プロローグ
世界が滅びるとはこのことだろうか。
この世の全てが灰と塵と炎で構成されており、灰は宙を舞い、塵は空を覆い、炎は海となった。人がいる気配もなければ、叫び声すら聞こえない。
無と破壊しか残らない、残酷な世界になるまでの過程はほとんど隠されたものだった。
青天の霹靂だった。意識が飛ぶ寸前、見えたのはたった一つの世界を包む『光』だけだった。その『光』如きで何がどうしたらこの絶望が生まれるのか、不思議でならない。
決して自分は人類の代表ではないが、一瞬にして人類の積み上げて来た文明を、歴史を、そして人類さえも滅ぼした、その『光』に侮蔑、嘲笑されてるようでならなかった。
炎の中、そんな最後の思考を巡らせながら俺は仰向けで倒れていた。しかし、
「またーーやり直せるさーー」
そんな声がぼんやりと聞こえた気がした。
幻聴だ。それ以外あり得ない、もう人はいないのだから。
しかし、幻聴だとしても正直、言ってることもよく分からない。仮にこの地獄を見て言ってるのであれば、かなりの甘ちゃんか、相当な頭の悪さをお持ちの方だろう。ここまでの文明や技術に達するのに人類がどれだけ苦労したと思っているのだろうか。
そもそも、やり直すなどという選択肢は大元の人類が消えた時点で無くなってるのに、何でこんな戯言が聴こえたのだろうか。自分の願望が強過ぎた結果なのか。あの幸せな生活に戻りたかったからなのか。幸せなんてもう帰って来ないのに、それでもそれを望んでしまっていり自分がいるのか。
一気に感情が噴き出してきた。
戻りたい、戻りたい、戻りたい、戻りたい、戻りたい、戻りたい。
感情を抑え切れない。戻れないのに戻りたい自分が愚かで仕方ない。
「ああああああああああああああああああああああああああああ!」
今、自分の顔はどうなっているのだろう。
鼻水と涙をダラダラと流しながら、情け無い顔をしているのか。それとも、涙も鼻水ももう枯れてしまい、ただ、悲しい顔をしているのだろうか。
分からない、もう分からない。
このクソみたいな『光』は自分の弱味とタッグを組むまでして、俺を嘲笑って、馬鹿にして、蔑んでくるのかーー
おかしな感情を憶えていると、また、悪魔の囁きが耳に響いた。
「これがーー良かれと思ったんだーー」
何を言っているのだろう、もはや呆れを通り越しそうだった。
人類はもう滅びてしまった、その事実は揺るがない。しかし、もし、この地獄を創ることが人類の好機に繋がると勝手に信じ、これを計画し、実行に移したアホがいるとするなら、とんだ御節介であり、余計なお世話過ぎる。
『理解不能』、この言葉に尽きた。
でも、それが可能なのは人外しか存在しないし、何せ、先ほどから『光』と己の弱味がコンビを組んで放たれている戯言だ。とても信用するには値しないだろう。
普通に考えたらあり得ない。
でも、地球も滅ぶこともあり得ないと思っていたのに、この有様だ。
残念ながら、あり得ないことが起きてしまった今、簡単に幻聴を嘘だと断定するのは現在の自分にとってはあまりに酷な話だ。こんな幻聴ごときに惑わされてはならないのは分かってはいるものの、真面目に考えてしまう。
だが、もういいのだ。
幾ら嫌悪感を自らに抱こうが、どんなに悲しかろうが、嘲笑されたことに対してこれまでにない強い復讐心を持とうが、もう、終わりなのだ。
こんな情け無い自分とも、別れが近い。
せめて、最後くらい自らを労ってあげようか。
思考は諦めモードに入っていた。
しかし、無意識に口が開いた。
人生最後の心の抵抗だった。
「これが…良かれと思ってやった奴が…いるなら…顔を…見てみたい…な…」
ーー終わりが近い。この世も人生も。
一度しか味わえない死の訪れ。
眠気とはまた違う感覚だ。
そんな気持ちを噛み締めながら、
俺は瞼をそっと閉じた。
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