腕輪の色
芙美は皿を持ちながら、どんな料理があるのか見てみると、馴染みのある料理も沢山あったが、見たこともない料理や虫などを使った料理までなんでも幅広く並んでいた。
料理された物の前で止まると、目の前に文字が現れ、どんな料理なのか説明をしてくれる。周りを見渡すと日本人だけでなく外国の人も多くいた。色んな言語が飛び交っている。
外国人が止まると、説明の文字が日本語ではなく、その国の言葉に略される。
芙美は和食を中心にとって席に戻る。
「イオリさん…もうデザートですか?」
イオリが持ってきたものはケーキやパフェ、和菓子にまんじゅう…特に多かったのがみたらし団子だった。
十本はあるんじゃないだろうか。
「?これが僕のご飯だよ」
「えっ…イオリさんお米とか食べないんですか?」
「そうだね。あまり食べないかな」
芙美はイオリが少し変わってる人だなと思った。
男の人でここまで甘党の人は見たことがない。
体に悪そう…と思いつつも、もう死んでいるんだから、健康に気を遣わなくてもいいのか?と疑問を持ちながら、ご飯を口に運んだ。
慣れしたんだ味だった。とても美味しくて、緊張が少し解けてきた。
「芙美ちゃんはえらいね。ちゃんとの食事のバランスを考えて」
イオリの皿と比べて、芙美の皿にはサラダや煮物、魚に肉など彩りが綺麗だった。
「私はおばあちゃん子で、和食がメインのご飯ばかり食べていたので、自然と和食が好きになったんです」
「おばあちゃんから沢山愛情もらって育てられたんだね」
「はい。幼いころに父母を同時に事故で亡くしてしまったので、祖父母が変わりに私を大切に育ててくれました…だから…」
芙美の目頭が熱くなる。
こぼれそうな涙を何とか抑えながら、イオリに気づかれぬよう俯く。
「私が死んだって聞いたら、おばあちゃん…おじいちゃん…悲しませちゃう…」
震える声で何とか吐き出すと、急に目の前が暗くなった。
イオリがハンカチを芙美の目にあてて、子供をなだめる様な優しい声で言った。
「泣かないで芙美ちゃん。大丈夫だから…それに君はまだ死んでいない」
「えっ…」
「一気に色々話すと混乱すると思って。でも大事なこと最初に言わなきゃならなかったね。配慮が足りなくてごめん」
イオリは芙美の頭を軽くなでると、いつの間にやら芙美の涙も止まっていた。
「夢国は死者だけしか来られないはずなんだけど、たまに迷い込んでくる人がいるんだ。それが仮死状態である人間。つまりまだ生きているはずの人間。本当に稀なんだけどね1年に1度あるかないかくらい。芙美ちゃんの腕輪は青いだろう?それはまだ生きている人間である証拠で、赤い腕輪は死者なんだ」
周りを見渡すと、皆赤い腕輪をしている。
イオリも赤い腕輪をしていた。
「イオリさんの腕輪の月は銀色なんですね」
芙美も他の人も、月は黄色だった。
「僕はわけあって銀色なんだけど、珍しくないよ。ほかにも何人かいるしね」
「私は戻れるの…?」
「戻れる!とは断定出来ない。芙美ちゃんの生きる意志次第で変わるんだ。早ければ今日や明日には戻れるかもしれない。けれど、その猶予は10日間しかない。生者は夢国に足を踏み入れた瞬間から240時間内に目覚める事が出来なければ、死んだ者とみなし、この国の住民になる」
芙美は自分の血の気が引くのを感じた。
生き返れるかもしれない。もしかしたら死ぬかもしれない。それがこの10日間で決まってしまう。
「大丈夫だよ。芙美ちゃんならきっと元の世界に戻れる」
そういわれるだけで安堵した。
大丈夫。私は帰るんだ。と自分に言い聞かせる。
「お腹いっぱいになった?」
「あっ!ごめんなさい。デザートだけとってきてもいいですか?」
「ここはみたらし団子がおすすめだよ。僕もみたらし団子おかわりに行くよ」
「えっ…まだ食べるんですか!?」
「みたらし団子は別腹だよ」
頬にタレがついたイオリの笑顔を見て、半ば呆れつつも可愛い人だなと思った。
デザートを選んでいると、後ろから誰かに押されてよろつく。
イオリがとっさに芙美の腕を掴んで支えた。
「あ~ら、ごめなさいね」
かん高い声が後ろから聞こえた。
「って…イオリじゃない!」
背が高くてモデルの様にスタイルがいい。
長髪の黒髪で目がキリっとしてて薄化粧なのに、色気があってとても綺麗な人だった。
「レイナ。気を付けて」
レイナと呼ばれた女性はイオリに抱きつくと嬉しそうに頬ずりをする。
「もう、最近全然会えなかったから本当に寂しかった」
先ほど高圧的な態度からは想像できないほどの甘えっぷりで、芙美は瞬時に苦手な人間だと感じ、距離をとる。イオリは特に困った様子もなく慣れたように受け流してレイナが抱き着いている腕を外す。
芙美はデザートを選び、食後のコーヒーを入れている時に後ろから話しかけられた。
「ところで、おちびちゃん誰?」
レイナが腰を曲げて芙美の顔を覗き込む。
150センチすしかない芙美に170センチ以上のレイナの圧がかかる。
「この子は僕が担当している子なんだ」
「そうなの?イオリが付くなんてあなた幸運ね。…ん?この子ブルーじゃない!」
その言葉に周りが少しざわつき始める。
「へぇ~私ブルーの子なんて今まで聞いたことしかないわ。実物みるの初めて」
「君はまだここに来て短いからね。とにかくあまり大きな声出さないで。この子が怯えるから」
「ごめんなさい~イオリ。じゃ、また連絡するね~ばいばい~」
そういってレイナはその場を去った。
イオリと芙美は同時にため息をつき、顔を見合わせて、苦笑いして席に戻った。