死神が変えた生
僕はさずっと「嫌われ者」のレッテルを貼られてた訳よ。この15年間。クズ、カス、塵....無駄な命だってね。真顔で「どうしてお前は生きているの?どうして死なないの?」っていわれたこともあるよ。肉親なのに感情は冷めきってて縁なんて元からなかった。
でもそんなことをいわれてきても虚しさを感じないんだから僕の心は麻痺してるんだろうね。
いや塗り固められてしまった。汚い汚い蔑みで。
でもそんな僕でも考えることはある。
「人間」のこととか。何千、何億といる人間はまるでジグソーパズルだ。一人一人がピースでカチッとはめ込めばピースが作品、事象を生むのだから。でもそんな中で一人なんてちっぽけで、ただの一部だ。
死んだところでみんなが知る訳じゃない。
容易いものだ。
でもやっぱりプラスなことは難しい、何事も。
生きることと死ぬこと。
得ることと無くすこと。
直すことと壊すこと。
「はぁ....」
溜め息が不意に出た。この人生。生というのは難しいことが多々あるもんだ。気づかないうちに日は経って生きてる、いや時間に生かされてる。流れるようなこの時に。
でも終わりにしよう。そう、無くすんだ生を。
僕は風が吹く屋上に立ち深呼吸をする。
やり直したことなんてない。やりたいことがないんだから。
でも誰かがいってたっけ。自殺したら地獄行きだって。
「じゃあ僕は地獄行きかな。なら冥土の土産にこの景色だけもっていこう、ははっ....」
そうこの屋上から見下ろす街並みだけは汚い心のメッキが剥がれるような気がした。
「自殺でもするの?」
いきなりかけられた声の方を向くと長い黒髪の不思議な雰囲気を纏った女性が立っていた。
その容姿に思わず話しかけてしまう。
「あなたは死神かな?僕が死ぬ前に声かけするなんて
さ」
彼女はただ表情を変えずにゆっくり僕の服を掴んで後ろに引っ張った。
「うわっ....」
ーードスッ
尻もちをついた僕には見向きもせず、冥土の土産にしようとしていた街並みを見ながら彼女は淡々と話す。
「私はあなたのことを知らないし自殺する理由も聞いたりしない。これから死のうとする人間を説得しようとも思わない。でもあなたは私を死神といった。」
そしてゆっくり振り返り彼女の黒髪がサラサラと風になびく。
「なら死神の私があなたを五年生かす。それでもし生きたい理由が見つからなかったら死神の私が直々にあなたを死に導いてあげる」
唐突な案に僕は開いた目が戻らない。
でもそれとは逆に僕は笑いが出た。
「ユニークな発想だね、死神さん?じゃあ、あなたに僕の五年間を委ねるよ」
久しぶりに人と話して僕は気づいた。
産まれて初めて楽しさで笑えたことに。
「ならこの屋上を降りましょう。雨が降るから」
空を仰ぐと白い雲が追いやられ灰色の雲が全面を占めていた。
「わかった」
人の生とは単純なものだ。
こんなに簡単に歯車を狂わされてしまうんだから。
終わるはずだった人生、また僕を頼みます。
彼女の為に。この儚い命も単純に生きてみよう。






