『盲目恋慕 -side B-』
彼女には視力が無い。光はわかるらしいけど、それ以外は何も見えない。けど、かなり感覚は鋭かったりするから不思議だ。
私と彼女は小学校からの幼馴染で、高校まで一緒だ。さすがに大学は違ったけど、その間も私たちはメールや電話で常に連絡をとりあった。そして今日、社会人になってから何度目かのデ……いや、待ち合わせだ。
待ち合わせ場所に着くと彼女は既にそこにいた。
「お待たせ、ヨウちゃん」
私はヨウちゃんに近付き、声を掛ける。
「ミィちゃん、おはよう」
私が声を掛けるとヨウちゃんはこちらを向いて微笑んでくる。私もそれに笑顔で「おはよう」と返す。まぁ、彼女にそんな笑顔が見えるわけはないけれど。
「そろそろ行こうか」
そう言って私は手引きをするために自分の腕をヨウちゃんの腕に触れさせる。そうすると、ヨウちゃんは、私の肘を掴んでくる。それを合図に私は歩き出した。
「なんか、二人でこうするのって久しぶりだね」
「ん? そういえば、そうだね。ヨウちゃんとは毎日メールしてるからあんまりそう感じないけど」
「ふふ、そうだね、昨日も四十通ぐらいやりとりしてたもんね」
「いやぁ、ほんとよくそんなに続いたもんだよね」
そんな会話をしながら二人して笑いあう。私にとってはとても充実した、とても愛しい時間だ。
五分ほど歩くとショッピングモールに到着した。ショッピングモールと言ってもそんなに大きなわけではないけど、この近くでは比較的たくさんの店が集まっている。
「ねぇ、そういえばどこに入るの?」
ふとヨウちゃんがそんな疑問を口にする。細かいことは決めていなかったから当たり前だけれど。
「アクセサリーショップにでも行く? ちょっと買いたいのもあるから」
そう言って私はヨウちゃんを伴って一つの店へと入る。
そこは、それなりに繁盛していて若い男女がたくさんいた。ここでは少ないデートスポットの一つだからしかたないけれど
数分ほど、会話をしながら店内を見回る。私はある場所で止まり手引きの手を解いて、棚を念入りに見渡しだす。
「あ、あった」
私は思わずそんな声を出すと、棚に置いてある商品を二つ取り出した。
「ん? 何?」
ヨウちゃんがそう尋ねると「内緒」と私は言ってまた手を引き始め、レジへと向かった。その時の手は手引きの形ではなく、思わず、普通に繋いで引いていた。
「ねぇ、結局何を買ったの?」
会計を終えて近くのベンチで、昼食をしているとき、ヨウちゃんがさっきの買い物が何だったのかを聞いてきた。
「へへぇ、はい、これ」
そう言って、私はヨウちゃんの手をとるとそこに二つの商品を置いた。
「ん? これって……、ストラップ?」
ヨウちゃんは掌の上に置いたストラップを触って調べている。一つは丸型のもの。もう一つは雪の結晶型。
「そう。丸いほうのが、太陽の絵柄で、もう片方が雪の結晶の形。センスは微妙だけど、田舎だからこんなのしか見つからないんだけどね」
私は後半を冗談めかすように言った。
「なんで、二つも買ったの?」
「それは、ヨウちゃんに片方をあげようと思って」
「え?」
その時のヨウちゃんの顔は真っ赤になっていた。きっとそれは本人も自覚していることだろう。
「えっと、一応、それぞれ私たちのイメージに合わせてみたんだよ」
そう言って、私はヨウちゃんの掌から二つのストラップを取り上げると、丸型(太陽の絵柄)の方を彼女の手に乗せる。
「こっちがヨウちゃん」
そして今度は雪の結晶の方を彼女の手に乗せる。
「こっちが私」
「雪がミィちゃんなのは名前に入ってて、ミィちゃんが好きだからだよね?」
「うん」
「でも、太陽は? 別に私の名前には関係無いと思うけど」
「まぁね。でも、ヨウちゃんは私にとっては太陽みたいだなぁって思うんだ」
「え?」
「なんていうか、ヨウちゃんと一緒にいると無条件に明るくなれるっていうか、なんか元気を貰えるんだよ」
「そ、そうかなぁ? 私がミィちゃんに元気を貰ってると思うんだけど」
「フフ、だとしたらお互い元気を渡しあってるんだね」
「そう思うと、なんか恥かしいな」
そう言うとヨウちゃんは恥かしそうに照れている。私はきっと彼女のこういう素直なところが好きになったのかもしれない。
「で、この雪の方をヨウちゃんにあげる」
私はそう言って雪の結晶のストラップをヨウちゃんの手に握らせた。
「え? こっちがミィちゃんのじゃないの?」
「ううん。お互いにお互いのを持って置くの。そうすればいつでもお互いを思えるかなぁって」
私はニッコリと微笑みながら言う。こんな恥かしいことそうでもないと言えない。
一応、計画としては昨晩ふいに思いついた。まぁ、ぴったりなストラップがあったらっていう感じだったけど。それが成功したことは素直に嬉しい。勿論ヨウちゃんが喜んでくれることもだけれど。
「ありがとうミィちゃん。大切にするよ」
ヨウちゃんは満面の笑みでそう答える。
「うん」
その笑顔があまりに可愛らしくて、周囲に人がいないことを即座に確認すると、頬に唇を当て触れるだけのキスをした。
「え? ミ、ミィ……ちゃん?」
「さ、帰ろう。遅くなると悪いから」
私は彼女が戸惑っているのを気にしないようにして、彼女の手を引いて駅へと向かっていった。
その時の手はしっかりとした恋人繋ぎだった。




