同居人
満腹になり、二人は同時にごちそうさま。と言って椅子から立ち上がる。
芙美はイオリの後をついて歩いていく。
時間はこの時点で21時をまわっていた。
時間は夢国も同じ流れで1日24時間あるという。
日本と違うのは四季がなく年中過ごしやすい気候であるということ。
日本でいうと春の陽気に近い。雨もあまり降らないようだ。
21時を過ぎているのに街はとても明るく、人通りも多い。
「もうお店も閉まる時間なのに、どうしてこんなにまだ賑やかなんですか?」
「夢国で住む人たちは太陽が出ている時間に眠り、月が出たら起きるんだよ」
「えっ!昼間に寝るんですか?」
「不思議だよね。僕もここに来た時はなかなか慣れなかったよ」
「イオリさんはもう夢国にきて長いんですか?」
「そうだね……もう何年か、忘れちゃったな」
そういって少し寂しそうに微笑むイオリ。
ガタンコトン…
聞きなれた音がした。
音がする方向をみると電車が走っている。
月をモチーフにした青い電車だった。
どうやら街中を走っている路面電車のようだ。
電車に乗り込み、空いている席に座る。
窓から見える世界は芙美のいた世界と変わらなかった。
違うのは車が走っていない事と星と月がとても輝いている事。
大都会に住んでいる芙美にとってはとても新鮮な光景だった。
イオリは何も言わず、外の景色を静かに眺めていた。
その横顔は今にも月の光と混ざり合って消えてしまいそうな儚さを感じる。
何も言葉を交わさず10分ほど経ったところで、イオリがバスの停止ボタンを押した。
「次、降りるよ」
バスが停まり、降りるときにイオリは腕輪をバスの運転手にかざし、お金を払ったようだった。
「はい。足元気を付けてね。お嬢さん」
「あっ…ありがとうございま……す!?」
思わず最後に声が裏返る。
バスを運転していたのは大型犬だった。
普通に人間の言葉を話している。
「ん?わしの顔になんかついてるか?」
「あっ…いいえ!ありがとうございました!」
そういうと、芙美は急いでバスから降りる。
バスが過ぎ去っていくと芙美は胸の鼓動がドクドク脈打ってる事に気づいた。
「夢国は動物…言葉を話せるんですね?」
「ほんの一部だけどね。虫も言葉を話す事できるやつがいるよ」
「ま…まさかあの黒い物体も…」
「あぁ。あの黒いカサカサするやつね。うん。たまにいるかな。あまり会ったことはないけど」
芙美は気が遠くなりそうになった。
街の喧騒からは遠さがって静かな住宅街になっていた。
マンションもたくさん建っている。
イオリの後について少し歩いたらイオリが立ち止まった。
「ここが僕の家だよ。どうぞ」
案内されたのは昭和を感じさせる平屋の純和風住宅だった。
周りの家からは少し浮いていたがイオリのイメージに合っている家だなと思った。
「何もない所ですが、どうぞ」
扉を開けると木と畳の匂いがした。
扉を開けるなり、部屋の奥からバン!ガタン!と何か物音がした。
「イ~オ~リ~!!やっと帰ってきたのか?腹減った!めぇ~し~!」
芙美の顔に柔らかいふさふさとした手触りのいい物が飛んできた。
そのまま芙美は後ろに倒れてしまう。
「えっ?イオリじゃない?誰だお前?」
「いたた…」
芙美は体を起こして、目を開けると太ももの上にちょこんと乗っていたのは、数時間前に見たうさぎ。
「う…ウルナ…さん!?」
「あっ。お前ブルーのやつ」
「顔見知りだったなら話は早い。今日から三人で暮らすから」
「「ええっっ!?」」
ウルナと芙美は同時に驚く。