方々だ。香奈ちゃんのお母さんである冴香さえかさんは、昔ジュエルでアルバイトをしてくれていたそうで、そのご縁もあって、ジュエルがリニューアルオープンする際には、あちこちに声を掛けてくれたんだとか。その結果、リニューアルオープン初日には、店内は香奈ちゃん達と血縁関係にあると言う大勢の美男美女で溢れ返り、その噂がまた人を呼び、暫くは目が回る程忙しかったのは記憶に新しい。


 確かに、イケメンの誠さんの従弟さんだったら、きっとイケメンなんだろうけど、やっぱり男の人は性格が良くなくちゃね。

 ちらり、と脳裏を過るのは、週末にジュエルに来てくれるイケメン君。来店すれば必ず挨拶をしてくれるし、客商売であれば当然の事や些細な事でも、丁寧にお礼を言ってくれる。彼以上に素敵で紳士的な人なんて、果たして存在するんだろうか?

 ……いや、あのイケメン君に恋をしているとかじゃないよ!? ただちょっと憧れているだけで! お店での言動とかが良いなって思っているだけだし、そもそも私、彼の名前すら知らないし……。


「……さては優、好きな人いるんでしょ?」

「うえぇぇっ!?」


 イケメン君を思い出している所に、急に香奈ちゃんに訊かれた私は、教室中に奇声を響かせてしまった。驚いて一斉に振り向いてきたクラスメート達の視線が痛い。

 ちょっと、いきなり何を言い出すんだ香奈ちゃん!!


「ち、違うよ! 好きとかじゃなくって、ちょっと気になるだけって言うか……!」

「ふーん? 気になる人はいるんだ?」


 小声で否定すれば、にこりと楽しげな笑みを浮かべる香奈ちゃん。

 あ、しまった。墓穴掘った。


「どんな人? 好きな人が出来たら、教えてくれる約束でしょう?」


 そうなのだ。

 香奈ちゃんから恋愛相談を受けた時に、私も好きな人が出来たら教えると約束をしている。

 因みに香奈ちゃんのお相手は、香奈ちゃんの幼馴染で、私達の隣のクラスの本城守ほんじょうまもる君。短い黒髪に精悍な顔付き、色々な武道を得意としていて、同い年とは思えない程しっかりしている、これまたイケメン君である。

 何でも、香奈ちゃんと本城君のご両親同士が非常に仲が良く、家族同然の仲なんだとか。長年ずっと歯に衣着せぬ物言いをしてきた幼馴染だからこそ、下手に告白して関係を変えてしまいたくないらしい。

 だけど、私が見ている限りでは、本城君も香奈ちゃんの事を憎からず思っていそうなんだけどな。


「ねえ、優。どんな人なの?」

 分かった。分かりましたから、笑顔で脅迫しないで怖い。


「ええと……、サラサラの茶髪に、涼しげな二重瞼の、背が高いクールな雰囲気のイケメンの人。多分高校生だとは思うんだけど、年は分からない。週末に良くジュエルに来てくれるんだけど、私達にも丁寧に挨拶してくれたりとか、ちゃんとお礼を言ったりとかしてくれるから、良い人だなぁって気になってる……って所、かな」

 自分で言っていて、何だか恥ずかしくなってくる。


「ふうん。じゃあ今はその人が気になっているから、明後日のダブルデートが気乗りしない、って所なのね?」

「ダッ、ダブルデート!?」


 驚きのあまり、また大声を上げてしまった。

 あああごめんクラスの皆、謝るからあんまりこっち見ないで!!


「違うの? 話だけ聞いていれば、そう聞こえたんだけど」

「ダ……ダブルデート? えっこれってそうなの? そうなっちゃうの?」

「知らないわよそんなの」


 私を混乱させた張本人は、涼しい顔でお弁当を食べ終えてしまった。一方私はと言うと、混乱のあまり残ったお弁当を食べ切るのに、残りの昼休みの時間全てを使い切る羽目になってしまった。

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