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残存ツンドラ旅行記Ⅰ  作者: 星野夜
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第8話『殲滅戦争』

「……私は、やっぱりアサシン族……なんかとは上手くやっていけない気がする。長老、悪いけど私、やっぱり敵になるみたい」

 そういってスノウは落とした刃を再び持って構える。俯いていた顔は、今はもう真っ直ぐと長老だけを見据えていた。何かが吹っ切れたかのように澄み切った真剣な瞳をしている。

「そ、そうかな? なら、仕方ないな。こちらも敵をみすみす逃すことはせんからな」

 長老はそう言ってから右手で合図をする。直後、目前のアサシン族民全員が武器を手に周囲を取り囲んだ。トルクはそんな状況下で悠々としていて、スノウは負け戦とは思わずに真剣そのものだった。

「じゃあ、私はこの無意味な戦いは辞退します」

 リリアは奥まで下がって、一番後ろの席に座って傍観者を決め込んだ。

「お別れの殺戮会を始めよう」

 長老がトーンを下げた声でそう宣言し、腕で合図を出す。それと同時に、周囲を取り囲んでいたアサシン族民が容赦なく二人へと襲いかかる。

「もう、遅い。俺の攻撃は既に終了してっからよぉ」

 トルクは余裕そうにそんなことを呟く。突如、集会場入口部が扉を吹き飛ばす勢いで開かれ、一匹の狼が乱入してきた。その巨体で跳躍し、トルクとスノウの前で着陸した。その間、なぜか三名ほど負傷者が出ていた。それぞれに太もも部に的確に矢が突き刺さっている。それは、乱入してきた狼の上に騎乗する一人の少年の持つ弓から放たれたものだった。

「お待たせ、トルクさん。それにスノウ」

 狼の上に乗っているのはカイト。そして狼はトルクのペットのフェンリル。カイトの持つ矢の種類が打撃から貫通に変化していて、確実に傷をつける目的で構えている。緊急事態だから、普段は使わないものを使っている。

「敵はざっと二十五ぐらいかな? 三人いれば問題ない人数だね」

「三人? 狼含めてか?」

「じゃあ、三人と一匹で」

 カイトは二人の安否を確認するやいなや、即座に弓に切撃矢を番う。フェンリルはそれを察知したか、急に飛び上がって乱雑に動き出す。その際、軌道上にいるアサシン族民は踏み潰されたりして負傷した。フェンリルへと弓撃が飛び交うが、フェンリルに矢が当たることはなく、カイトはフェンリルのおかげで矢の攻撃を回避している。誰もフェンリルのスピードには追いつけていなかった。カイトはぐらつく座でも正確に敵を打ち抜いていく。ただ、太ももを狙った攻撃なので殺傷はしていない。そんなカイトの身体はロープでフェンリルに固定されているので、落下することはない。そんなカイトとフェンリルの活躍を見て、スノウとトルクも奮起する。

「さーて、ひと仕事してやるかー」

「気が引けるけど……それでも、私はやっぱり『プリンス族』だから!」

 弓を構えるトルクとナイフを逆刃で構えるスノウ。敵のほとんどはフェンリルの大暴走に夢中になってしまって、二人の戦闘態勢に気づいているのは長老とリリアだけだった。長老は成長したスノウに少しばかり嬉しいのか笑みを浮かべ、リリアも微笑して、席から立ち上がり、腰に取り付けていた長刀を引き抜く。

「トルク、あの髭は私の獲物だからね♪」

「分かってるっつーの。俺もよぉ、珍しい武器を使うお嬢さんと戦ってみたいとこだった」

 ささいな会話を終えた二人はそれを合図に動き出す。トルクは弓使いなので距離を取るために集会場内を大きく迂回しながら弓に矢を番える。リリアは真刀を構えて憮然としている。トルクが後ろ側を回っていても顔を向ける気はないらしい。

 スノウは猪突猛進。ナイフ切刃ではなく、棟の方を構えて長老へとシンプルに攻撃を仕掛ける。余裕ぶっている長老はその攻撃を片腕で押さえつける。痛がる気配はなく、細身な身体つきとは思えない腕力を誇っていた。スノウのナイフを弾くと、僅かな隙を突いて腹蹴りを決める。クリーンヒットしたスノウは入口付近まで吹っ飛ばされて背中から落下する。肺にダメージが到達していて呼吸が一時停止し、苦しんでいた。

「スノウよ、これはちょっとばかしの鍛錬じゃよ」

 不敵な笑みを浮かべて長老は言い寄る。スノウは何とか息を吸い込むと、壁を使って立ち上がる。

「後ろ、危ないよ?」

 スノウが弱々しくも笑顔で呟き、咄嗟に振り向いた長老。目の前にはフェンリルが迫ってきていて潰される瞬間だった。長老は反射的に回転回避、フェンリルの突進を避けきる。立ち上がって身構えた時にはスノウの姿が目前だった。スノウのナイフの棟が長老のこめかみを捉え、一撃にしてノックダウンさせる。

「前も、危ないからお気を付けをね♪」

 長老にはまだ意識があるようで、スノウは一歩後退して距離を取る。こめかみへの攻撃は相手の意識を飛ばさせるものだったが、長老が思ったよりもタフらしい。

「……そういうあなたも後ろが危ないけど?」

 そんな声が背後からしてスノウはビクリと身体を震わす。その直後に頭部に強烈な衝撃を受けて一瞬にして視界が傾き地面に倒れてしまった。何が起きたのか理解しようと視界を上へと向ける。そこには長刀を逆向きに持って、こちらを覗き込むリリアの姿。

「ト、ルク……? 負け、た?」

「いいえ、負けてなどはいないが……攻撃を仕掛けるのが遅い、だけ……。私は傍観者でいたかったんだけど……これは戦わざるを得ない……」

 スノウの言葉に答え、それからすぐさま宙を刀でなぎ払った。一本の矢が真っ二つになって地面に落ちる。どこからか弓の狙撃が飛んできていたらしい。リリアが睨む先、フェンリルの暴れまわる奥のところに、トルクが弓に矢を番えて構えている。険しい表情で狙いを定め、そして再び矢を放った。フェンリルとカイト、アサシン族民たちの奮闘の中を一本の矢は綺麗に隙間を貫いていき、リリアの眼前へと到達する。だが、それは再び呆気なく切り落とされてしまう。舌打ちをするトルクはすぐさま移動、リリアの死角へと隠れる。

「彼は、狙撃型……隙を狙うタイプ。だから攻撃は遅い。隙を突ければ一撃なのだろうけど、私には隙はない……」

 リリアは背後へと刀を回し、後方をガードする。その直後に、刀に何かが当たって金属音を響かせた。それはスノウのナイフの攻撃だ。

「隙がないなら……作るまで!」

 スノウはリリアの刀を押さえつける。その間、トルクは窓から外へと飛び出し、迂回してから集会場の出入り口前に立つ。風が吹き抜ける中、弓に矢を番えて構え、そしてドアの僅かな隙間へと目掛けて矢を放つ。風の抵抗も考えて少しずらした狙撃となったが、見事にドアの隙間を抜けて室内へ。リリアの背中を捉えた。

「甘い……」

 リリアの一言。次の瞬間、放った矢は真っ二つにされて落ちた。スノウが刀を押さえつけているので、切れるはずもないのに、矢は見事に真っ二つにされてしまう。

「んなっ?! あのヤロー、あの状況で?!」

 外で驚くトルクの声がスノウの元まで届いていた。スノウは一体何がどうなっているのか理解できず、とにかく後退してスペースを取る。それと同時にどういうことなのかを理解する。スノウが押さえつけていた、背中を守っている右手の刀の左側。もう一本の長刀が握られている。つまりは、左手の長刀で矢を切り落としたわけだ。彼女は長刀二本使いのできる滅多にいない、高等技術の持ち主だった。

 トルクは完全防御陣形の彼女にどう矢を与えようかと考える。スノウは二本使われては勝てないと判断し、一度外へと飛び出してトルクと合流する。

「トルク! どうしよう?!」

「慌てるな。冷静な対処であいつを仕留める。こっちは二人、あっちは一人だ。こちら側に優なんだぜ」


――五分後――


「カクカクシカジカって訳なんだぜ。どうだ?」

「うん、全然わっかんない♪」

「良し、それでこそ俺の弟子だ」

「いつ弟子になったんだ、私?!」

「さ、さっさと行け!」

「人任せな!」

 スノウは集会場へと再び飛び込んで入室し、リリアの前に立つ。リリアは怪訝そうにスノウを見つめる。スノウは冷や汗をかきながら、

「今日はー、暑い、ですねぇ?」

 なんて世間話を交わす。

「……ここ、冬ですけど?」

「あっ! そうでした! 寒すぎる環境下にいると、どうも感覚が鈍っちゃってダメだねー」

 リリアはまたしても刀で宙を切り裂く。どこからか飛んできた矢を切り落とした。

「隙はできませんよ?」


――五分後――


「カクカクシカジカって訳なんだよ! どうだ?」

「うん、全然わっかんない!」

「良し、それでこそ俺の娘だ」

「いつ娘になったんだ、私?!」

「さ、さっさと行け!」

「人任せな!」


 フェンリルで暴走しているカイトはできる限り矢で敵の足を射抜いていった。背中に背負っている分の矢がなくなると、今度はフェンリルの身体の横腹に取り付けた矢の予備分を取り出して弓を構える。敵を見つけると狙いをつけて一発で足を射抜く。フェンリルは元気な敵も負傷者も見境なく潰していく。

 だが、カイトには限界点があった。まだ応急処置をしただけの身体。射られた傷跡が塞がっているわけではない。先ほどまで白かった包帯には血が滲み出して赤く染まっている。出血量が多いためか、包帯を通して服にも染み始めていた。揺れるたびに痛む全身に鞭打ちながらも、カイトは弓矢で攻撃を繰り返す。フェンリルの方にも限界はある。ずっと走り回っていたからか、最初の時よりも速度が一、二段階ほど下がっているように思える。少しずつ、敵の矢の攻撃が身体を掠め始めていた。

「スノウが長老を倒したみたいだね……。トルクさんは――」

 カイトは周囲を見回す。時折、首を傾けたり、矢を刀の容量で振ったりして、飛翔してきた矢をいなしている。トルクはどうやら、ホール外周を回りながら隙を見つけては中距離に佇むリリアへと狙撃してるようだった。

「――トルクさんも無事だね。さて、こっちもそろそろ纏めて片付けないと」

 カイトの言葉が通じたのか、フェンリルは吠えて反応する。だが、その直後に、フェンリルは左足に矢を射られてしまい、右側に勢い良く倒れてしまった。カイトは身体に潰されないように咄嗟に飛び降りて避け切る。

「えっと、狼?! 大丈夫?!」

 トルクのペットではなく、野生の巨大狼だと思っているカイトは『狼』と呼んで意識を向けた。狼はまだ動けるようではあったが、立ち上がるのが辛そうに見える。その狼の隙を突いて、周囲の敵が一斉に弓射撃を始めた。雨のごとく降り注ぐ容赦ない弓撃がフェンリルの身体を捉えて次々に突き刺さり血しぶきをあげた。

「……! やっ、やめろ!」

 カイトはフェンリルをリンチする集団に向けて矢を構える。その矢先は刃、ではなく何か小さな球状のものがついている。それを敵ではなく、集団の中心点へと目掛けて放った。


「――って訳なんだよ! どうだ?」

「うん、全然わっかんない!」

「良し、それでこそ――」

「すいません、お取り込み中、失礼しますが――」

 屋外、集会場の入口前に立つスノウとトルクがこの期に及んでふざけた会話を繰り返している中、二本の刀を収めて机に置いてきたリリアが入口から出てきた。二人は二人して同じ反応と同じ態勢で驚く。

「……良いよ、もう。私は戦闘なんて好きじゃない……。あえて、勝つ必要なんて、ない」

 リリアの淡々とした物言いに、二人は顔を見合わせ、それからシリアスに戻る。

「あぁ、確かにな。アンタみたいな強大な奴を打ち勝つには骨が折れそうだ」

 トルクは弓と矢を規定の位置、弓を肩にかけ、矢を背負っている矢筒に戻す。スノウもナイフを腰の位置に隠れるようにセットし直した。

「君たちには……まだ助けるべき仲間、いるから……行っていい」

 リリアは小声で呟き、集会場を指差す。中では宴よりもド派手な戦闘音と喚声が外まで漏れていた。

「カイトとフェンリルは無事だろうか?」

「……私の、見る限りは」

「そうか」

 そんな時だった、集会所内で爆発音が響いたのは。三人が反射的に身構える。入口のドアの隙間から白煙が漏れ出し風に流されていった。

「爆発?! 馬鹿なっ?!」

「とにかく、カイトたちが危ないよ!」

 トルクとスノウは扉を開く。もわもわと膨大な量の白煙が押し寄せて二人を飲み込んだ。むせ返りそうになって、すぐに姿勢を低くする。

「ダメだ! やっぱり一度戻るぞ! 換気しきってからにしないと俺たちがやられる!」

 トルクとスノウは渋々引き返す。集会場内での喚声がこのタイミングで収まり、風の音だけになって静寂が現れた。外で立つ三人、トルクとスノウ、そしてリリアはそれを傍観するだけだった。

「爆発ってことは……炎だろ? ……松明が引火したのか?!」

「引火するものは、アサシン族民は持ち合わせない。から、おそらくそちらのあの子が……」

「カイトのことか? だが、そんなもんなんてツンドラ族のあいつらもないはずだが……」


 しばらく経ってから、白煙が半分ほど換気されて外へと流された頃。三人は姿勢を低くしながら入口からホール内へと足を踏み入れた。うっすらと煙がかった中を警戒しながら進んでいく。時折、脇の木椅子に肩や頭をぶつけたりして。進むごとに倒れた人間が呻いているのを見つけたりする。相当な人数が倒れていて、白煙がもしや毒ガスなのかと疑うけれど、自身に影響がないのでただの白煙らしい。湿地帯のような白煙はホール全域を取り囲み、誰もを黙らせている。不気味な静けさと不備な視界の中を進んでいくが、一向にカイトとフェンリルの姿が見当たらない。

「ここで声を張り上げれば、敵にも位置が見つかってお陀仏だ。ここはグッと堪えて探し出すしかない……」

 トルクが小声で後ろをついてくるスノウに警告する。スノウは無言で頷いて返し、腰のナイフを引き抜いた。トルクは弓矢なので近距離には向かず、仕方なく矢を一本だけ手に持っての移動を始めた。

 矢を前方の地面に叩き、障害物などを確認しながら進む。ただ、そんなことをしているうちに、白煙の霧は外へと漏れ出していき、少しずつではあるが視界が開けてくる。そして開けた視界で、スノウが最初にカイトの姿を見つけた。ホールの中央部、何か巨大な物品の置かれたその脇に猫背になって立ち尽くしているカイトの影らしき姿。指を差してトルクに知らせ、二人はカイトらしき人物へと近づいていく。念のため、バレないようにゆっくりと物陰に隠れながら近づいていく。リリアは関係ないのだけれど、興味があるからついてきていた。三メートルまで迫ってくるとカイトだということが明白となって、スノウとトルク、そしてリリアは立ち上がって近づいていく。

「カイト! 心配したんだから、って――」

 スノウがカイトの姿を見て言葉を詰まらせた。その後ろで、トルクが顔に手を当てて目線を逸らしている。

 そこには全身ズタボロになったカイトの背中と、いくつもの矢が全身に深く突き刺さって死んでいるだろうフェンリルの姿。地面に流れている鮮血がカイトの足元に伝っていて、その周囲だけが血の池となっている。それが白煙の霧と共に、湿地帯をイメージさせてしまう。ジメジメとした雰囲気と、湿っぽい感情が彼らを取り込んでいた。リリアは無表情で何を感じているのか分からない。カイトは背を向けているから表情は伺えなかった。

 言葉を失う彼らであったが、霧が完全に晴れた時、上乗せで言葉を失わせる状況を見た。フェンリルの周囲三メートル圏外に倒れるアサシン族民たちの姿だった。その圏内には誰の足も踏み入れさせてはいない。良く見ると、カイトが右手で矢を持っていて、矢先の刃が血で染まっている。

「……カイト……帰る、ぞ?」

 黙っていたら物事が進まないと、トルクが重い空気の中、カイトの背中へと言葉をぶつける。カイトはその声でやっと気づいたらしく、こちらへと顔を向けた。

「……トルクさん、スノウ……。僕は……」

 か弱い声で呟くカイトの瞳からは涙が零れていて、頬に筋となって伝って服を湿らせている。

「そのだな……フェンリルは……良くやったと、思うぞ……? 俺はな。……あ、そいつはフェンリルっつってな……俺の……ペット、だった……」

 トルクが気まずそうに言葉に出し、それで狼がトルクのペットだったと初めて知ったカイトは、さらに涙を流して力なく崩れ落ちた。声には出さないが、無言で泣き続けている。そんなカイトに、誰も言葉をかけられなくなってしまう。


 それから数十分が経過する。カイトが自分で復帰するまで待つと決めた二人はそれぞれ何かやらなければならないことをしていた。スノウは長老へとメッセージを送るために木材の板にナイフで字を彫っていた。トルクは、フェンリルの死を嘆いて、しばらく黙祷を捧げる。そして、さっき警戒のために持っていた一本の矢で自分の右手を斬り付けた。線上の傷ができて、矢にトルクの血が付着する。その矢を今度はフェンリルの死体の腹部へと突き刺し、そのままにしておいた。

「……それって、何か意味でもあるの?」

 トルクの様子に気になってスノウが尋ねる。

「死者への儀式だ。こうして自分の血のついた矢を突き刺すことで、『俺自身とフェンリルは死んでも友縁は切れないものだ』ってことを表す。……フェンリルとは長い付き合いだったが……いつかはこうなる日を考えていた……。覚悟はしてたけど、やっぱりキツイな……」

 トルクは寂しそうな表情で俯き、血まみれで倒れるフェンリルの顔を見つめる。

「ご、ごめん……僕なんかのせいで……」

 崩れ落ちていたカイトが、トルクの言葉に反応して謝罪する。未だに泣いていて、相当な罪悪感に捕われているみたいだ。トルクは一度ため息を吐くと、カイトの前に座り込んで目線を同じにした。

「あぁ、全くその通りだ、カイト……。お前がなぁ、そんなんだからこうなっちまったんだっ! 分かってんのか、おいっ!」

 急にトルクが罵声を浴びせ始めた。何かストッパーが外れたような勢いで、スノウもそんなトルクに批難の声を上げる。

「ちょっと、その言い方はないんじゃないの?! 確かにカイトが関わってたのもそうだけれど、それは酷いよ!」

「あぁ、そうかもしれねぇな! だけどよぉ! カイトがいつまでもクヨクヨしてっから、フェンリルが安心して天国に逝けねぇだろって言ってんだよ、アホ! とっとと気を直して帰んぞ! これはこうなる運命だったわけであって、誰もお前が悪いなんて言ってないことを覚えておけっ!」

 トルクは全身全霊の大声で、カイトの鼓膜を破らんばかりの張り上げた声で叫び、泣き崩れていたカイトを無理やり引き起こした。それから手を引っ張って無理やり退場させる。

「ちょっ、ちょっと……トルクさん、その……」

「あぁあぁ、反省は後ほどだ! まずは帰って服を着替えて、それからフェンリルの分まで上手いもんを食ってやるつもりだ! スノウ! 俺らが働いてやった分、上手い飯を食わせてくれんだろうな?!」

「あ、それはもちろん」

「そうとなればとっとと帰るぜ!」

 動揺するカイトをトルクは無理やり引っ張り、集会場から出て行った。スノウとリリアとその他負傷者だけになる。

「……なーんだ、ちょっとは良いとこあるじゃん♪ 罪をカイトに着せようとしてたわけじゃなくて……ちょっと安心」

「……それで? やっぱりプリンス族としてやってく?」

 スノウの横で、リリアが淡々と尋ねる。スノウは当然、しっかりと頭を下へと下げて首肯をした。


――アサシン族民の村を歩く二人――


「そうだ、カイト! あの煙幕はお前の仕業だろ?! まさか残りの敵全員を倒しちまうとはなぁ! 大した奴だぜ!」

「あ、うん……」

「そこで一つ疑問なんだが、あの煙幕はどうやった?」

「それは……煙幕弾を付けた矢を作って――」

「それだ! その煙幕弾とやらのをよ、俺に作り方教えてくれないか? そしたら今回のことはチャラにしてやっても良いんだぜ?」

「え? それはそれでまずいんだけど……」

「気にすんな! 俺が許す!」

「フェンリルがかわいそうだけど……」

「俺が許す!」

「いや、フェンリルの方――」

「俺が許す!」

「あ、はい……」

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