第一章 二話 『記憶の回廊』
意識が返ってきたのは夜が更けてからだった。
月明かりが僅かに差し込む中、俺は目をパッチリと開き、自分のベットの上で仰向けになりつつ、少しボーっとしていた。
「ーーーー」
改めて、今日の出来事を回想してみる。
「ーーーー」
全てはここから始まったと言っても過言ではないだろう。
あの、おぞましい悪夢だ。
俺が何の因果であんなもんを見せられなきゃいけないのか。さっぱり思い当たる節がないのだが、もう既に目撃したあの光景はしっかりと脳裏に焼き付いてしまっている。
想像しようとするだけでもショック症状で逝けそうな位だ。
しかし、冷静になって考察できる状態にはなったので、少しはまともに考えることが出来そうだ。
自分が壊れないように細心の注意を払いつつ、記憶の糸を紐解きながら考察を始める。
一瞬の閃光。
それから現れたのは地獄。
しばらく幻聴と戦った後に俺は死んだ。
普通に考えるなら、あの光が地球を滅ぼした、と言ったところだろう。
では、あの光は一体何なんだろうか。
俺は最大限の思考を巡らせた。
いくつか厨二的なものも含めてではあるが、ある程度候補は絞れた。
その中でも最も現実的な可能性があるのは『隕石』だ。
あれだけの破壊力、殲滅力。何と言っても空から来たのが一番の理由だ。しかも、『隕石』には前科がある。
当時、最強の爬虫類として食物連鎖のトップとして君臨していた、恐竜を絶滅させたのだ。人間と比べてしまうと知能以外は恐らく恐竜の方が上であるのは間違いない。そんな化け物を滅ぼした『隕石』にとってみれば、人間ごと地球を滅ぼすなんて容易いことだろう。
次は一気に現実味がなくなるが、『異星人の侵攻』だ。
近年ではよく心霊現象として宇宙人なんかもメディアなどで取り上げられているし、UFOの目撃証言も相次いで報道されているし、実際に宇宙人と会って話したと言い張る証言者も実在する。
信用するかは別として、地球外生命体が地球征服を目論んでくることは…
いや、ないわ。
だって人類より高度な技術持ってる上に酸素とか無くても生きていけるんだから。明らかに人類より高スペック。
地球に来る意味ないわ。
こうして二つ目の候補が消滅したところで、最後の可能性を思いつく。
しかし、それはあまり考えたくはないものだった。
3つ目の可能性ーー
それは『人』だ。
近年の科学の進歩は著しく、人智の範囲を超えるものもある。加えて、秘密裏に研究をしている機関もあり、未知数な点も多い。ひょっとしたらあれだけのエネルギーを作れる技術を保持する組織があるのかもしれない。
だが、だとしても、だ。
人があのような行為をして何になる、開発者自身も死んでしまうではないか。それに家族も、友人も、大切な人が居なくなってしまうのだ。
これが可能な『人』は狂人しかいない。
仮に原因が判明し、『人』だとすれば、開発者は確実に狂っている。
当然、会話も出来ないような相手だ、方法は殺すしかないだろう。
これで候補は出揃った。
とりあえず、今後はこれらの可能性を視野に入れ、調べる方針とする。
大きく脱線したが、話を戻そう。
夢から醒めた後、俺はとんでもない高熱に見舞われた。
本当に熱かった。
あの時は本当に生命の危機を感じた。
一目散にリビングに行き、誰かの声を聞いていなければ、お陀仏になっててもなんらおかしくもない状況だった。
しかし、その代わりに兄としての威厳がお陀仏になった。
起きてきたと思って少し話しかけたら突然の号泣を始め、ひたすら文章にもならない言葉を羅列しているような兄である。
しかも泣き疲れて寝ちゃうし。
俺が妹だったら素直にドン引きである。
それでも、俺の妹は優しかった。
泣いてる理由もわからないのに慰めてくれた。
俺の苦労を労ってくれた。
俺を抱き寄せてくれた。
彼女に言葉を掛けられるたびに心が浄化される感覚と、救われるような気分になった。
同時に、涙も歯止めがかからなかった。
どれだけ俺の心は侵されていたんだろうか。
今は悪辣な気持ちがほとんど残ってない。
すごい、妹。
俺の妹は世界一だ、間違いない!
と、喜ぶのはここまでにしておこう。
また脱線してしまった。
でも、俺の今日の記憶はそんなものだ。
泣き疲れてしばらく寝ていたからそこまで長い一日とは感じなかった。
むしろ、夢が長すぎた。
明日はまたやることがある。
号泣の真相とは、俺氏、弁明会見。
悪夢の研究。
妹への謝罪会見。
あー、忙しくなりそうだ。
熱いのには訳があるよ、主人公。