第6話『プリンス・カール・フォーランド島にて暗夜侵攻』
北極から氷の船でとある島までやってきた三人の旅人。一人は灰褐色のくせっ毛をしていて、澄んだ蒼の瞳を持つ少年。暗緑色の外套を羽織り、腰に小さな弓を隠し持っていた。年齢からして十六ほどだろうか。彼の名はカイト。ツンドラ族の生き残りの一人であり、彼の弓術は一目を置かれている。もう一人はカイトと同年代の少女。茶髪のロングヘアーで、翡翠石のような瞳が印象的だった。カイト同様で、寒さ対策のために毛皮で作られたフカフカの外套とズボンを履いている。カイトの幼なじみでもある、彼女はルマという。最後の一人は唯一の大人。彼は二人とは違ってツンドラ族ではないためか、珍しい緑色の髪を持つ。またしても珍しい、白い毛皮の外套を着ていた。そして、カイトの命の恩人である。トルクという男だった。
彼ら三人は島へと上陸して山を登り、そしてとある集落を見つけ、そこに住んでいる他民族『プリンス族』に出会い、とにかく色んな事を尋ねたりした。その中で一つ、引っかかる点を見つける。そして追求するうちに、重要な情報にたどり着いた。その情報によれば、プリンス族のとある少女がツンドラ族の情報を握っているとのことだった。プリンス族の長老ですら知らない情報をなぜ持っているかは不明だったが、早速その少女に話を聞くことにした三人。
その少女は集会場にいた。蒼い髪の毛が煌びやかな少女で、瞳が異様に紫色をしている。そして変人なのでした。
「ふーん、なるほど良く分かった。ツンドラ族のハグレを探してると? 確かに知ってるよ」
「それは助かる。で? どこにいるんだ?」
ツンドラ族とは無縁だろうトルクが尋ねる。しかし少女は教えてはくれないようだった。
「じゃあ、どーすりゃ教えてくれるわけだよ?」
「そーだねー……とりあえず、敵民族の殲滅を手伝ってくれるなら答えてあげても良いかもね♪ なーんて――」
「よっしゃ! 楽勝だぜ! カイト、やろう!」
トルクはガッツポーズを取って奮起する。その姿を見て、少女はポカンと口を開いていた。
「うーん、あまり人を殺すのは好きじゃないんだよね」
「ってことは人を殺したことがあるってことじゃん?!」
少女は呆れてつい突っ込んでしまう。
「私は人殺しには賛成できないよ、カイト」
「だってね、トルクさん」
「殺すなんて誰もいってねぇーだろーがよ。単に捕縛しちまえば良いわけだろ?」
「あ、そーか。なら問題ないかもね」
カイトもトルクのその策に乗ることにした。人殺しではないと決まるとルマも決定打を押してくれる。そんな三人に、少女は呆れていた。
「あの、ちょっと……冗談のつもりだったんだけど? 本気でやるつもり?」
「何だ? お前は冗談だったのか? 悩んでそうな顔してっから真剣なやつかと思ってたぞ?」
「でも、事実だったら……悩まされてる、ということだよね?」
カイトは、以前の自分たちの境遇と彼女の現在を重ね合わせていた。昔、南極に暮らしていた頃のこと。ごく普通に毎日を過ごしていたカイトたちの民族を、敵襲が襲いかかった。ほとんどの人間が被害に遭い、死傷者も出た大惨事だった。カイトとルマが現在北極に暮らしているのは南極大陸から逃げてきたからだ。彼女も、その境遇に近い状況に陥るのかもしれない、カイトはそんなことを考えて鬱な気持ちになっていた。
冗談だけれど本当のことで言い返せず、あわあわしている彼女。
「……第三者だし、手出しすることは、おかしいのかもしれない。だけれど、僕らは君たち『プリンス族』と仲良くなったから……仲間の危機を見過ごすのは最低で、最悪で、下劣のすることだと僕は思う。このまま見捨てるぐらいだったら、命を張った方がよっぽどマシな選択肢だよ」
「良く言ったもんだぜ、カイト! それでこそ男ってもんだな! そういうことだぜ……えーっと名前は?」
「……スノウ……」
少女は地面を靴で擦りながら、小さく呟く。
「スノウ、な。スノウ、俺らはその敵民族とやらを懲らしめる。代わりに、しっかりと教えろよな、ツンドラ族のハグレの居場所を」
「あぁーもうっ! ツンドラ族ってバカだよね! そんな少人数で良くもその台詞が言えたものだよね! ……はぁ~……私も参戦してあげるよ、せっかくだからね♪」
スノウは不敵な笑みを浮かべてそう叫び放つ。自信満々な表情で立ち構える彼女に、トルクが見定めるような目つきで見回す。
「……カイトみたいに、とても戦えそうには見えないぞ?」
「聞き捨てならないよ、トルクさん!」
憤慨してるからか、つい呼び捨てで叫んでしまうカイト。自分自身、そのことに気づいてはいないらしい。
「失礼なやつー。私だって本気を出せば、この場を一瞬で収めることぐらい可能なんだからね! 何だったら、この大陸を一撃で真っ二つに割る怪力を持ってるからね! その一閃は光よりも速く地上を削り去るんだからね!」
「かなり無理のある物言いだぞ、おい」
ついムキになってしまっているスノウ。トルクに指を差して叫んでいるが、残念なことに身長差で目線は下からになってしまっている。上から目線でトルクはスノウを嘲笑していた。
「……まぁ、お前がいなきゃ案内役いねぇから良いけどな」
「じゃあ早速進軍だ!」
スノウが机から身を乗り出し、右手を掲げて宣言する。良く響き渡る声が集会場に広がり、ほぼ全員の目線を集めていた。
各自、準備を終え、スノウに案内されて敵民族集落へと向かう。危険だからと、カイトはルマを置いていった。最初は自分もついていくと言わんばかりに引っ付いていたものの、真剣な眼差しで訴えかけると、それを察して心配ながらも村に残ってくれると誓った。つまり人選はカイト、トルク、スノウの三人ということになる。スノウは、まさか本当に引き受けてくれるとは心にも思ってなかったもので、未だに動揺を隠しきれてない。カイトとトルクは張り切ったご様子で何やら作戦会議をしているようだった。歩きながら、二人のその背中を無言で見つめるスノウ。
カイトはいつも通りの、寒さ対策のための暗緑色の外套を着ている。背中には何が入ってるのかは不明だけれど、身体の半分を占めるほどのサイズのリュックを背負っていた。そんな大きなサイズなのに、リュックはパンパンに膨れている。一方のトルクは、カイトと同様に白の外套を羽織っている。そして同じくして大きめのリュックを背負う。リュックからは入り切らずに飛び出している大きめの弓矢が目に付く。
二人に反し、スノウの格好はラフで、そして軽量化されている。服装は防寒用の重装備だが、これといって荷物があるわけもなく、両手が空になっている。背中にリュックを背負ってもいない。
だからこそ思う。彼らはどれだけの期間で敵を殲滅するつもりなのだろうかと。何日間もかけて捕縛していくつもりなのだろうか。
そんな三人が歩いて峠を一つ越えた頃、スノウは二人に声をかけて停止させる。スノウは崖の一部分を指差した。その崖は、大きな亀裂が走って二分割されている。スノウ曰く、このヒビを下っていくことで、誰にも見つからずに急接近できるとのこと。
「何で、こんな情報を知ってるんだよ? まるで捜索でもしてたみたいな……」
「私が、今から殲滅しに行く民族『アサシン族』の出身だからよ」
「はぁ?!」
とても話しづらそうにスノウが語ったことは、とんでもない爆弾発言だった。何の準備態勢も取っていなかった二人が仰天してしまっている。
「……とにかく! 今はそれとは関係ない話だから! さっさと捕縛して、さっさと終わらせるよ!」
「お、おぅ……」
やけくそにスノウは大股で先に進んでいく。その後を慌てて二人が追っていった。その光景を陰で誰かが眺めていたが、三人が気づくことはなかった。
亀裂内部は言うなら洞窟のように奥へ奥へと伸びていた。どこかに繋がってるからか、奥から風が吹き付けて風切り音を鳴らしている。当然、光が遮断されるわけなので、肉眼では通行不可能。そこでスノウは持ってきていた松明に火を灯す。赤い暖色の光が亀裂内部を照らした。壁や地面は永久凍土の氷で覆われているため、岩のようには尖ってはいない。長年風化したりしてできた滑らかな氷の壁だ。
カイトとトルクはそんな亀裂の洞窟に驚くものの、それよりもすごいものを見てしまっていたため、そこまで驚愕はしなかった。それはスノウの火起こし。スノウはほんの数分でいともたやすく火種を作り、松明を灯してしまったのだった。
「……俺でもかなり時間がかかる作業なんだぜ? あいつ何者なんだよ?」
「確かに……。僕に至っては火種すら作れないというのに……」
「ん? どーかした? さっさと行くよ!」
松明を持ったスノウはズカズカと奥へと進んでいく。ちっとも疲れた様子もない。火起こし程度できて当然と言わんばかりの態度である。
カイトとトルクの二人は、そんなスノウに感嘆しながらも、後れを取らないように足元に注意しながら進んでいった。
この氷の洞窟はカイトの暮らしているものと比べて格段に小さくて狭い。通路のような真っ直ぐと伸びた形をしていて、そのためか高い耳鳴り音のようなものが先ほどから聞こえていた。トルクほどの身長だと、天井部スレスレでもう少し狭くなったら中腰での姿勢で進むことを余儀なくされそうだった。天井と同等で、横幅も二人がすれ違うのがやっとの幅で、奥はもっと狭くなる予感がしていたカイトは少々心配気味になる。だが、あのスノウが知っている道ならば、一度通ったはずなので通れないわけではなさそうだ。
問題点は、
「やっぱりリュックがでけぇーな」
そう、背負ってきたこのリュックである。あと一回り大きければ蓋ができそうなサイズのリュック。これ以上幅が狭くなってしまえば、通り抜けることができなくなり、持ち物をやや捨てる必要が出てくる。
「それ、結構気になってたんだよね。一体そのリュックに何を詰めてきたのさ? 戦争でもしようかって量じゃないの」
身軽なスノウが松明を持ちながら振り向き、後ろ歩きのまんまでカイトへと尋ねる。
「僕は、ほとんどが弓具に当たるね。あとはほんの少しの非常食かな?」
「カイトのリュックで死角になってるけど、後ろのトルクも同じくらいのリュックを背負ってたじゃん? リュックから弓が飛び出してたから弓使いだと分かったけど、カイトも同様ね?」
「僕らツンドラ族は弓を主要の武器にしているんだ。これさえあれば、狩りには心配はいらない。もともとは狩猟用であって戦闘用には作られてないから威力はそこそこ。でも、人を殺すわけじゃないんだし。遠距離武器は隠密機能に優れてるから適切だと思った。スノウも当然だけれど武器を持っているでしょ? どんな武器?」
「察しなさいよ、身軽な状態から」
「素手?」
「素手?! 何、私が剛腕な男性キャラにでも見えたの?! 何だったら手刀で敵の腹部を貫くとか、そんな仙術でもするように見える?!」
「んー……言動力はそれぐらいあるように見受けられるよ」
そんなたわいもない話で盛り上がる背後、カイトのリュックが洞窟スレスレで死角を作り出しているそこにトルクはいる。何やら盛り上がっている様子だけれど、カイトのリュックが音をぼやかして、何の話かは聞き取れない。
「……孤独だからってふてくされる俺じゃないぞ……」
トルクはどこか悔しげに言葉を漏らしていたが、その声が聞こえることはなかった。
松明の炎を頼りに進んでいく三人。だいぶ時間が経って、洞窟内気温が下がってきているのを肌で感じ取り、太陽が落ちて夜が訪れたことを察する。そして前方に出口を見つけたスノウ。夜とはいえ、うっすらと光が洞窟内へと注いでいるらしい。
「お疲れコンビに朗報だよ。前方に出口を発見した。どう? ここまで歩いてきて? 相当疲れたでしょう? こんな疲労はなかなか味わえるものじゃないんだからね、感謝してよ」
「ありがた迷惑ですけど……」
と、カイトは遠慮気味に呟き、
「感謝もしねぇし、こんな陳腐な道に体力を費やすこと事態に呆れ果てるぜ」
トルクはカイトの背後で大きなあくびをして言ったのだが、トルクの方だけはまるで聞こえてないかのようにスノウにスルーされる。
スノウを先頭に、彼らはゆっくりと外を警戒しながら洞窟を抜けた。肥大化したように見える満月が夜空を照らし、黒色の空を白く染めている。雲が月の左下辺りを覆っているのが幻想的な景色だった。洞窟の外は入口側とは至って違い、標高が低いためか森林限界内に入ってるので鬱蒼とした森が広がっていた。とはいえ、やはり過酷な地だけはあって、その枝葉は乏しい。
「ここから少し北にアサシン族の開拓地があるんだよ。私の知ってる当時だったら、およそ……五十人ぐらいの村民が暮らしてるはず」
どこか懐古するようにスノウは詳細を聞かせてくれる。トルクは茶化さずに黙って聞き入っていた。
「……スノウは何でアサシン族を殲滅させようとしてるの? 恨みか何か?」
「……そ、恨み。……仕返しをしてやるために今から殲滅しにいくのよ! あの髭面を恐怖に滲みさせてやるんだからね!」
人差し指をカイトに突き付けて声高らかに宣言した。フンッと鼻息を漏らす。そんな強気なスノウにカイトは困惑している様子だった。
「そ、そーなんだね、分かったよ、分かった」
「随分とでけぇー仕返しだな。関係ない奴らは完全にとばっちりじゃんか」
「し、知らないわよ、そんなこと。あの髭についた時点でその身を捧げなさい! つまり、このとばっちりも受けるべき宿命なのよ!」
「随分と酷い――」
「――独裁者だな」
カイトとトルクが言葉繋ぎでスノウを軽くあしらう。スノウはそんな二人にそっぽを向いてふてくされ、カイトがどうにかこうにか説得して慰めてあげた。
「さて、無駄話はここらへんにして……そろそろ作戦決行に移るよー!」
ここから先はカイトとトルクとスノウの三人は分断してでの行動になる。それぞれが別の方角から攻め入って制覇するということになっていた。
「じゃ、二人共、頑張ってね」
スノウがまずチームから抜けて二人になった。スノウは暗い森の中へと消えてしまう。
「……ま、ガキではあるが、お前はそれなりにできる奴だって思ってるよ」
「いや、まだそんなに一緒に暮らしてきたわけじゃないんだけど?!」
「なーに言ってんだよ? 友好関係に期間は関係ないぜ」
「というよりは根本のところからの話になるんだけど?」
「だからよ、俺はお前を何となく見込んでるってことだよ、素直に喜べ。じゃあな」
そう言ってトルクも森の中へと消えていく。その場に最後まで残ったカイト。急に静けさが森を、カイトの周囲を包み込んだ。静かになったからか、寒々しい風の音がより一層大きく聞こえる気がする。
「……素直に喜べって言われても……結局、『何となく』なんじゃないか!」
闇夜の静けさの中、カイトは木々を縫うように足音を消して走る。走りながら腰の部分の小さな弓を掴んで矢を軽く番えておく。視界に入るのは前方およそ二十メートル先に開かれた開拓地。門番がいるわけもなく、ただ無防備に広がる入口はあえて通らずに、迂回してから中へと侵入するつもりだ。カイトは一度停止して呼吸を整える。弓矢を構え、木々の僅かな隙間に狙いを定める。木の枝の隙間に腕を乗せる様にして構えて、揺れる照準を正確に固定した。カイトは一度息を吐き出すと、それから無呼吸状態で矢を放った。放たれた矢は正確に風を切って飛翔していき、枝葉を避けながら放物線を描く。その着弾点には一人のアサシン族民が立っていて、矢は族民の頭部、こめかみの位置にヒットした。だが、矢は突き刺さることはなく、鈍い衝突音を響かせて族民一人を気絶させる。カイトが放った矢は通常の刃石ではなく打石、つまり打撃の矢だった。
「ごめん……殺さないだけ許して」
カイトは小さく呟くと、倒れる族民のとこまで行って、彼の身体をロープで縛り付けた。
それから辺りを警戒しながら村内へと足を踏み入れる。時間が時間だからだろうか、外に出ている人間の姿は皆無。中央部にはプリンス族と同じくして、巨大な焚き火が焚かれている。ただ、アサシン族の村はやや大きいからか、焚き火は一つだけではなくて、他のところでも焚かれているようだ。その焚き火が村の光源となっている。
カイトは警戒しながらも村を観察していく。一定間隔で建てられた木造住宅。中央の広々とした雪道。それなりに繁栄しているように思える。カイトはまず、一軒目から順番に潰していくことにする。眠っている者が居れば即刻束縛し、起きてる者は隙をついて打撃の矢で気絶させておいた。侵入がバレてしまって弓を構えられた時もあったが、カイトはそれよりも迅速に矢を番え、そして気絶させる。そんな工程を何度も繰り返してまるで流れ作業のように一軒一軒潰していった。
「……ごめんね、みんな。運が悪かっただけなんだよ」
カイトは聞こえるでもない独り言をブツブツと呟いていた。
カイトが十五軒目の家を襲撃した後のこと。外に出てきた時にその光景を目の当たりにした。それは、遠くから全速力で逃げているスノウと、それを追う集団だった。どうやらスノウはバレてしまっていたらしい。カイトは大慌てでスノウの元まで走り寄っていく。
「何があったのさ?!」
「バカ! こっち来るなって、逃げろよ!」
カイトはスノウの横について一緒になって逃げる。その間、後ろからは弓を構えた集団が狙いをつけて矢を放っていた。しかし、走りながらでは安定しないので、ちっともかすりもしない。
「かなり捕縛したつもりなんだけれどね、まさか最後の一軒かと考えていた家にバレてしまうとはねー。私も腕が鈍ってたのかな?」
「こっちもそれなりに潰したけどさ……殲滅するにはやっぱり後ろのあれも処理しないといけないよね?」
カイトがそう尋ね、スノウは苦虫を噛み潰したような顔をする。そんな彼らの前方に、別の武装集団が現れて道を塞いだ。挟み撃ちの形になってしまっている。
「まずい! この上なく非常にまずい! 胃の調子を整えるための薬草と、傷薬を沸騰させて作られた葛根湯を合わせて味わっている時よりもまずい!」
「この状況下でそれだけの表現ができるスノウに、僕は非常にまずいと思うんだけれど……」
カイトは弓に矢を番えて前方へ構える。前方の集団は既に矢を番えて全員が二人に照準を合わせている瞬間だった。
「スノウ、生きて帰ったら何がしたい?」
「そーだねー……とにかくアサシン族民全員の頭を地に付かせたいところだよ」
「……うわっ、鬼畜少女」
カイトは苦笑いしてスノウを見つめる。
「何? 私、何か変ですかな? ……カイトは?」
「ん? 僕はそうだね……生きてるって実感を味わいたいよ……」
そんな場に合わない緩い会話をしていると、後方の集団も追いついて取り囲まれた。全方位から弓矢で狙いを付けられてしまった二人。ギラギラとした目線で睨まれ、カイトもスノウもこれまでかと完全に諦めムードに陥っている――かと思いきや、全くの逆であった。何とかしようと頭脳をフル回転しているらしい。だが、そんな努力も虚しく、全方位から矢が一斉に放たれてしまった。