邪神教の終わり、そして新たなる試練へ
とうとう邪神教の本部に乗り込もうとしたリーサ達一行、だが、Sクラスの仲間の精神は邪神教とは言え人を殺した事に罪悪感を覚えていた。いくら殺らなければこちらが殺られる状況だったとはいえ、11歳の少年、少女たちには心への負担が大きかった。いくら異世界で死は常に隣りあわせだと言っても殺した人数が人数だった、一人頭30人~50人を殺しているのだ、しかも神様からの試練で自分固有のスキルやドラゴンの恩恵の使用は禁止されていた、それらに慣れてしまうと、いざという時に仲間や護衛対象を助けられないことがあるからというものだった、確かにそうだ、常に護衛対象を守りながら、敵を殺さないで護衛対象も仲間も傷つけないというのは、相手との力量差にかなりの開きがあった時だけだろう。いや確かに個人の能力だけで言えば常人とはかけ離れた攻撃力、防御力を持っているのだが、どれも威力が強すぎる、それに護衛対象がいた場合はどうだろう?今回の様に敵が特殊なアイテムや邪法を用いてきた場合はどうだろう?相手を殺さずに対応ができるだろうか?否、出来はしないだろう、そんな状況下でSランクになってしまったリーサの仲間を見かねて。今回神様からスキルやドラゴンの恩恵を使わずに己の体と剣のみで戦えと言われたのだ。だがそれに耐えきれず、子供達の精神は確実に蝕まれて行った。あのリーサでさえもだ、そこで女神ベルウッドはリーサに約束した強い精神力を子供達に授ける事にしたのだった。そのかいもあって子供達は皆、精神力が強く成り人を殺したという罪悪感が軽減したのだった、勿論それが悪人だったからだが、そして邪神教の本部に乗り込み邪神教を壊滅させることに成功した。だがリーサにはまだやらなければならない仕事があった。ドロアスダ神の封印だ、生贄を要求するような闇落ちした神は封印されても仕方がない。女神ベルッドにも封印を勧められていた、そこでリーサは生贄を捧げる台座に自分の血を数滴たらしドロアスダ神を顕現させた。顕現したドロアスダ神は神像に自分の姿を映して、リーサや仲間にその神像を封印させた。だがそれは偽物だったのだ、ドロアスダ神は卑怯にも、リーサの幼馴染でもあるローナに姿を変えてリーサの血を舐めたのである。寸前のところで血を吸い取られることは無かったが、だがリーサは幼馴染でもあるローナに姿を変えて近寄ってきた事に腹を立てて、神々が創りし聖剣、神羅万象が斬れるアルファと何者にも負けない封印の力を持つベータを呼び出した。リーサのイメージ魔法と言う特殊な魔法を糧にして、擬人化が出来るようになった二刀、そのうちのアルファの擬人化を解いて、ドロアスダ神の体を6個に切り裂いた、そしてベータは人型のまま神々の時代から使われていた古語を使い、ドロアスダ神を封印した、だが、ドロアスダ神は邪神とはいえ神だ、このままではいくらベータの封印が強くても封印が解かれてしまうとの事だった、ベータからの願いでリーサは世界の端に邪神ドロアスダの体を一ヶ所ずつ埋めてきて、邪神教の本部に戻るとリーサは神殿を破壊したのだった。
そして、生贄にされそうになっていた人たちを預けていたギルドに戻ると、大変な騒ぎだった、攫われた人達の中に貴族や王族の娘なども居たからだ。勿論攫った人間には懸賞金が掛けられていたし、行方不明の捜索願も多数出ていた、それをSランクの冒険者が何十名かとはいえ見つけてきて、攫った人間は始末してきたのだ、ギルドとしては行方不明だった事件が少しでも解決し、今後同様の事件が少なくなるのだから万々歳だ。勿論全ての人が助かったわけではないがこれからの調査が楽になる。アジト近くの死人が打ち捨てられていそうな場所を調査すれば、更に行方不明の人の身元が明らかになるだろう、ギルドでは大規模に冒険者を募って生贄になってしまった人たちの調査に出る事になった。Sクラスのみんなで手分けして冒険者達を転移で元アジトに連れて行った。そして調査にも各自協力した、その他にこの世界には口寄せ屋と言う転生前の世界で言うところの霊媒師の様な職業があるらしい。ギルドからの依頼で口寄せ屋も各地から呼び寄せられていた、みんなは、その口寄せ屋も連れて邪神教の元アジトに向かったのだった。邪神教殲滅から数日、行方不明者の捜索に駆り出されていたがそれも終わり、かなり多めの報酬を貰って帰っていく事にした。だが冒険者ギルドはそれからも大変だったらしい、死体が埋められていた場所に普通の口寄せ屋を連れて行くと、怨嗟の念で気が狂いそうになり、高位の口寄せ屋を連れて行かないといけなかったのだ、高位の口寄せ屋は数も少なく依頼料も高いのだが、王族や貴族の娘が行方不明な事もあり依頼料はそこから出る事になった。もし仮に死んでいたとしても、埋葬だけはしてあげたいという親心からだ。邪神教の信者も、より高位の魂を捧げようと王族や貴族を狙っていたみたいだ。まぁ数を集めてというアジトもあったみたいなので、どこの誰だかわからなくなってしまったアジトもあったみたいだが・・・・、とにかく高位の口寄せ屋を多数集めて、何とか全ての遺体の埋葬が終わったのは、事件解決から1か月後の事だった。
「リーサ、邪神教事件の遺体埋葬が全て終わったそうだよ」
「リフレッド先生、やっと終わったんですね」
「あぁやっとだ、あれから色々手を尽くして、遺骨を家族のもとに帰す作業が行われていたらしい」
「そうだったんですね、私達には出来ない作業だったので、ギルドと口寄せ屋の方にお願いしてしまいましたが、やっと家族のもとに帰れたんですね」
「家族全員攫われたケースもあったみたいだから、全員が全員と言う訳では無いらしいがな」
「そういう家族はどうなったんですか?」
「口寄せ屋に色々聞いて貰って、故郷に墓を建てたそうだ」
「そうですか、皆成仏してくれると良いですね」
「大丈夫だろう、今回はかなり高位の口寄せ屋が集まったらしいからな、亡くなった者の希望をかなり叶えたそうだ。その資金は王族や貴族が出したみたいだ、世の中捨てたもんじゃないな」
「そうですね、今回の事件は吟遊詩人の歌でもかなり評判が高いみたいですから、王族や貴族もお金を惜しまなかったのでしょうね」
「かもな、自分の子供だけ埋葬できれば構わないという考えだと、民衆が納得しなかったんだろうな」
「偉い人も大変ですね」
「そうだな、だがその分、普段美味しい思いもしているからしょうがないだろう、だが今回は逆につらい目にあってしまったがな」
「そうですね、身分が高いからというだけで攫われた人も多いみたいですからね」
「そのせいで、盗賊の仕業じゃないかと思われていて、邪神教がノーマークだったんだがな。っというか邪神教という存在が発覚したのもリーサの手柄だからな」
「手柄と言うより、私がターゲットになっていたせいで、仲間を危険に晒してしまいました。ローナの家は近かったのでアヤメさん達が邪神教の信者を倒してくれましたが。他の仲間は家が遠かったので、神様にお願いして邪神教の信者を一気に無効化してもらいました、そうでなければどうなっていた事か・・・」
「まぁ気に病むな、みんな無事だったんだし、邪神教も殲滅したんだ、もうこんな事は無いさ」
「そうだと良いんですが・・・・また似たような事があるかも知れないと思うと、みんなと離れづらいんですよね」
「何だ?リーサはみんなと別行動をとるのか?」
「そろそろ私も、特Sランクの仕事を少しは経験してみたいなと思いまして」
「そうか、寂しくなるな、だがしょうがないないつまでもリーサに守って貰う訳にもいかんしな。クラスのみんなは私がしっかりと面倒を見よう」
「宜しくお願いします。もし私絡みで何か問題が起きたら携帯に連絡をください、飛んで帰ってきます」
「ところでリーサ、朝早く私の家に来たのはそれを伝える為か?」
「えぇ、一応リフレッド先生には先に知らせておこうかと」
「まぁそうだな、その方がみんなを説得しやすいな」
「実は邪神教騒ぎの前にこの話をしようと思って、学校に行ったのですがそれどころではなくなってしまったので、大人しくしてました、みんなにも迷惑をかけたし・・・・・・、事件が全て解決するまでは黙っていようと思ってたんですが、我慢できませんでした、でも今日我慢できずに先生のもとに相談に来たら、全て解決したって聞いて少し安心しました。今年度から増えた特Sクラスも、以前育てた先生たちが受け持てるようになっていますし、みんなも今回の件で、殺らなければ殺られるっていうのはよく分ったと思いますし。もう大丈夫かなって思っています」
「そうだね、みんな悪党には容赦なく戦えるだけの精神力だけは身に着けたからね、リーサがいなくても大丈夫だろうね・・・・でもみんな寂しがるだろうけどね」
「こればっかりはどうしようもありません、いずれ違う道を行くのですから、それが早いか遅いかの違いだけです、私も寂しいですけど・・・・・ずっと離れ離れなわけではありませんし、クエストによっては、また一緒に冒険者として共闘できると思うんです」
「そうだな、お互い冒険者である限りどこかで接点はあるからな、まぁみんなの事は任せておきなさい」
「宜しくお願いします、幼馴染でまだ年齢も若い事もありますが、特にローナをお願いします」
「分かってるよ、リーサもそうだけど二人ともまだまだ子供だからね、しっかりと面倒見させてもらうよ、さてそろそろ学校に行かないと遅刻しちゃうぞ」
「そうですね、朝の忙しい時間に申し訳ありませんでした」
「気にするな、生徒の悩みを聞くのも先生の仕事だ!」
「ありがとうございます」
そして二人は学校に行き、クラスの仲間にリーサの今後について話をした。みんな色々言いたそうだったが静かに聞いてくれたし、最後にはクラスみんなで送り出してくれた、特にローナは寂しそうにしていたので最後に抱きしめて『また戻ってくるんだから、ローナも強く成って待ってて』と言って別れたら『必ず無事に戻ってきてね』と釘を刺されてしまった、私は余程無茶をすると思われているらしい。まぁ否定は出来ないが・・・・・そうしてみんなにしばしの別れを告げて学校を後にした。校長には邪神教の件が片付く前に休職手続きと休学届を一緒に出してある。校長は『今まで学校に残した功績を考えると、今回の件は受けない訳にはいきませんね』と言ってすぐに書類を書いてくれた。これで私は晴れて自由の身だ・・・まぁ商人ギルドと、鍛冶師ギルドには商品を卸しに来ないといけませんがね・・・でもそれ以外は自由だ、特Sランクの依頼が受けられる、仕事を教えてくれる先輩もいる、こんな幸運はないだろう。さて、一回ドワーフ王国に戻ってヴィヴィアンさんに仕事を教えてもらおう。
城に帰ってきて、パパンとママンに挨拶して、妹達をただいまのギューっと抱きしめたらヴィヴィアンさんの部屋に行く。部屋に着くと気配はある物の凄く静かだった、何かあったかと思いそーっとドアを開けたら婚約者のランスロットさんと抱き合ってキスをしていた、これはいかんと思いそーっとドアを閉めてでていこうとすると、後ろからヴィヴィアンさんに首根っこを掴まれてしまった、これは逃げられないと思い素直に謝ると、ヴィヴィアンさんのもとに来た理由を告げた。するとヴィヴィアンさんは『一人に教えるのも二人に教えるのも変わらないわ』と言って快諾してくれた。っという事は、ランスロットさんは私の兄弟子になるのか?まぁ良いかどうせSランクでも先輩だったんだし、っという事で私とランスロットさんは、ヴィヴィアンさんを先生にして特Sランクの仕事を覚える事になった。そしてヴィヴィアンさんが冒険者ギルドに行きましょうと言うので素直について行った。するとドワーフ王国の冒険者ギルドでリーサがギルド長に呼ばれた、ギルド長の部屋に行くともう一人民族衣装の様な服を着た女性がいてこちらを睨んでいる。
「ギルド長、私をお呼びだそうですが何かありましたか?」
「そうだね、リーサにはいくつか聞きたいことがあってきてもらった、その前に自己紹介しよう私はこの冒険者ギルドのギルド長でジラルドと言う、隣にいる女性はユーディキウムのクヴァだ」
「リーサです、宜しくお願いします」
するとクヴァと呼ばれた女性は、少しだけ頭を下げたがこちらを睨んだままだ。
「ジラルドさん?なぜここにユーディキウムがいるの?リーサが何かしたって言うの?」
(ヴィヴィアンさん、ヴィヴィアンさん、ユーディキウムって何ですか?)
「それは私から説明しよう、ユーディキウムとは審判を司る者達の総称だ、要は疑われている人物が嘘を言っていないかを見破る専門の職業だ、各ギルドに一人必ず居る事になっている」
「ではジラルドギルド長、私は何かを疑われているのですか?」
「そうだ、今回の邪神教の殲滅は、確かに各ギルドに多大な貢献をしたことになっている。冒険者や、商人、鍛冶師が街の外で襲われる可能性が低くなったからな。だが邪神ドロアスダなんてものが本当に存在して、それを封印したという事が疑われているんだよ。そもそも邪神教など存在したのかも疑われている、何しろ証人になるはずの邪神教の信者は君たちに全員殺されているのだから。確かに口寄せ屋の話では、何か怪しい儀式の生贄にされたと霊が言っているらしいが、それもどこまで信用して良いのやら・・・・そこでユーディキウムに、リーサの言っていることがどこまで本当か、調べてもらっていると言う訳さ」
「そう言う事ですか、分かりました隅々まで調べて下さい」
それから数分待っただろうか、ユーディキウムのクヴァが静かに話し出した。
「ジラルド、彼女は何も嘘は言っていないわ。人に言えない過去があるみたいだけど、これは神の巫女だからかしら?それとも神様との会話の内容だからかしら、私にも靄が掛かっていて良く視えないわ。でも今回の件で、彼女自身が嘘を言っていないのは確かよ」
「そうか、クヴァがそう言うのなら確かな事なのだろう、リーサよ疑ってすまなかった。しかし邪神とはいえ神を封印など、どうやったのだ?」
「それは秘密です、もし今後似たような宗教ができた時に、自分たちの神が唯一無二の存在だとして、他の善良な神を封印されてしまっては、この世が終わってしまいますからね」
危ない危ない、いくら特Sランクとは言え、神が創りし聖剣を持っているなんて噂が広まったら、誰に狙われるか分かったものじゃない。今まではランク的にも低かったし、貴族からの依頼を受けないように気を付けてたから貴族たちには目立たなかったが。これからは違う、お金や権力を持った貴族や王族が相手だ、今まで以上に気を付けないと。
「それもそうだな、チョットした興味本位だったんだ、気にしないでくれ。さて!それでは特Sランクの方が3人もいらっしゃってくれてるんだから。最高の依頼を用意しないとな!!」
そう言ってギルド長は自分の机から書類の束を出してきた、そして書類の束をめくっていくと、ふと手が止まった。
「これなんかどうだ?はやり病でチェスター国がかなりの死者を出しているらしい、この病の原因を探り特効薬を見つけてくる仕事だ、今回Sランク冒険者がチャレンジしているが結果は出ていない、幸いな事にSランク冒険者が病気になって帰ってくることが無かった事くらいか・・・・」
「ジラルドギルド長、そのはやり病の症状はSランク冒険者から聞いていますか?」
「あぁ、Sランク冒険者が帰ってきたのは昨日の事だからな、その時に報告を受けている、何でも吐き気と腹痛だな、特に下痢は症状が酷いそうだ、白い砥汁状の下痢を複数回して、そうして体中の水分が抜けてしまったのか。最後には老人の様にしわだらけになって死んでしまうそうだ。」
「熱や頭痛はありますか?」
「いや、不思議とそれは無い、むしろ熱は下がっていくそうだ」
ヤバイ、これってコレラの症状じゃん歴史の授業で先生が言ってたのと一緒だ、どうする?行くのか?止めるのか?早く決めないと。かと言ってこのまま死者が増えていくのを指をくわえているわけにもいかないし。チェスター王国って何処だっけ、この付近の国だったような、それじゃこのままって訳にもいかないな、鳥やネズミ等の動物が汚染物質を運んでくる可能性もあるし。特Sランクになって初の仕事がパンデミックを抑える事か、厳しいな・・・
「ジラルドギルド長、この病気はコレラと言って恐ろしく感染力の高い病です、汚染された水や食べ物を口に入れる事でかかります。あと調査に行ったSランクの冒険者を1週間隔離させてください、それと立ち寄った店や宿も1週間は営業停止にしてください、Sランク冒険者や従業員が発病しなければ営業再開しても構いません、あとは帰ってきたSランク冒険者と触れ合った者達も隔離してください。そして、もし腹痛を訴え下痢の症状が出た時は、水1Lに対し、砂糖大さじ4杯半と塩を小さじに半分入れたものを混ぜて飲ませて下さい、それとオレンジの果汁も少しずつ飲ませて下さい、そして汚物と汚物で汚れたシーツなどは全部焼却処分してください、そして病人の看病をしている人は頻繁に手を洗って下さい。今言った事をギルドの携帯電話を使ってチェスター王国とその周辺国に伝えて下さい。更にチェスター王国は人の出入りは禁止です、私達が向かって病気が完全に鎮静化したら出入国を解禁します。それまではウルグ王とエゼルレッド王に頼んで、救援物資を私が全て持って行きます」
「分かった、すぐに手配する私がやる事はそれだけでいいか?」
「はい!絶対に周辺国にも周知してください、もしかしたら被害が拡大しているかもしれません。私はこれからウルグ王の所とエゼルレッド王の所に行って、今用意できる救援物資を用意してもらいます。それでは失礼します、行きましょうヴィヴィアンさん」
それからは早かった、ウルグ王もエゼルレッド王も「チェスター王国かぁ・・・仕方ない、これも神の試練だろう」と言って救援物資を用意してくれた。何か含みのある物の言い方だったが、二人ともすぐに救援物資を用意してくれた。今は深く聞かないでおこうと心に決めてリーサは無限収納に物資を入れていくのだった