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片想いの、その先へ  作者: 合澤知里
おまけ話
17/19

上手く行かない作戦

 週末。

 私は優の提案通りに、守と一緒にデパートへ行く約束を取り付ける事に成功していた。口実は、大翔の誕生日プレゼント。一ヶ月以上も先の事なので、守に怪訝な顔をされてしまったけど、予め準備した方が安心出来るとか、忘れなくて良いだとか、適当に言って何とか誤魔化した。


 この日の為に、優に借りたミニスカートを穿く。胸に自信が無い私は、せめて足を出してみよう、と一大決心をした訳だ。だがそもそもの問題として、私が持っているスカートは精々膝丈までで、太腿まで見えてしまうような丈の短いスカートは持っていない。新しく買おうかとも思ったが、優が快く貸すと言ってくれたので、お言葉に甘える事にした。

 ちょっと恥ずかしいけれども、思ったよりは悪くないし、優も私のお母さんも、『足が長く見えるし、綺麗!』と絶賛してくれた。口煩いお父さんが見たら、『そんな短いスカートなんか穿くな!』と怒られていた可能性が高いけれど、幸運な事に、今は海外出張中で留守にしている。


 普段は下ろしっぱなしの髪もハーフアップにしてみたり、ネックレスも着けてみたりと、精一杯のお洒落をする。部屋の姿見で全体を確認して頷きつつも、やっぱり足がスースーするな、と思っていると、チャイムが鳴った。守が迎えに来てくれたのだ。行って来ます、とお母さんに告げて、急いでエレベーターでエントランスへ向かう。


「守、お待たせ!」

 守とデートだ、と思うと嬉しくて、つい小走りで駆け寄ってしまう。


 だけど、私を見た守は、目を丸くした後、僅かに眉を顰めた。


「……そのスカート、短過ぎない? 似合ってはいるけれど、いつもの方が良いと思うよ」


 え?

 そんな……折角頑張ったのに。

 皆、綺麗って言ってくれたのに。


 当惑した私が何も言えずにいると、守はにこりと笑顔を見せた。


「香奈も女の子なんだから、足腰は冷やさない方が良いよ。俺はここで待っているから、着替えて来たら? 別に、どうしてもそのままの格好で行きたいなら、無理にとは言わないけど」

「な、何よそれ。年寄りじみた事言わないでよね!」

 空気を悪くしたくないので、何とか軽口を叩きながら、エレベーターへと引き返した。


 うーん、ミニスカートは守の好みじゃないのかな。良いアイデアだと思ったんだけどな……。仕方ない。守の好みに合わないのなら、穿いていても意味が無い。折角貸してくれた優には悪いけれども、大人しく着替えて来よう。


 自分が持っている膝丈スカートに着替えて、守と電車でデパートへ向かう。


 ……このままだと、本当にプレゼントを買ったら、はい終わり帰ろう、になってしまいそうだ。何か作戦を考えないと。

 ちらり、と隣に立つ守を見ると、守にしては珍しく、何だか険しい表情をしていた。


「守? どうしたの?」

「何が?」

 私が尋ねると、守はいつもの飄々とした顔に戻った。


「何か今、怒っているように見えたから」

「そんな事ないよ」

「そう……なら良いけど」

 この時は、私はそれ程気に留めていなかった。


 電車を降り、デパートの中に入る。大翔は守と一緒で、身体を鍛える事が好きみたいなので、スポーツ用品を考えている、と相談すると、守も賛成してくれた。

 お店に着いて、商品を見て回る。スポーツシューズやリストバンドも良いかな、と思ったけれども、結局、タオルにする事にした。


「ねえ守、これなんかどうかな?」

「ああ、良いんじゃないか? あいつ、青と黒が好きだからな」


 プレゼントは決まったので、店員さんに頼んでラッピングもしてもらった。お会計を済ませて守を振り返ると、一瞬、こちらを睨み付けているような守の表情が目に入った。


 え……?


「じゃ、行こうか」

 だけど、すぐに守の表情は元に戻った。


「う……うん」


 守が怒る事なんて滅多にないのに、何かあったのかな?

 電車の中での、守の険しい表情も思い出し、私は不安に駆られ始めた。だけど、折角の守とのデートなのだ。お目当ての物は買えたけれども、このまま帰りたくない。何とか口実を作って、少しでも長く一緒に居たい。


「ねえ守、ついでだから、別の所に寄っても良い?」

「ああ、良いよ」


 守も承諾してくれたので、私が好きな雑貨店に向かう。ここのお店は、色々可愛い小物が置いてあるので、よくお世話になっている。私は特に黒猫がデザインされた物が好きなのだ。


「あ、新しいのがある!」


 私が飛び付いたのは、黒猫のメモ用紙。罫線の周囲に、お座りをしていたり、伸びをしたりする可愛い黒猫のシルエットが描かれていて、即購入を決めてしまった。

 店内をうろつき、他にも黒猫のメモスタンドを見付けたので、一緒に買ってしまった。


「お前、本当に黒猫好きだよな」

「だって可愛いんだもん」

 守に苦笑されたが、気にしない。可愛いものは可愛いのだ。


 少し歩き疲れた、と言って、守をカフェに誘う。快く承諾してくれた所を見ると、色々付き合わせてしまっている事は、気にしていないように思えて、ほっと胸を撫で下ろした。


 だけど、お店に入ってから、守の様子がおかしい。眉間に皺を寄せ、周囲を気にしているようだ。私が話し掛けると普通に戻るのだけど。

 どうして? ……もしかして、本当は嫌だった? 私があっちこっち振り回してしまったから、内心では怒っているのかな?


 いつもと違う守の様子が気になって、美味しい筈のケーキもコーヒーも、味が良く分からなかった。

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