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第七話 highspec sibling

 避難してきた女生徒たちは、空いている男子寮の部屋に入って大人しくしている。男子生徒たちも、時間が過ぎていくとともに落ち着きを取り戻していっている。問題は昴だ。いつまで経っても無言のまま、友香とその友人の死体を眺めていた。


「昴先輩……」


 理生は見ていられなくなり、つい声を掛けてしまった。


「なんだ?」


 昴は振り向かずに答える。話題など持ってこなかった理生は、慌てて考えをまとめた。


「あ、あの……アイツらって、どこから入ってきたんでしょうね」

「さあな。玄関ホールは未だに突破されていねえようだし、まさか屋上から侵入するわけもねえしな。さっぱり見当もつかん」

「そう……ですよね」


 会話が続かない。昴が素っ気ないのもあるが、実際のところ理生も多少なり傷ついている。自分にもっとハイスペックな才能があれば、あの友香という女の子を救えたかもしれない。そうすれば、その友人だって自殺しなかったはずなのだ。

 マイナス思考に陥る理生の後ろで、茉夜が唐突に話し掛けてきた。


「昴先輩、ちょっといいかしら」


 相手は昴のようだ。


「おお、茉夜か。どうだ、静流の様子は」


 静流はあの後、昴の部屋でベッドに寝かせている。それ以降は茉夜に面倒を見てもらっていたのだ。


「そうね……見てくれた方が早いと思うわ。あんたも一応来なさい」

「お、俺!?」

「あんた以外誰がいるのよ」


 理生も茉夜に連れられて昴の部屋へと移動することになった。




 昴の部屋も、理生の部屋と寸分変わらない間取りだ。大きめのベッドまで一緒だが、そこに静流が横たわっていることが一番の違いと言えよう。


「静流……?」


 昴が静流に近づく。明らかに様子がおかしいのだ。息が荒く、顔も赤く火照って汗も出ている。表情も苦しそうだ。


「いつからこうだ?」


 焦燥感を漂わせる昴に、茉夜は落ち着いて答える。


「ついさっきよ。なんだか普通じゃないみたいだから、報告しよう思って呼んだの」


 茉夜の言う通り、普通ではない。断続的だが呻き声も上げ始める始末だ。茉夜が淡々と続ける。


「言いたくないけど、私の予想だとこの子も感染してると思うの」

「……え?」

「…………」


 理生は驚いたが、昴は目を背けて言葉は返さない。茉夜はやはりの代わりに溜め息を一つ吐く。


「昴先輩。あなたが静流を助ける時、ヤツらから傷を負わされたわね? この子の右腕に」


 言われて理生は静流の右腕を見る。確かにそこには傷痕があった。しかしそれは、つい先ほど見たグロテスクなものではなく、至って普通の傷痕だ。強いて言うならば、その傷痕は明らかに噛まれた痕だということだ。


「ああ……。俺が行った時にはもう、静流はヤツらから攻撃を受けてた。だけどそれだけでヤツらと同じになるなんて、そんなところまで映画みたいな作り話(フィクション)と一緒なんて思いたくねえじゃねえか……」


 昴の台詞には力が入っていた。そんな昴に対して茉夜は畳み掛ける。


「気持ちは分かるわ。でも、結果はさっきも見たでしょ? このままじゃ静流だけじゃなくてみんなが苦しむことになるわ!」


 負けじと茉夜の台詞にも力が入る。理生はどうしたものかと思案してみるが、良い案など都合良く出るわけがない。


「昴先輩……どうにもならないんですか?」


 呆れたことに、結局は他人任せだ。理生も口にしてから気づき、ハッとなって視線を逸らす。しかし意外なことに、昴は真面目に答えた。


「心当たりなら一つだけある」

「!!」


 昴が天井を仰ぐ。理生は静流を助けたい一心で、藁にもすがる思いで昴を促した。


「教えてください! どうすればいいんですか!」

「……この学校にある部室棟は覚えてるか?」

「え? あ、はい、もちろん覚えてます」


 それもそのはず、理生と茉夜が初めて昴と静流に出会ったのは部室棟のすぐそばだったからだ。


「その部室棟にいる知り合いなら、なんとかできるかもしれない。多分そいつも無事だろう。だがな、理生。どうやってこっから部室棟に行けばいい? 寮の出入り口は使えないし、屋上から飛び移るにしても距離がありすぎて俺でも届かない」


 昴が口早に責め立てる。しかし理生は昴の言ったあるキーワード(・・・・・・・)で閃いた。


「俺、ずっと考えてたんです。ヤツらがどうやって女子寮に入り込んだのか……。でも昴先輩の言葉で分かりました。まだ確証はありませんけど……試す価値はあるはずです」





 理生と昴が一階の階段付近を捜索する。案の定、階段の下部分に妙な取っ手が付いている。よく見ないと分からないようにカモフラージュされているせいで、今の今まで気づかなかったものだ。


「昴先輩、多分これですね」


 理生がドアノブを捻る。何の抵抗もなく開いたが、その先は真っ暗で何も見えず何も聞こえない。どうやらまだヤツらはここまで来ていないようだ。


「マジで地下なんてもんがあるとはな」


 昴の屋上(・・)という単語が良いヒントになった。屋上は駄目────つまりはその逆の地下があるのなら、そこから部室棟に繋がっているかもしれないということだ。実際、ヤツらの侵入ルートはそれ以外考えられない。


「よし、行ってみるか」


 安全を確認し、昴は扉の向こうへと入ろうとする。


「いってらっしゃい」


 見送ろうとする理生に対し、昴は拍子抜けでもしたような顔をした。


「お前も来るんだよ」

「えぇ〜!? 俺なんか付いて行っても足手まといでしょ!」

「心配すんな。ある程度なら俺一人でもなんとかする。いいから来い」


 半ば強制的だったが、理生は渋々と昴に付いて行くのだった。




 入ってすぐに下りの階段があり、そこを抜けると通路のようなものがあった。中は薄暗く、目を凝らしてもよく見えない。


「足元気をつけろよ」

「は、はい」


 昴には見えているようで、スイスイと進んで行く。理生はこの先にヤツらがいるかもしれないという恐怖と、視界の悪さから昴の制服の裾をガッチリと掴む。


「おい……歩きづれえよ」

「すいません……でもこれだけは勘弁してください……」


 そんな状態でしばらく進むと、不意に昴が口を開いた。


「なあ、理生」

「はい?」

「お前、茉夜の事が好きなのか?」


 突然の質問、しかも茉夜の事だ。だが理生は答えなど決まってるかのごとく最速で答えた。


「大好きですよ」


 理生の真っ直ぐな返答に、昴は目を丸くしたがすぐに笑って返事をする。


「そうかそうか、そいつぁ良かった。茉夜の方も、お前の事が気になってるみてえだしな。両想いってやつだ」

「んなバカな」


 またしても最速の返答。昴はコケて(・・・)しまったが、理生は気にせず続ける。


「俺には何もないんです。どこにも好かれる要素なんてないんですよ。昴先輩みたいな超人的な事ができるわけでもないのに、俺はハイスペック高校に入学できました。だから、俺にも何かスゴい事ができるのかなって、思ってましたけど、やっぱり何もなくて……」


 ハイスペック高校の生徒は超人(バケモノ)揃いだ。だから自分にも特別な何かがあると思うのは自然な事だろう。理生とて例外ではない。


「理生、お前は勘違いしてるぜ」


 昴はそれを優しく窘める。


「勘違い?」

「そうさ。何もねえやつがハイスペック高校に入学できるわけねえんだ。自覚してねえだけで、お前にもきっとあるはずさ。ハイスペックな何かってやつがよ」

「そうだと、いいんですが……」

「言っとくが理生。俺の妹だって、しょうもねえハイスペックで入学できてんだぜ? なんてったってハイスペックなレ……」


 なぜか途中で言い淀む昴。


「え? なんですか? れ?」

「いやなんでもねえ。本人のいねえところで言うもんじゃねえ」


 理生の質問には答えず、昴は何もなかったようにずんずんと進んで行った。


「ちょっと……昴先輩!?」

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