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14.告白

 翌週の土曜日、私は約束した時間の十五分前に映画館に辿り着いた。前回は五分前に着いたにもかかわらず、秀君は既に到着して私を待ってくれていたので、今日は私が待つ番になりたかったのだ。

 だけど、秀君は既に入り口前に立っていて、相変わらず周囲の視線を集めていた。一体何分前に来ているんだろう?


「秀君! ごめんね、お待たせ」

「優ちゃん! ううん、俺も今来た所だから」


 ええー? 多分嘘だよね?

 前回と同じ台詞を口にする秀君に、今度はもう少し早く来なくちゃ、と思った所で、私は気が付いた。

 今度って、いつ? もしかしたらこれが最後かも知れないのに? ……そんなの、嫌だ。最後になんか、したくない。


「じゃあ行こうか。映画」

「うん! 楽しみだね!」

 秀君に促されて、慌てて笑顔を浮かべて頷いた。


 今日見る映画は、私が気になっていたラブコメものだ。笑いあり、胸キュンありで、キャストも豪華と言う事もあって、クラスの女子の間でも時折話題になっていた。女の子向けだから、秀君は楽しめるのかな? とちょっと不安だったけれど。

 だから気になって、上映中に何度かちらちらと隣の席を横目で見てみたけれど、いつ見ても秀君はしっかりとスクリーンを見つめていたので、退屈はしていないようだと安心した。そして、いつしか私もすっかり映画に引き込まれていた。


「あー、面白かった!」

 シアターを出て、余韻に浸りながら感想を口にする。


「そうだね。女の子はああいう所に憧れるんだなって、俺も勉強になったよ」

「フフッ。秀君も楽しめたみたいで、何よりだよ」

 秀君の返事に、私は思わず笑ってしまった。


 映画で女の子の心理を勉強していたんだろうか? 真面目なんだなぁ、秀君って。


「優ちゃん、この後時間ある?」

「うん。まだ大丈夫だよ」

「良かった。折角だから、ここの近くの公園に行ってみない?」

「うん! 行こう!」


 やった! まだ秀君と一緒にいられる!

 秀君のお誘いに、思わず満面に笑みを浮かべてしまった。秀君とまだ一緒にいたい、という思いが通じたのかな?

 ラッキー! と思いつつも、いつまでこの幸運が続くんだろう? と自分に問いかけながら、秀君の後に付いて行った。


 秀君が案内してくれた公園は、都心にあるにもかかわらず、自然に溢れていて、長閑で開放感があった。散歩コースをぶらぶらと歩いていると、途中でベンチを見付けたので、二人で並んで座って休憩する。


「良い所だね、秀君」

「うん。こうしてのんびり出来るのって、良いよね」


 自然に癒されながら秀君を見上げると、秀君は顔を綻ばせて答えてくれた。

 うわあぁぁ! 間近で見る秀君の笑顔! 疲れが一瞬で癒される!


 きっと顔が赤くなってしまったであろう私は、慌てて目を逸らし、公園の風景を眺めた。少しの間、沈黙が訪れる。だけどそれは、もう気まずい時間ではなかった。秀君の隣は、凄く居心地が良くて、ドキドキするけど、安心も出来る。

 ……やっぱり、秀君と一緒にいたいな。これで終わりじゃなくて、これからもこうしてお出掛けしたり、お喋りしたりして、一緒の時間を過ごしたい。


「あ……あのね、秀君」

 私は思い切って、秀君に声を掛けた。


 ***


 映画を見終わった後、目星を付けておいた公園に優ちゃんを案内して、一緒にベンチに腰掛ける。優ちゃんも公園を気に入ってくれたようで、安心した。

 よ、よし! 良い雰囲気だし、頑張るんだ、俺!


 気合を入れたものの、いざとなると緊張する。

 深呼吸を繰り返し、よし言うぞ! と口を開きかけた所で。


「あ……あのね、秀君」


 優ちゃんに唐突に話し掛けられ、俺は出鼻を挫かれた。笑顔だけは何とか取り繕う。


「な、何?」

「あの……、この前、リズニーランドで、『好きな人いる?』って、言っていたよね」

「あ……うん」

 俺は思わずごくりと唾を飲み込んだ。一気に緊張が走る。


 結局、あの時の返事は聞けず終いになっていたけれど、優ちゃんは好きな人がいるんだろうか!?

 そう思った瞬間に、顔からさっと血の気が引いていった。


「自覚したのは、つい最近なんだけど……、私、好きな人がいるの」

「……!」


 ヒュッ、と、息を呑んだ。

 一瞬で、頭が、真っ白になった。

 ショックで、言葉が、出ない。


「わ、私、秀君の事が好きなの!」

「……え?」


 失恋した、と大打撃を受けていた俺は、顔を真っ赤にして、思い切ったように放たれた優ちゃんの言葉を、理解するのに時間がかかった。

 優ちゃんが、俺の事を、好き?


「あ……。や、やっぱり、迷惑だよね? ご、ごめん、今の忘れて」


 俺が固まってしまったからか、優ちゃんは顔色を青くして、視線を逸らしてしまった。大きな目がみるみる潤んでいくのを目にして、慌てて俺は優ちゃんの両肩を掴む。


「め、迷惑なんかじゃないし、絶対に忘れない!! だって俺も、優ちゃんの事好きだから!!」

「……え……?」

 優ちゃんはぽかんとした表情で、涙目のまま俺を見上げてきた。


「俺、優ちゃんに一目惚れして! 笑顔がすっごく可愛くって、どうしてもまた見たくて、ジュエルに通い詰めて! 最近、唯さんと誠君が付き合い出した事を知って、優ちゃんとダブルデートが出来るように、セッティングしてもらったんだ」

「え? そ、そうだったの?」

 驚きを隠せない優ちゃんに、俺は力強く頷く。


「だ、だから、俺で良ければ、付き合ってください!!」

「え……? よ、喜んで!?」


 信じられない、と言いたげに俺を見上げる優ちゃんの返事に、感極まった俺は優ちゃんに抱き付いた。

 やったあぁぁ!! これで優ちゃんは念願の俺の彼女だ!!


 暫くの間、力を入れ過ぎないように気を付けながらも、ぎゅうぎゅうと優ちゃんを抱き締めていると、優ちゃんも漸く実感が湧いてきたのか、そっと俺の背中に手を回してくれた。それが堪らなく嬉しい。嬉し過ぎて、涙が出そうになる。今日は間違いなく、人生最良の日だ。


 だけど、本当はもう少し、格好良く告白するつもりだったんだけどなぁ……。

 結果オーライだけれども、やっぱり自分が情けなかった。

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