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第十三話 highspec arbitration

 輸送車の中からは外の状況を見る事ができない。どこをどのように走ったのかは分からないが、輸送車が停止したのは乗車している全員が感じ取れた。


「着いたみたいやね。さ、降りるで」


 颯の促しで輸送車から降りる理生たち。茉夜は昴におぶさってもらっている。

 外に出ると、そこは廃墟と化した都心のような場所だった。人気なくそびえ立つビルがいくつもあり、乗り捨てられた乗用車も見受けられる。唯一まともに見える建物といえば、今輸送車が停止したそばにある、白い小さな半円形の建物だけだ。

 その建物の扉の前に、まるで門番のように立ち塞がる人物もいる。彼もまたハイスペック高校の制服を着ており、腰には一本の刀のようなものを提げている。


「戻ったぞ」


 運転席から降り立つポニーテールの女性、もとい麗華がその人物に話し掛ける。突き刺すような視線が、一瞬だけ理生たちに向いたが、それっきり麗華と話し込み始める。


「ここって、どこなんですか? 見たことのない場所ですけど……」


 理生は散策がてら颯に尋ねる。ハイスペック高校の麓には、こんな立派な建物はなかったはずだ。都会のようなものではなく、田舎と言われても仕方のないような場所だった。


「ん〜、ハイスペック高校からはかなり遠いかな。やから迎えに行くんに時間が掛かったんよ。まあ、色々と調達するんにも一苦労したけんどな」

「そうなんですか。そういえば、あの麗華さんって人、拳銃を二丁も持ってましたね。あれはどこから入手したんですか?」

「この近くに自衛隊の駐屯地があったんよ。そっからちょうだいしてきたっちゅうわけ」

「いいんですか? 勝手に持ち出しちゃって」

「ええんよええんよ。どうせ生きとるやつ(・・・・・・)はおらんかったし」

「…………」


 閑話休題。理生は再び麗華の方へと視線を向ける。ちょうど話が終わったようで、こちらに歩いてきていた。


「事情はあらかた説明した。入ろうか」

「入るって……あの建物の中に?」

「それ以外のどこに入る気だ?」

「いや……全員で入るにはちょっと小さいような気が……」

「安心しろ。中は見た目よりも広い。さっさと行くぞ」


 麗華が先行して建物へと入っていく。理生も後から付いて行く。

 途中で門番の男性とすれ違う。腰の物はやはり刀だった。鋭い眼光を放っているが、その矛先は理生ではなく昴に向いていた。


「よう。久しぶりだな、桜葉(さくらば)戒徒(かいと)

「ふん。相変わらずしぶとく生きていたようだな、春原昴」


 二人の間に殺気が混じり合う。見ているだけの理生も、全身の鳥肌が立つ感覚に襲われる。理生は恐る恐る訊いてみた。


「二人は知り合い……なんですか?」

「「知り合いどころか、腐れ縁だ」」


 綺麗にハモる二人。ここだけ見れば仲は良さそうなものであるが、実際の雰囲気はそうでもない。すぐにでも喧嘩が起こりそうな状態だ。


「すまねえ静流、茉夜を頼む」

「え? あ、うん……」


 昴は茉夜を静流に託し、自分は戒徒と呼んだ男性に近づいていく。睨み合う二人は火花でも飛び散りそうなほどだ。


「ちょ、ちょっと二人とも! なんで喧嘩腰なんですか! やめましょうよ」


 理生の制止が聞こえていないのか、二人はゆっくりと構え始め、戦う姿勢に入っていく。


「はいそこまで、ストッップ!」


 止めに割って入ったのは颯だった。二人の頭を互いにぶつけさせ、雰囲気を一変し直す。


「いってー! 何すんだよ颯ねえ!」

「……ちっ」

「仲悪いんは構へんけんどな、今は怪我人? 病人? もおることやし、先に中へ入れさしたりいな。そこで喧嘩されてもこっちが迷惑や」


 颯の言葉でようやく矛先を収める二人。颯は静流に向かって頷き、静流も答えて中へと入っていく。理生も静流に付いて行こうとするが、颯は来るような気配がなかったので一度立ち止まる。


「颯さんは来ないんですか?」

「ああ……うん、今からこいつらの説教するさかい。先に行っとり」

「わかりました」


 理生は急ぎ足で静流の後を追った。

 中に入ってすぐのところで麗華が待っていた。


「遅かったな。まさかあの二人が喧嘩でも始めたか?」


 微笑を含む言葉。麗華も大体の事情は察しているらしい。


「はい。颯さんが説教してます」

「だろうな。全く、あの二人はいつも喧嘩ばかりだな」

「ん、麗華さんって、昴さんたちとは昔からの付き合いなんですか? なんか、昴さんも麗華さんのことを知ってたみたいだったし」

「ふむ、そうだな。幼馴染み、と言えば聞こえはいいが、あの二人の場合は喧嘩友達と言った方がしっくりくるな。ま、いつも仲裁をしてくれるのは颯だがな。懐かしい話だ」


 麗華は思い出すように天井を仰ぐ。その姿は、ただの一人の女の子だった。


「さ、昔話に花を咲かすのはこのくらいにして、早くそこのお嬢さんを診せに行こうか」


 麗華の言うお嬢さんとは茉夜の事だ。静流の背中で、一目見ただけでも重症なのが分かるほど苦しそうな吐息を洩らしている。急いだ方が良さそうだ。

 麗華は奥へと続く一本しかない廊下をひたすら歩く。明かりは乏しく、ところどころ壁に配置された扉は、どれも少し錆び付いている。ドアノブ回せばボロボロと崩れそうなものもある。静流は何の抵抗もなく麗華に付いて行くので、理生もそれに倣って静流を追い掛ける。

 茉夜は静流の背中でぐったりしたままだ。輸送車に乗っていた時は、朦朧としつつもまだ意識はあった。だが今はもはや語り掛けても返事を期待できない状態だ。理生は思わず茉夜の名を呼ぶ。


「茉夜……」

「…………」


 案の定、返事はない。荒い吐息だけが聞こえてくる。しかし、茉夜は一瞬だけだが理生を一瞥した──ような気がした。それは理生の思い違いや勘違いかもしれない。それでも理生は、逆に自分が勇気づけられた気持ちになる。


「ねえ静流、俺が代わりに茉夜をおぶさろうか?」


 理生は親切心で言ったつもりだ。しかし静流は明らかに怪訝な顔つきで返答する。


「大丈夫です。茉夜ちゃん、軽いので。お気遣いありがとうございます」


 静流は早足で麗華の後を追う。取り残された理生は何故怒り気味に言われたのか思案してみるが、そんなことよりも茉夜が心配になので少し慌てながら静流に追いついていく。

 ひたすらに真っ直ぐ行くと、途中で下りの階段があった。


「足元に気を付けてな」


 麗華の言う通り、足元はより暗くなって見えにくい。とくに茉夜を背負っている静流は細心の注意が必要だ。さらに下るにつれて廊下の明かりも届かなくなっていく。そしてついには手元すら見えなくなった。理生はいつしかの地下空洞を思い出す。


「麗華さん……?」

「なんだ? 私は前にいるぞ」

「いえ……ちょっと見えないんですけど……」

「慌てるな。じきに明かりのある場所へ出る」


 理生は仕方なく、一歩一歩確実に階段を踏み確かめながら進んで行く。目が慣れてきたせいか、目の前にいる、静流が背負っている茉夜の後ろ姿はうっすらと確認できた。静流の方は何の支障もなくスイスイと階段を降りていく。


「静流は見えてるの?」

「え? あ、はい、見えてますよ。ちょっと自分でもびっくりしてます」

「そうなんだ……」


 感染から復帰してからというもの、静流はどこまでも昴と同じような身体能力を身に付けている。元からそうだったのか、それとも感染が原因なのかは今のところは判断のしようがない。理生は念頭には置きつつも、あまり気にしないよう努めることにした。

 階段を降り終えたところで、開けた空間に辿り着いた。妙な液体の入った試験管や、ホルマリン漬けの謎の生物を閉じ込めたビーカー等が置かれた、理科の実験室をより本格的なものにしたような場所だ。そしてところどころだが確かに明かりはある。明かりの色はまちまちで、一際明るいものはよく見かける白いものだが、緑色や黄色のものも伺える。


「もうすぐ会えるぞ。ハイスペック高校を卒業したとはいえ、まだまだ現役の生物学者(バイオロジスト)だ。希望的観測だが、お嬢さんを治療できるのは彼女だけだろう」


 理生は麗華の言葉に期待が高まるも、周りの雰囲気のせいで生唾を飲み込む。思考をクリアにしたことで、理生はある事に気付いた。


「あれ? そういえば転さんは……?」

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