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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

箱庭遊戯

作者: とも


最初に三日月が死んだ。

五日後、奈義が死んだ。

次に青井。

そして茅。

そうやって次々に皆死んでいった。

解っている 。

今度死ぬのは僕だ。


死は一定の法則に基づき規則正しく訪れている。


殺人者は周到で、或いは又単に神経質なだけなのか手掛りを残さず殺していく。


僕は犯人を知っている。

そして打つ手はない。

静かに死を待とう。

しゃがみ込み膝を抱える。

少しばかりの恐怖と寒さに震える。

走馬灯がどういうものかは分からない。

でも、きっと今の気持ちがそうなんだろう。

何気無い思い出が活動写真の様に浮かぶ。





ふと扉の向に誰かの気配を感じる。

かつんと音がする。

彼だ。

いつも彼の靴の飾りは、立ち止まるときに床に当たりかつんと音を立てる。

静かに扉が開く。

きっと、鈍器、劇薬、或いは某かの凶器でもって、狂者さながらに襲いかかってくるのだろう。

彼は僕の親友であり、幾人もの仲間を殺した殺人者なのだ。


証拠など無い。

それが証拠だ。


僕は目を閉じる。

そっと。

きいと扉が開ききる。

そして足音が始まる。

こつ、こつ、こつ、こつ、こつ、かつん。

まぶたの向こうに彼はたたずんでいるのだろう。

息遣いすら伝わってこないのに、どうして彼の考えが、想いが伝わってくるだろうか。





不意に空気が動いた。

うなじに冷たく鋭い物が充てられる。

死ぬんだろう。

どうせなら苦しまずに逝きたい。

とっときの紅茶飲んでおけば良かった。

血が飛び散るのかな。

そう言えば、喉が乾いたしお腹が好いた。


とりとめのない思考が過ぎてゆく。





何故こんな事が起こったのだっけ。

茅、違う、真野が言い出したんだ。


余りにも暇だから、ゲームをしよう。

エキサイティングでブラックでクールなやつをさ。


自分の言葉がどんな結果を引き起こすか、分かっていたのかいないのか。

いずれにせよ、波紋は広がっていった。

暇。

つまらない。

退屈。

言葉にした途端、怠惰への反感は加速して肥大してゆく。

口に出さずとも退屈であることはわかりきっていた。

僕達は極めて閉鎖的な空間に生きている。

何故なら僕らは創られた人間だからだ。

とはいえ、創られた人間が何故こんな箱のような場所で暮さねばならぬかといえば単に創り主の気まぐれなのだろう。

また、体質として野放しに出来ない程度には危険でもある。

とにかく、ここで余りにも長く暮しすぎたため麻痺してはいるものの、実際僕達は倦怠感に蝕まれている。

楽しいこと、好きなこと、何でも良いから気分揚げるような事など無い。

分かっているのは死ぬまでここに居るという事だけ。

未来、将来など無い。

そんな僕達がどうして生きたいと思うだろう。

否、生存欲求は確に在るのだが、その為に、ここから出る為に何かを成そうという気力は尽きてしまった。

何をしても無駄だった。

代わりに僕達はゲームをするようになった。

孤独を埋めるように。

むなしさから目を背けるように。

ゲームは時に外から与えられたり、また自分達で考え出したりした。

そして数えきれないほどのゲームをし尽くし、もう何もない。

じゃあ他にすべき事は?

真野の言う通りだ。


エキサイティングでブラックでクールなゲーム。


冷たく鋭い刃が確実に、ゆっくりと喉に食い込んでゆく。

鈍い痛みが、生暖かい液体のしたたりが妙に嘘のように感じられる。

もしかしたらこれらは全て夢なのかも知れない。

だとすれば、僕達は再びあのつまらなく神経を磨耗させる生活に戻るだけのことだ。

唯ひたすら退屈な。

しかし刃はより深く食い込んでいき、痛みがこれは確な現実なのだと教える。

彼は手慣れているのだろう、血は吹き出さず静かにしたたり落ちる。

そして血の気が引いていき、だんだん気が遠くなる。

一方で意識は増す増す鮮明になり、気分は高揚して、体温が上昇する。

空気に触れた血液が変化し異臭が漂い始める。

つんとした刺激臭。

ぼやけた視界に緑色の薄膜がかかる。


創られた人間。


僕達は望むと望まぬと関わらず凶器でしかない。

血液中の塩化物、硫化物のの濃度が異常に多い。

そのため血液が空気中の酸素により酸化されると劇物の塩素や硫黄化合物が大量に発生する。

生きた劇物発生装置。

傷口から流れ出た血は僕達の意図とは関係無く周囲を、そして自分を毒していく。

死を前にした僕達は脳内麻薬が大量に分泌されるのか、気分が異常に高揚する。

これを三日月も、奈義も、青井も皆体験したのだろう。

勿論僕の体から立ち上る異臭を臆する事無く吸い込む彼もまた、死を目前にした昂奮を感じて居るのだろう。

彼は他より多少優れていたからゲームの主人公或いは鬼に為っただけの事だ。

僕と彼が最後に残るよう巧く皆を殺し、そして今ゲームの幕を下ろそうとしている。


エキサイティングでクールでブラックなゲーム。


即ち緩慢な自殺。


もう十分だ。

僕達はこの箱庭で永く生き過ぎた。

昂奮と痛み、その原因を冷静に考え続ける僕。

微かな笑みを浮かべ、時折苦しげに咳き込む彼。

暫くすればこの箱庭は生き絶えるのだろう。

緩やかに時は過ぎてゆく。

もっとも幸福な時間。









A: うわ、全滅したよ。やっぱり設定が不味かったのかな?D、どうする?

D: どうすると言われてもな、仕方ないさ、また新しく始めよう。

A: 希望を全く与えなかったのがいけなかったのかな?

B: だろうな。生存欲求を抱く程度には生きる喜びを体験させるべきだったな。

F: リアルシュミレーションって時間がかかるでしょう。

  それだけ手間をかけたのに、こんなつまらない終り方をするなんて。

  もっと悪あがきする様子を見たかったのに。

A: Fは相変わらず悪趣味だな。良いじゃないか、僕達も同類だろ。

F: こんな遊びができるだけましと言いたいの?

D: 喧嘩は止めろよ。何を言ったってどうせ変わりはしないさ。

  それより今度はどんな設定にするか考えようぜ。

A: それより御飯の時間だ。食べながら考えようよ。

B: 今日も放射性元素入りの蛋白質か。俺達ももう暫くすると死ぬだろうな。

  所詮、人体実験の材料でしかないしな。だとすれば、あと一、二回が限度だろう。

F: そうね、取りあえずは楽しみましょう。

A: そうだよ。暗くならずに、楽しければ良いのさ。

D: うわ、今日は青酸カリが入ってるようだぜ。違法の人体実験やってんのがばれて、俺達を皆処理する気かな?

F: しょうがないわ、食べるしかないもの。取り合えず頂ましょう。

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