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『盲目恋慕 -side A-』

 私には、光という感覚以外、見ることができない。生まれつきの病気で私の視力は皆無。光があるというその感覚しか感じることができないのだ。

 だからと言って何か困ることがあるかというと、特に挙げるほどのことはない。

 今日もこうして駅で彼女を待っている。

「お待たせ、ヨウちゃん」

 右横から声を掛けられる。その聞き間違えることのない清涼な声こそが待ち合わせの相手。

「ミィちゃん、おはよう」

 私は彼女の声がした方を向き、軽く微笑みを向ける。

「おはよう」

 返ってくるミィちゃんの声。その口調からニッコリと微笑んでいるんだろうと思うのだけれど、何せ、私には視力がないのでそれを確認する術がない。

「そろそろ行こうか」

 他愛ない話をした後、ミィちゃんはそう言うと私の右手に自分の左手のはずを触れさせる。手引きをする合図だ。私は自分の右手でミィちゃんの左肘を掴む。それを確認するとミィちゃんは歩きだした。

「なんか、二人でこうするのって久しぶりだね」

「ん? そういえば、そうだね。ヨウちゃんとは毎日メールしてるからあんまりそう感じないけど」

「ふふ、そうだね、昨日も四十通ぐらいやりとりしてたもんね」

「いやぁ、ほんとよくそんなに続いたもんだよね」

 そんな会話をしながら二人して笑いあう。私にとってはとても楽しく、とても嬉しい時間だ。

 五分ほど歩くとショッピングモールに到着した。ショッピングモールと言ってもそんなに大きなわけではないけど、この近くでは比較的たくさんの店が集まっている。

「ねぇ、そういえばどこに入るの?」

 ふと私はそんな疑問を口にする。細かいことは決めていなかったのだ。

「アクセサリーショップにでも行く? ちょっと買いたいのもあるから」

 そう言うとミィちゃんは私を伴って一つの店へと入る。

 どんな店なのか、店内がどうなっているのかというのは私にはわからない。けど、それなりに賑わっていること、店内が結構広いことは容易に推測はできた。

 数分ほど、会話をしながら店内を見回る。すると、突然ミィちゃんは止まり手引きの手を解いて、棚を念入りに見渡しているようだった。

「あ、あった」

 ミィちゃんはそう声を出すと、棚に置いてある商品をいくつか取り出した。

「ん? 何?」

 私がそう尋ねると「内緒」とミィちゃんは言ってまた手を引き始め、レジへと向かった。その時の手は手引きの形ではなく、私の手を普通に繋いで引いていた。

「ねぇ、結局何を買ったの?」

 会計を終えて近くにベンチで、昼食をしているとき、私はさっきの買い物が何だったのかを聞いてみることにした。

「へへぇ、はい、これ」

 そう言って、ミィちゃんは私の手をとるとそこに二つの何かを置いた。

「ん? これって……、ストラップ?」

 手の平に乗せられたそれを触ってみると二つのストラップらしきものだった。一つは丸型のモチーフの着いたもの。もう一つは……、何か特徴的な形をしたもの。これって……六角形?

「そう。丸いほうのが、太陽の絵柄で、もう片方が雪の結晶の形。センスは微妙だけど、田舎だからこんなのしか見つからないんだけどね」

 ミィちゃんは後半を冗談めかすように言った。太陽と雪。どういうチョイスなんだろ?

「なんで、二つも買ったの?」

「それは、ヨウちゃんに片方をあげようと思って」

「え?」

 きっとその時の私の顔は真っ赤になっていたに違いない。

「えっと、一応、それぞれ私たちのイメージに合わせてみたんだよ」

 そう言うと、ミィちゃんは私の掌から二つのストラップを取り上げると、丸型(太陽の絵柄)の方を私の手に乗せる。

「こっちがヨウちゃん」

 すると今度は雪の結晶の方を私の手に乗せる。

「こっちが私」

「雪がミィちゃんなのは名前に入ってて、ミィちゃんが好きだからだよね?」

「うん」

「でも、太陽は? 別に私の名前には関係無いと思うけど」

「まぁね。でも、ヨウちゃんは私にとっては太陽みたいだなぁって思うんだ」

「え?」

「なんていうか、ヨウちゃんと一緒にいると無条件に明るくなれるっていうか、なんか元気を貰えるんだよ」

「そ、そうかなぁ? 私がミィちゃんに元気を貰ってると思うんだけど」

「フフ、だとしたらお互い元気を渡しあってるんだね」

「そう思うと、なんか恥かしいな」

 事実、すごく恥かしい。まぁ、そう言う優しかったり、元気づけられちゃうところが好きなんだけどね。言えるわけないけど。

「で、この雪の方をヨウちゃんにあげる」

 ミィちゃんはそう言うと雪の結晶のストラップを私の手に握らせた。

「え? こっちがミィちゃんのじゃないの?」

「ううん。お互いにお互いのを持って置くの。そうすればいつでもお互いを思えるかなぁって」

 多分、その時のミィちゃんの顔はニッコリしていたのだろう。

 これが自然にやったことなのか、計算でしたことなのかは解らない。でも、かなり、すごく、物凄く嬉しい。

「ありがとうミィちゃん。大切にするよ」

 私は満面の笑みでそう答える。

「うん」

 その時、一瞬だけど頬に唇が当たった気がした。

「え? ミ、ミィ……ちゃん?」

「さ、帰ろう。遅くなると悪いから」

 私が戸惑っているのを他所にミィちゃんは私の手を引いて駅へと向かっていった。

 その時の手はしっかりとした恋人繋ぎだった。


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