扉、開く
目も眩むほどの光が空から落ちて、鼓膜が破れるかと思うくらいの爆音が鳴り響いた。
地響きを感じ、辺りから悲鳴があがる。
「だから言っただろう?せめてものの慈悲だ。苦しまずに逝け」
芙美は恐る恐る目を開けると、周りから再び悲鳴があがる。
人混みの間から少し見えたが、罵倒をしていた人達が倒れこんでいた。
「落雷は、この世で一番苦しまず早く死ねる方法なんですって。こんな輩にまで優しいあの方は…神でしかないですね」
ウルナはくくっと笑った。
恐怖でガタガタと震えだす人や泣き出す人まで出てきて、異様な雰囲気になってきた。
「もう時間がないぞ!始めよう~」
ウルナは持っていた月のステッキが軽く振ると、砂浜から月へ続く長い光の一本道が現れる。
小さい子供の手をひいているウサギや、赤ちゃんを抱っこしたほウサギ達は一本道に足を踏み入れると、動く歩道のようにそのまま月へ向かって自動的に運ばれていく。
「20歳以下の者は強制的に乗ってもらうぞ~ほれっ!」
ウルナがステッキを回すと、突然芙美の左手首から青い光が放った。
いつ、つけられたのか腕輪がしてある。他の人たちの腕にも同じものがあった。
月のロゴが一つ入っているだけのシンプルな腕輪だった。
その月のロゴから青い光が輝いている。
次の瞬間芙美は宙に浮き光の道へとゆっくり運ばれていく。
芙美だけではない。他にも数えきれないほどの人が宙に浮かんでいた。
「今、浮かんでいる者は20歳以下の者。さて砂浜に残っている20歳以上の者よ。選択は自由だ!まぁ、ここに残るというのは~賢い選択ではないとだけ教えてあげよう。私ってなんて親切なんだ。もし残るとしたら先ほど落雷にあった者と同じように生まれ変わる事はなく…ただ永遠この世を彷徨う」
「おい!くそウサギ!」
先ほど落雷にあって死んだはずの人達が宙に浮かんでいる。体が透き通っていて、向こう側の景色が見えていた。そして倒れこんでいた体から小さな光の粒が出て、空に向かっていく。そして体は全て消えてしまった。
「おい…俺らの体はどこなんだよ!」
若い男がウルナに向かって殴りかかろうとしたが、ウルナの体をすり抜けた。
「御覧の通り。生まれ変わる依り代は無くなり、魂だけの姿となった。こうなれば行きたい場所どこへでも行けますよ~。夢の世界旅行もできます!
でも今は見えていますが、魂だけの状態になった者同士で話す事は出来なくなります。もうすぐお互いに見えなくなりますからね。どういう事がその悪い頭でもわかるでしょう?ぐふっ。
そう、もう二度と誰とも話す事が出来ず、触れることも出来ず、永遠に死ぬことも出来ず独りで彷徨い続けます~。孤独が大好きだよーっていう人にはこちらの人生もおすすめですよ~」
それを聞いた途端、ほとんど人達が光の道に足を踏み入れていく。
砂浜に残っている人もわずかながらいた。
「さてあと30秒で道は消えるぞ~。ん?お前ブルーか。めずらしい~」
ウルナが近くにいた芙美の腕輪を見て言った。突然話しかけられて一瞬身を構える。
「ブルーなら希望ありですね~」
芙美は周りをみるとほとんどが赤い光を放つ腕輪をしている人達だった。
芙美の所からは青い光の腕輪をしている人は見つけれれなかった。
「はい。制限時間すぎました~。では行きますよ」
芙美は光の道に着地する。ウルナも同時に着地した。するとゆっくりと月へ向かって動きだした。
「君たちが行くところは天国でも地獄でもありません~。んーそうですね。もう一つの別世界その名も
【夢国】
楽しい所ですよ~」