新たな生活
カツンカツンと下駄を鳴らしながらゆっくりと歩いていく。
芙美はその男の人の後についていく。
「自己紹介まだだったね。僕の名前はイオリ。好きに呼んでね芙美ちゃん」
突然名前を呼ばれた芙美はドキッとした。
あまり男の人と話したことないのもあり、男の人から名前を呼んでもらうのはどこか気恥ずかしかった。
「ここは夢国の中核でもあるセントタワーと呼ばれる所なんだ。ここは…すべての始りであり終わりの場所ともいわれている。その理由は…長くなるから省略させてもらって…芙美ちゃんには今日から10日間ここで暮らしてもらう」
「えっ?暮らすんですか?」
「そう、僕とね」
「そうなんですか……………んっ?イオリさんと!?」
芙美が驚くと同時にイオリが立ち止まった為、止まれなかった芙美はイオリの背中にそのまま衝突してしまった。
「す…すみません」
「大丈夫?」
イオリが鼻をおさえて俯いた芙美の顔を覗き込む。
近くで見るとより美しい。青色の瞳に目がはなせなくなる。
「だ、大丈夫です!」
「少し赤くなっただけだね」
イオリは芙美の鼻を軽く触って確認すると、何事もなかったかのように前を向いた。
イオリは何もない壁に手をかざすと、そこから新たに扉が出現する。
扉が開くと、また美しい光の街が眼下に見えた。
どうやらエレベーターのようだ。
「ピコリ。3階まで降ろして」
「了解致シマシタ」
光の街が段々と近づいていく。
ポーンという音と共に「3階デス」と言い、扉が開いた。
夜だというのにお祭りか何かあるのか。凄い賑わいだ。どこかのショッピングモールにいるかのようだった。色んなお店が並んでいた。
「ここはレストラン街だよ。お腹、すかない?」
そういわれてみれば、芙美は夕食を食べていなかったのでお腹がすいていることに今気づいた。
「死んでるのに、お腹ってすくんですね」
「そうだよ。ここで暮らしている人達は皆、生きていた時と同じように生活をするんだ。あっ、芙美ちゃんは何でも食べられる?」
「はい。嫌いな物は特にないです」
「えらいねぇ。僕は偏食だから。じゃバイキングにしようか」
イオリがそういうと、目的のお店に向かって歩いていく。
その途中で通行人がイオリを見て顔を赤らめらり、はしゃいだり、中には喋りかけてくる人達もいた。
男女ともに年齢幅も広く子供からお年寄りまで。
「有名人なんですね」
「たまたま僕を知っている人達がいただけだよ」
目的のお店についた。リゾート風のバイキング会場だった。
イオリはスタッフに腕輪を見せるとスタッフはそれをバーコードリーダーのようなもので読み取ると、宙に何やら数字のような物が表れ、数字が動いた。
「二名様。ご案内します」
店員に言われ、席に案内されて腰を掛けた。
「あの、すみません。もしかしてお金を払って頂いたんじゃないですか?」
「そんなこと気にしないで、ちゃんと後で請求するから」
「えっ…」
「……ふふ。嘘だよ。とにかくお金の心配はしないで。必要な物あったらその都度言ってね。じゃ、ご飯取りに行こうか」