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13.お礼

 翌週の日曜日、私はカフェを手伝いながらも、そわそわして落ち着かなかった。秀君から、また今週末にジュエルに行く、とラインをもらったのだ。妹さんへのプレゼントの件も、その時に報告してくれると言う。

 どうだったんだろう。プレゼント、喜んでもらえたのかな?


 お昼時も過ぎ、忙しさも落ち着いて、そろそろ秀君が来る頃かな、と思っていると、カランカラン、とドアチャイムが鳴って、秀君が姿を現した。


「いらっしゃいませ! こちらへどうぞ」

 秀君をテーブル席に案内して、ブレンドコーヒーの注文を取る。


「優ちゃん、先週はどうもありがとう。お蔭で愛にも凄く喜んでもらえたよ」

「本当? 良かった! お役に立てたみたいで何よりだよ」


 秀君の報告に胸を撫で下ろしながら、カウンターに戻ってマスターに注文を伝えた。

 良かった。妹さん喜んでくれたんだ。何だか私まで嬉しくなってくる。


 秀君にブレンドコーヒーを持って行き、立ち上がったカウンター席のお客さんの会計をしにレジへと向かう。会計を済ませてお見送りした後は、カウンターに残された食器を片付けながらも、ついつい秀君に目が行ってしまった。

 以前は秀君をチラ見する程度で癒されていたけれど、今は気付けばじっと見つめてしまっている。やっぱり秀君、格好良いなぁ……。


 と思っていたら、ふと顔を上げた秀君と目が合ってしまった。咄嗟に笑顔を浮かべると、秀君も微笑み返してくれた。

 じっと見ていたの、気付かれちゃったかな!? 恥ずかしい!! だけど秀君が笑ってくれて、幸せで顔がニヤケてしまう。

 心が浮き立ちながらも、今は仕事中なのだからと、出来るだけ表情を引き締め直した。


 小一時間程して、秀君がノートパソコンを片付けて席を立つ。

 ああ、今日はもうお終いなんだ。次に秀君を見られるのは、また来週かなぁ……。

 残念に思いながらも、会計をしにレジに入る。


「優ちゃん、来週末は、空いている日はあるかな?」

「えっ? あ、うん。土曜日なら……」

 突然の質問に戸惑いながら答えると、秀君はほっとしたように笑った。


「良かった。妹が予想以上に喜んでくれたから、プレゼント選びに付き合ってくれた優ちゃんにお礼がしたいなって思って。」

「そんな、いいよお礼なんて」

「ううん。それに、偶々映画のペアチケットを貰ったんだ。この間優ちゃんが気になるって言っていた映画だったから、良かったら一緒に見たいんだけど、どう?」


 そう言って秀君が取り出して見せてきたのは、確かに私が見たいと思っていた映画のチケットだった。

 えっ、確かにこの映画、気になっているって言う話はしたけれど、秀君、覚えてくれていたんだ!!


「こ、これ、私が一緒に行って良いの!?」

「勿論。じゃあ、また待ち合わせとかは後で連絡するね」

「うん! 待っているね。ありがとう!」

 爽やかな笑顔を残して、秀君はお店を出て行った。


 やった!! 来週はまた秀君と一緒にお出かけだ! しかも私が見たかった映画!!

 嬉しくて、興奮のあまり飛び跳ねたくなるのを抑えながら、私は上機嫌で仕事に戻った。


 ***


 良かった! ちゃんと優ちゃんを誘えた……!

 ジュエルを一歩出た俺は、緊張が解け、安堵の溜息を吐き出した。


 ただのお礼なら遠慮されてしまうかも知れないと思って、優ちゃんが見たいと言っていた映画のチケットを、予め買っておいて正解だった。優ちゃんも目を輝かせてくれていたし、来週が楽しみだ!

 お店を一度振り返ってから、俺は最寄り駅へと歩き出す。


 おまけに今日は、優ちゃんと目が合ったし! しかも笑ってくれたし! いつもパソコン作業をするふりをして、優ちゃんを見つめていた事が、ばれていないと良いんだけれど。


 暫くの間、俺は浮かれ気分で歩いていたが、徐々に先程の事が気になってきた。


 それにしても、以前よりも生温かい視線と殺気じみた視線が強くなっていたような……。今日なんか、レジで優ちゃんに話し掛けた瞬間に、カウンターの奥から、思わず背筋がゾッとする程の視線を感じてしまった。気のせいだと思いたいけど……。

 そう言えば、確か以前誠くんが、カウンターの奥に、普段は滅多に姿を現さない、優ちゃんのお父さんであるマスターがいるって言っていたっけ。きっとあの視線は、お父さんのものなんだろう。優ちゃんのお父さんなのだから、敵意を持たれたくはないけれど、今の俺では、きちんと挨拶をしに行ける程の関係を優ちゃんと築けていないし……。一体どうしたら良いんだろう?

 頭を悩ませていた俺は、一つ溜息をつき、仕方がない、と腹を括った。


 誠君に、一度相談してみよう。誠君なら、優ちゃんのお父さんと仲良くなる方法を知っているかも知れない。まあ、それと代償に、また散々揶揄われる可能性が高いんだけれども……。こればかりは仕方ないか。


 少し前に、誠君の執拗な追究を受けて、事の顛末を全て語らされた事が思い起こされ、多少憂鬱な気分になりながらも、俺はスマホを取り出し、画面に誠君の連絡先を表示した。

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