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TOO LATE

直子はイライラしていた。

1年前にはなかった感情だ。


結婚して6年、こども二人がうまれ上場企業勤務の夫と4人暮らし。

出産後は子供達を実家に預け、自分のキャリアを生かして仕事復帰。

年に一度は家族で海外旅行。誰から見ても幸せそうな家族だった。

1年前までは・・・


それは夫からの突然の告白だった。

夫、毅から「会社を辞めて、もう一度勉強したい。実は先月、大学院の試験を受けて合格した。このチャンスを無駄にしないし、そのために自分の時間を少し欲しい」

何事にも真面目な毅。 直子は動揺しながらも強く反対できず、彼の希望を聞いてしまった。


それからの時間は、直子の想像以上に大変だった。

今まで二人で分担していた家事、育児、そして家計、全て直子の肩にかかって来た。

毅も彼なりに頑張っていたが、直子の心の余裕がなくなっていることに毅は気付くことなく

自分の信じる道を進んでいた。


毅が帰宅するのは常に午前2時過ぎ。

大学院の後、生活費の足しにとバイトをしていたのだ。。

しかし、直子はお金よりも毅との時間、家族で過ごすことを一番望んでいた。

でも、、、悲しいことに直子はへそ曲がりで、素直に感情を表に出せない女性。

「あなたがいなくても、子供たちと楽しいわよ」 心と裏腹の気持ちを夫に伝えていた。


その出会いは、突然だった。

いつものように子供達を寝かしつけ、直子一人での夕食の後。

リビングで何気なくつけたパソコン画面。

「こんなに窮屈で退屈な毎晩。 誰かメルトモがいたらなぁ・・・」

直子は昔から手紙を書くのが好きで、雑誌の文通コーナーで

見知らぬ文通友達と知り合って、楽しい手紙のやり取りを思い出した。


思いつくまま、検索画面でメルトモ探しをした。

そこにあった一人の男性の書き込みになんだか惹かれ、気が付いたら返信していた。

直子が送ったメールは

「もうtoo lateでしょうか?」

どうしてそんな内容を送ったのか、、。 直子は彼のプロフィールを読んで

自分からは程遠い素敵な人。 きっと思うようなメルトモ見つけちゃったんだろうな〜って

自分勝手な想像からだった。


メルトモ掲示板に投稿した事も忘れていた数日後、

見知らぬ送信者からメールが届いていた。

「誰だろう? 隆雄って?」

読み始めて、あの人ってすぐに分かった!


直子と同じ30歳。 詳しいプロフィールを教えて欲しいとのこと・・・

嬉しくて、すぐに返信した。

最初はお互いの仕事のこと、家庭のこと。 他愛のない話ばかり。

「同級生とメールしているみたい楽しい!」直子は彼とのメールを心から楽しんだ。


隆雄からの誘いは急だった。

「来週の海外出張の帰国日、夕方から時間が空きます。よかったらお食事でも」


直子は正直戸惑った。 夫との生活に不満はないとは言えないが満足している。

新しい友達とも会ってみたいが不倫は真っ平ゴメン、考えられない。

「どうしよう・・・」 隆雄の誘いは深い意味はないかもしれない。

でも、メールだけのやり取りでどんな人か分からない。

「会って見たい」「やめておいた方が無難かも」

さんざん悩んだ結果、直子の好奇心方が勝ってしまった。


待ち合わせの場所に現れた隆雄はメールの内容通りの容姿。

「嘘のない人だったんだ」 直子はちょっと安心した。


早速、隆雄が予約した店に向った。

お酒の力もあったのか、、直子が思った以上に隆雄とは気が合った。

趣味、自分が不快と思う点、驚くほど共通点があった。

気が付いたらラストオーダーの時間。

割り勘をしようとする直子に

「女性に払わせるつもりはないから、心配しないで」静かに諭し

終電に間に合うようにと、駅まで送ってくれた。


帰り道、隆雄は何度も「直子さんは本当に結婚しているんだよね?」って

繰り返し聞いてきた。




隆雄と初めて会ってから、直子は自分が少しづつ変わっていることに気が付いていた。

不倫なんて、、家庭を壊すなんて、、考えられないと想いながら

また隆雄に会える約束をしたいと思う自分がいる。

「これ以上深入りしたら、自分が取り返しの付かない状況になるかも」

不安な気持ちを抱えながら、自分の感情をコントロールすることに苦労していた。



隆雄も直子と同じ気持ちだった。

結婚して5年。 従順だと思った妻は、自分の意見のないつまらない女性だった。

何事も決定権は自分にある。 


「どうしたい?」と聞いても「好きにして!任せるわ」との返事。

自分は何のため、誰のために一生懸命仕事をしているんだろうって疑問が常にあった。

数年前に会社を興し、気が付いたらヤングエグゼクティブと呼ばれていた。

お金も出来て仕事も順調、しかし私生活は不協和音が響いていた。



直子と隆雄はお互いに恋愛関係に発展することを恐れていた。

惹かれあう気持ちは二人とも分かっている。

でも、現実はそれぞれ家庭がある。 二人が愛し合っても悲しむ人が増えるだけ・・・

二人の幸せは人の不幸の上のしかないとお互い思っていた。 


毎日、メールのやり取りをしてそのまま数週間が過ぎた。


ある日、直子は急に出張を命ぜられた。

場所は偶然にも隆雄の会社のすぐ近くだった。

「会いたいけど、会ってもどうなるものでもない。彼も忙しい人だから」

言い訳をしながら、隆雄にメールをしていた。



「実は、あれから直子さんに会ってもらえないから嫌われたとずっと思っていたんだ。」

ランチの席で隆雄が話し始めた。

「家庭も子供もいる自分がこんな告白するのはおかしいけど、直子さんと初めて会ってから

君の事ばかり考えているんだ・・・ もちろん君にも家庭があることも分かっている。

だけど、自分でもわからないんだ、どうしたらいいか・・・・」


直子の気持ちも同じだった。

「どうして私は結婚前に隆雄に出会えなかったのだろう」自分の運命を呪ったくらいだ。

あんなに深入りを恐れていたのに、

隆雄の顔を見たときから「もうどうなっても良い」という感情に直子は支配されていた。


直子と隆雄はその日を境に、急速に惹かれあっていった。

もうお互い理性で止まることが出来ないくらいの強い感情があった。


「このまま死んでもいい」そう思いながら、直子は隆雄に抱かれていた。

お互いの幸せが続くと信じながら・・・

遅すぎた出会いでも幸せは必ずあると信じて。。。




隆雄との関係が半年ほど続いた。

会えるのは2週間に一度、メールは毎日。 隆雄と会えない日々はイライラばかり。

つい夫や子供達にもあたってしまう。 


ところがある日、隆雄からのメールがぱったり来なくなってしまった。

携帯にメールしても電話しても連絡無し、1週間が過ぎても何も音沙汰なし。

嫌な不安ばかりが直子の心の中に大きくなっていく。

「無理をして仕事ばかりだったから、倒れてしまったのかしら?」

最悪な想像ばかりするが、彼の家に連絡は出来ない。

海外出張に出かけていても、必ず連絡をくれる隆雄。

こんなに連絡がないなんて、絶対に尋常じゃないはずだ! 直子は直感で感じていた。



直子の嫌な直感は、本当に最悪だった。

連絡が取れなくなって2週間後、隆雄からメールが来た。

内容は想像を絶するものだった。


彼は運転中、小学生をはねてしまう死亡事故を起こしていた。

そのまま逮捕、監禁の身になり連絡が出来なかった。

今後はどうなるか分からないし、彼の奥さんは事故のショックと偶然知った直子とのことで

錯乱状態。 もう会うことは出来ない、自分のことは忘れて欲しいとの内容だった。


「神様からの天罰かもしれない」直子はそう思った。

隆雄を愛すれば愛するほど、自分の家庭もギクシャクしていた。

温厚な毅にもキツイ口調でイライラとあたり、毅とのケンカの回数も以前の生活より増えた。

敏感な子供達は直子の変化に気が付いたのか、甘えて駄々をこねることが多くなった。

時間が戻ればいい、、直子がそんなことばかり考えていた矢先の事故。



全てが遅すぎたんだ。。。 TOO LATE。


その後、隆雄からのメールは二回あった。

一度目は事故の裁判の結果、禁固刑になった、3年後に元気に戻ってくるから。と


でも、直子はもう隆雄に会うことはないと思っている。

彼とは運命の歯車が合わなかった。

もし、これから強引に隆雄に合わせたとしても、今の家庭を犠牲にすることになる。

愛する子供達に罪はないし、毅にも申し訳なさ過ぎる。


「これからは毅と子供達のために生きよう」そう決心した。

それからの直子は以前のように生活しようと努力した。

大学院を終了した毅も無事に再就職先が見つかり、手の掛かる子供達も

小学生になった。

全ては隆雄に会う前にリセットしたのだ、、直子はそう思った。そう思いたかった。

三年後の春、隆雄からメールが届くまでは。。。


to be continued












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