第21話『ホーペン島にて乱戦逃避』
最近なにかと方向性がズレてきている僕の名前は星野夜です。
方向性がズレてもいいじゃないか。道は一つじゃない。旅は一本道じゃなくて、いろんな方向に延び、その先に訪れる未知なる世界を探求するからこそ、そこに旅人は憧れと期待を抱くのさ。だから、たとえ自分のスタンスが分からなくなろうとも、僕はただ突き進むだけだ。この美しき残酷な世界の上で。
結論、中二病も大概にしなさい、星野夜。
はい! 第21話『ホーペン島』編の続きをどうぞ!
暗雲に覆われた夜空。今日は一日中、天候は優れず、ホーペン村外は極度に気温が下がっているが、村の中は中心に作られた巨大灯火のおかげで生活できるほどの気温にまで引き上げられていた。筋肉隆々な働き盛りの男たちによって半日で建てられた灯火は、月光の代わりとなって村を照らす。それでも全域とまでは行かず、外周は肉眼では確認できない闇。八割以上の村民が今は巨大灯火の前に集まっており、宴をまだかまだかと待ちわびる。そう、今夜は宴。老若男女関係なく盛り上がっており、まさに祭騒ぎ。宴のためにたくさんの料理が運ばれていた。村外は不毛な大地であり、貴重なはずの食料だったが、今回の宴は盛大に飾るようだ。
今回の宴の主催者はホーペン族村長。家内から灯火の様子を眺めていた。赤色の光が窓から家内へと入り込んで、室内を暖色で染めている。無気力な瞳で灯火を眺める村長は、長い白髪をしているが、齢は二十代前半頃にも見える。若々しい長だ。そのそばには召使の男。
「今宵もまた、平和が保たれる。少数反乱分子が紛れ込んでいるようだが……」
召使の言葉に対し、
「……ヨダレが止まりません」
白髪の女性が真顔で呟き、
「相変わらず、食欲旺盛なことで」
召使はやれやれと首を横に振る。召使が次の一言を放つその時、
「お困りですね、旦那様。では、その食欲を一瞬で止めるすべを教えましょう」
別の人間の声がしたかと思うと、突如一人の人間が白髪女性の背後に現れ、真刀で一閃。上から下へと振り落とした! その一撃は女性の背中を捉えることはなく、金属音を響かせる。召使の短刀が瞬間的に敵の刃を受け止めたのだ。その響音で、女性は気づいて振り向く。召使が敵と対峙しているのを見てなお、女性は無表情のまま。
ぐぐぐぐぐぐぐぅ~……。
「……お腹が、空きました」
「ミストォ~……」
召使が敵に対峙しながら、呆れたと苦い顔をした。召使と刃を交わせている敵へと、ミストと呼ばれた白髪女性は言葉をかける。
「あなたはだあれ? ……空腹を止めてくれるのは、本当のことで?」
「敵に名前を教える馬鹿がどこにいんだよ?!」
敵の背後から仲間らしき人物が現れ、ミストへとそう言い放つ。召使はその姿に見覚えがあった。
「お前は……レミか?!」
「レミっていうなぁ!」
敵の背後から現われしは『レミ』。人差し指を召使へと突き立て、あからさまに激怒している。ということは当然、真刀を構えるは、
「どうも、旅人のリリアです。よろしく」
「敵に名乗る馬鹿いたぁぁぁっ?!」
ミストの応答にすんなり答える敵はリリア。唖然とした表情の『レミ』。その姿に愕然とする召使。
「なぜ、お前がここにいる、レミ?!」
「バーカ! 敵に情報を渡す馬鹿が――」
「村長さんに話を訊きに来ました。村から出たいのですが」
「馬鹿いたぁぁぁっ!」
ミスト同様で、無表情のままリリアは尋ねる。真刀は未だに刃を交えたまま。召使が苦しそうに短刀で抑えているのを気にせず応答を待つ。後ろで『レミ』が呆れた表情をしていて、リリアがそれを一瞥したその時、召使が動き出した。雄叫びを上げ、リリアの太刀を全力で弾く。両手と太刀が上を向き、後ろに仰け反るリリア。その隙を狙い、召使はリリアの腹部へと短刀を構えて突っ込む。
「しねぇぇぇっ!」
「そのままお返しします」
突っ込んできた召使。持っていた短刀が、仰け反り中のリリアの蹴り上げにより吹き飛ばされ、天井部に突き刺さる。唖然としていた召使を次の瞬間、衝撃が襲い、後ろへと軽く吹き飛んでミストを巻き込んで倒れた。腹部に強烈な痛みが走る。リリアの前蹴りをもろに受けたらしく、召使は呼吸がしばらく止まっていた。視線を上へと向けると、そこには眼前数センチにリリアの刃先が。その先に、無表情で冷酷に見つめるリリアの瞳があった。
「さようなら」
右手に持つ太刀を左肩側へ構え、リリアはそのまま召使の首へと右へなぎ払う。
「やめろ、殺すなぁあっ!!!」
「……?!」
『レミ』の絶叫を聞き、リリアは召使の首筋数センチで太刀のなぎ払いを止める。目を見開いたまま状況把握のできていない召使。その下に無表情のままで動かずに倒れたままのミスト。
「……敵に同情でもした?」
「わざわざ殺すことないじゃん! こっちが逃げ出せば良いだけだしさ?!」
必死に訴える『レミ』。無表情のまま、召使の首に太刀を突きつけたままのリリア。
「分かりました、殺しはしません」
太刀を首から話すリリア。ホッとした表情になった召使は突如、リリアの踏み潰しを不意に食らい、気絶した。
「リリア?!」
「殺しはしてません。眠ってもらうだけです」
「ったく……」
「先ほどは身体を支えてもらってありがとうございました」
「あぁ? あー、良いってことよ」
リリアにお礼を言われ、少し照れ恥ずかしそうな『レミ』。召使の攻撃で仰け反り倒れるはずだったリリアを背後の『レミ』が支えたことにより、リリアは攻撃を繰り出すことができたのだ。つまり、あの状況で『レミ』がいなかった場合、リリアは召使にやられていた――
「いえ、いてもいなくても勝てましたよ」
ということです。
「ガーン! じゃあ、俺の存在意義は?!」
「さて、村長さん。少しお話をしましょうか」
「あれ?! 無視?! ショックなんだけど?!」
背後で愕然としている『レミ』には目も向けず、リリアは倒れている、村長ことミストを見つめる。
「あなたは言いました。私の……空腹を止めてくれると」
「確かに、言いま――っ?!」
突如、倒れていたミストが飛び上がり、太刀を持つリリアへと身一つで突進してきた。不意を突かれ、太刀で斬りつける余裕はないため、咄嗟に横へと回避するリリア。その背後にいた『レミ』がミストに捕まり、馬乗りされる。
「うえぇぇええ?! なになになになにぃっ?!」
ミストがヨダレを滴らせ、次にした行動は――
「ガブッ」
「うぎゃ、痛い痛い痛い痛いっ! やめろっ、やめろ!」
――捕食。『レミ』の右腕に噛み付くミスト。白い肌に歯が食い込み、肌を破って歯型の傷を付けた。滴るヨダレに滲んで赤い血が腕から流れ落ちる。涙目の『レミ』は必死でミストの後頭部を殴りつけるが、ビクともせず、スッポンの如く、噛み付いて離れない。ジュルジュルと血をすする音が聞こえる。
「ぎゃぁぁぁぁああっ!」
「離れろ、ケダモノ……」
『レミ』の上に覆いかぶさり、右腕に噛み付くミストの心臓部へと、リリアは太刀を突き刺しにかかる。しかし、ミストが急に体をひねって攻撃範囲外へと飛び逃げる。その際、噛み付いてた『レミ』の右腕の肉を引きちぎった。激痛で泣き狂い、絶叫をあげる『レミ』の右腕には、ミストの引きちぎった痕があり、そこから鮮血を大量に流していた。
「……食欲旺盛なことで」
無表情で地面に突き刺さった刃を引き抜くリリア。顔には出ていないが、恐らくかなり激怒しているのだろう。意味もなく、近くにあった椅子を太刀でぶった切った。
「……殺す」
「空腹を、満たして……お願いだからぁ!」
駆け出すミスト。太刀を構えるリリア。
乱れる呼吸の音。一人の人間の不規則的な駆ける足音。
「……うぅ、痛い、痛い……」
子供の声。鳴き声が暗闇でかすかに聞こえた。
「逃げよう……」
また別の声。足音は一人分であるのに、声は二人分。もう一人は女性の声。無抑揚の声が呟く。
「出口へ、案内よろしく」
「痛い、痛いよぉ……揺らさないで……」
「無理な話ですね。歩いてる暇は、ない」
足音が光を求めて駆ける。着いたのは村の中心。巨大灯火の燃え上がる広場だ。宴の準備を終えて、村民たちが灯火を囲んで始まりを待っている。
「あれ……戻ってきた……」
光に照らされ、状況が目に見えるように。全身擦り傷だらけで服もボロボロのリリアが、右腕を負傷した『レミ』を担ぐ。右腕は応急処置で包帯を巻いているが、出血が酷いようで、滴り落ちてリリアの右肩を赤く染めていた。
「まずい……鉢合うかもしれない」
「いやだ! 逃げてぇっ!」
『レミ』の絶叫に灯火に集まってた数人が二人の存在に気づく。
「いたぁっ! 捕まえろっ!」
「……っ!」
他の村民も気づき、大人たち総勢五十数名がリリアへと突撃してきた。さすがのリリアもやや顔を引きつらせる。
リリアは担いでた『レミ』をゆっくりと地面に下ろすと、腰に帯刀していた太刀を引き抜いた。
「……リ、リア……?」
「引きつけは苦手です。集会場で座って独り飲んでたら、いつの間にか目の前にパーティーが座ってて、お互い気づかずに驚くことが何度か。家で独り休んでるだけで孤独死を疑われる始末。乱闘の中、突っ立てても無傷。太刀を持ってやっと反応してくれるわけです」
「……あは、は……痛くて笑えない」
『レミ』は足を引きずりながら、灯火の明かりが届かない村の外周側へ。
「さて……と」
リリアは持っていた太刀を逆向きに持ち変える。つまり、刃が自分側へ、背が前を向くように。当然、刃の背では人は切れない。
突っ込んでくる村民たち。リリアは流れるような動作で太刀を振るい、村民の腹部を切りつけた。その攻撃は切断ではなく、打撃。くらった村民は一撃でダウンし、その場でしばらく動かなくなった。避けては殴ってを繰り返す。次々と負傷者が出るが、死傷者は一人もいない。おもしろいように負傷者が増え続け、地面に村民たちが悶え苦しんでいる。
「――五十八、五十九、六十、六十い――っ?!」
村民合計六十人を負傷させ、六十一人目に差し掛かるその瞬間、頬に強烈な衝撃を受け、リリアは吹っ飛ばされた! 民家の窓を突き破り、机上に着地して机を破損させる。
「……痛い……」
右頬が赤く腫れ、唇が切れて出血していた。脳震盪で数十秒、意識が朦朧としていたリリア。『痛い』の一言を発するのにも、しばらく時間がかかっていた。リリアは何をされたか、理解している。六十一人目を刀の背で殴ろうと身構えた時に、背後に現れた『何か』に飛び蹴りを食らった。持ってた刀は民家の外に落としてしまい、村民の誰かがそれを手に入れてしまっている。
倒れるリリアへと、村民たちが警戒しながら近づいてくるが、リリアは疲れたのか、一向に動く気配なし。無表情で天井を眺めていた。
「……くそ……くそ、なんで今日に限って……こんなこと、いってぇ……痛いよ……」
暗がりの道を『レミ』が右腕を左手でかばいながら、ゆっくりと歩んでいた。出血量が多くて包帯に血が滲み、右腕から滴り落ちた血液が地面に一滴一滴、血痕を道筋に残す。村中心の巨大灯火から離れていき、外周の真っ暗な夜道で一人。今頃、リリアが村中心に集まる村民を滅多打ちにしている、と『レミ』は考えながら。
「……いや、無理だろ……。何人いると思ってんだよ、リリア……。それに、あのバケモノ……人間かよ……?」
……リリアは旅人だし……村民が勝てるわけない。旅人っていうのは基本的に強者にしかなれないし……普通勝てるわけ――いや、じゃあ、旅人だった俺はなぜ……強くない?
「……リリア、大丈夫かよ?」
ちょっと、確にn――
《《《空腹を、満たして……お願いだからぁ!》》》
ゾワッ!
「うわぁぁああっ?! ……はっ、はぁ……」
頭の中に、ミストの絶叫が残っていて、『レミ』の心を蝕んでいた。
ミストと対立した数十分前。リリアは『レミ』をかばいながら、太刀でミストと立ち打った。しかし――
「負けて逃げてきた……。リリア一人じゃ、勝てない相手……」
それに加え、ミストは素手。リリアの攻撃は全て当たらず、無傷。
再考して、『レミ』は不安が増した。このままだと、リリアは死ぬかもしれない。だからといって戻ったところで何もできないだろう。命がけでリリアが逃がしてくれたのに、その命を無駄使いにしていいのかどうか。
「そんなもんをクヨクヨ考えてたら、何もできねぇだろ、俺ぇ!」
覚悟を決め、『レミ』は駆け出す。走るたびに右腕の痛みが増し、目から涙が溢れそうになるのを堪え、ただひたすらに走った。少しずつ暗闇が明けていき、光が見え出す。巨大灯火のある村中心に近づいている証拠だ。村民の怒声や喚声が、まさに祭りのように聞こえている。ただこれは祭りの歓声ではなく、リリアを追い詰めようとする殺意の声。声がするのはリリアが殲滅していない証拠。つまり、リリアはまだ戦っている。
「待ってろ、リリ――うわぁっ、ブッ?!」
大急ぎで駆けつける『レミ』は足をひっかけてずっこけた。かばっていた右腕を強打して激痛に呻く。痛みで顔をしかめ、ゆっくりと目を開けると足元に――
「しっ?! 死体?!」
ではなく、気絶している村民だ。そっと覗き、生死を確かめた。リリアが気絶させた村民だろう。倒れたまま、視界を上に向ける。巨大灯火が良く見える路地。中心の広場では大人たちが何やらうろついていた。血に飢えた獣のような表情で徘徊する者たち。殺意がむき出し。
「……リリ、ア……」
痛みで立つに立てれず、呻きながらうずくまる『レミ』の前に一人の人間が現れた。『レミ』の前で立ったまま眺めるその姿は灯火の逆光で顔までは見れないが、明らかに女性。
「……リリア?」
「……あら? 随分と惨めな姿ね、あなた」
その抑揚ある声はリリアではない。抑揚のない声がリリアというのも失礼な話にはなるのだけどと、痛みに呻きながらも呑気なことを思っていると、
「痛いでしょう? 楽にしてあげるわ」
「……え?」
女性が突きつけたのは太刀。刃が灯火によって赤く照らされ艶めく。それは、
「リリアの……太刀……?」
「おやすみ、ね♪」
ブゥン!
その一閃は女性の頭部に強烈な一撃を与え、一瞬にして意識をどこかへと飛ばす。ぼーっとしてた『レミ』に女性がそのままのしかかる。
「ぶわぁっっぷっ?! ぐふっ……」
「……あら? 随分と惨めな姿ね、あなた」
「ぶはぁっ! その声!」
何とかのしかかる女性をどかした『レミ』が見上げるそこには、逆光で顔まで分からないが、どう見ても、
「リリア!」
「心配はない……殺してない」
見ると、リリアの手にはもう一つの太刀。しかし、持ち方が逆向き。刃が自分に向いている。その太刀で斬りつければ当然、刃の背、打撃になる。
「……なるほど、な……いててて」
「痛くはないでしょう?」
リリアは聞こえないだろう気絶してる女性に向けて無表情のまま、冷酷に言葉をかける。
「さて……逃げる」
「早っ、うわぁ?! 待て待て待て! 何でまた担がれるんだよぉおおお?! いったっ! いたたたた、ゆらさn――」
やっとホーペン島も後編で終わりか―。って終わらないじゃないか!
この一か月、君は何をしてたんだね、夜くん?
星野夜「いやー、ちょっとスランプってましてね、えへへ」
いや、小説より歌い手とかイラストの方に力入れすぎて、小説執筆の時間がなくなってるだけじゃないのかい?
星野夜「そこは、大人の事情です、ドヤッ……大人じゃないけどね(ボソ)」
ということは、次回こそホーペン島完結で良いんですね?
星野夜「もちろんです!」
(といいつつ、どう進めてくか、まだ頭の中にストーリーが構築されてない僕ですw)
星野夜「次回、第22話『タイトル(仮)』 ついにホーペン島完結! リリアと『レミ』の二人の運命はいかに! こうご期待! ドントミスイッツ!」←いや、ありきたりだな、この人。




