12.想い
秀君と一緒に、あちらこちらのお店に入り、色々な商品を見て回って、凄く楽しい時間を過ごした。妹さんへのプレゼントも無事に買う事が出来、大役を果たせてほっとしながら、流石に疲れたな、と思っていると、秀君がカフェに誘ってくれた。
嬉しい! 私、自分に都合の良い夢を見ているんじゃないよね!?
そっと頬を引っ張ってみたけれど、ちゃんと痛かった。秀君に気付かれて、変な子だって思われていないと良いんだけど。
お店に入って、カフェラテを頼む。秀君はコーヒーを頼んでいた。
「秀君は、コーヒーはブラック派なんだね。いつも砂糖もミルクも入れていないし」
「うん。偶に疲れている時は入れるけど、基本はブラックかな。優ちゃんは?」
「私はブラックは苦いから、ミルクと砂糖を入れた方が好きだな」
「へえ、妹と一緒だね。やっぱり女の子は、甘い方が好きなのかな。優ちゃんはスイーツならどれが好きなの?」
お互いの食べ物の好みの話で盛り上がる。他愛もない会話だけど、秀君の好みが知れて嬉しい。どうやら私は、味覚も妹さんと好みが似ているようだ。
「妹さんの写真ってある?」
ここまで似ていると言われると、勝手に親近感を覚えてきて、どんな子なのか見てみたくなってしまった。秀君はスマホを取り出し、操作して私に渡してくれた。
「うわ、可愛い!!」
スマホの画面を見た瞬間、私は思わず大きな声を出してしまった。
スマホの画面に表示されているのは、ロングストレートの茶髪に、涼しげな二重の目の清純派美少女。イケメンなお兄さんの秀君に、勝るとも劣らない美貌の持ち主だった。最上兄妹恐るべし。
何かもう勝手に親近感を覚えて大変烏滸がましかったです申し訳ございません、と謝りたくなりながら、スマホを秀君に返した。
「妹さんは、今幾つなの?」
「中二だから、もうすぐ十四歳だね」
「じゃあ香奈ちゃんの弟の、大翔君と同い年なんだ」
「優ちゃん、大翔君の事も知っているの?」
「うん。偶に香奈ちゃんの家にお邪魔するから」
香奈ちゃんの弟の大翔君は、短めに整えられた爽やかな黒髪、香奈ちゃんよりも少し鋭い二重の切れ長の目を持つ、これまたイケメン君である。普段はクールで大人びているけれど、笑うと年相応の可愛さを見せるのだ。
良いなー良いなー。秀君と言い香奈ちゃんと言い、兄弟揃って美形で羨ましい。私だってお姉ちゃんは癒し系美人なのに、何故私だけ平凡顔なのだ。遺伝子の差が恨めしい。
その後も秀君との会話は弾む。私は何時の間にか緊張を忘れ、話題にも困っていない自分に気付いた。
秀君と同じ時間を過ごすのが楽しい。もっと一緒に居たい。もっと話していたい……。
何時の間にか、大きく膨らんでいた自分の想いに気付くのは、そう難しい事ではなかった。
私、やっぱり秀君が好きだ。
***
カフェを出ると、もう日が沈みかけていた。思ったよりも長い時間、優ちゃんと話し込んでいた事に驚く。少し前までは、優ちゃんに話し掛けるだけで緊張していたけれど、今では自然に会話出来るようになったんだな、と改めて実感した。
だけど、まだ足りない。もっと優ちゃんに近付きたい。
「もう暗くなりかけているね。送って行くよ」
「ありがとう。でも駅までで大丈夫だよ。秀君の家、ここからだと私の家とは反対方向になるんでしょう?」
「……じゃあ、せめて駅まで」
「うん。ありがとう」
家まで送りたかったけれど、優ちゃんに辞退されてしまった。最寄り駅はすぐそこだ。もうすぐ優ちゃんと別れなければならない。
今日は優ちゃんとずっと一緒に居られて、凄く楽しい時間だった。だけど、まだ離れたくない。もっと優ちゃんと一緒に居たい。ずっと話していたい。……優ちゃんと付き合いたい。
そうだ、ずっと想っていた所で、伝えなかったら、関係を変えられない。俺がジュエルに行かなければ、何か口実を作らなければ、会えないのは嫌だ。何時でも好きな時に優ちゃんに会える権利が欲しい!
「あっ、あの、優ちゃん!」
駅の改札口を抜け、別々のホームに行く手前で、思い切って優ちゃんに話し掛ける。
「どうしたの? わっ!」
「あ、すみません」
急に立ち止まってしまった為か、後ろから来た人が優ちゃんにぶつかってしまった。
「大丈夫? ごめん、俺が呼び止めちゃったから」
「ううん、平気だよ。それで、どうしたの?」
邪魔にならないように端に寄ると、改めて優ちゃんが尋ねてきた。もう一度……と思ったけれど、今ので少し冷静になってしまった。
……女の子って、シチュエーションとか気にするよな? こんな人通りが多い駅の構内で告白だなんて、ムードも何もないし、下手したら優ちゃんを困らせるだけなんじゃないか?
「あ……えっと、ごめん、何でもない」
「そうなの?」
きょとんとした顔で小首を傾げる優ちゃんも可愛い。そして俺の馬鹿!!
「じゃあ、もうすぐ電車が来ちゃうから行くね」
「あっ、うん。今日はありがとう」
「どういたしまして。じゃあね」
背を向けて、優ちゃんが去って行ってしまう。と思ったら、優ちゃんがくるりと振り返った。
「あ、そうだ。妹さんへのプレゼント、喜んでもらえたかどうか、また今度聞かせてね!」
「あっ、うん! 勿論!!」
優ちゃんの姿が見えなくなるまで見送りながら、俺は喜びに打ち震えていた。
やった!! 優ちゃんと次の約束が出来た……!! そうだ、今度はお礼と称して、優ちゃんをデートに誘えば良いんだ! そこで今度こそ告白を……!!
だけど、こういう切っ掛けが自分で作れない辺り、やっぱり俺はヘタレと言われても仕方がないのかも知れない……。