あの空地
いつもは通り過ぎる会社のかえり道、今日は足をとめてみた。
小さな少女がぽつんとたっている。年のころは5~6歳だろうか。
何かこまったことがあるのか、あたりをきょろきょろと見渡しては、大人に声をかけようとしては躊躇う。大人たちは少女がまるで見えないかのように通り過ぎるのだ。そんな光景が妙に気になった。
あーあ、今の世の中子供に声をかけるのは勇気がいるんだよな。不審者扱いを恐れつつ、僕は少女のほうへとむかっていった。
「なにか、困ったことがあったのかい?」
少女はこちらに顔を向けるとただ僕をみていた。引っ込み思案な子なのかな?
「こわがらなくてもいいんだよ。何か困ったことがあるならいってごらん」
少女は少し顔を和らげた。
「ありがとう。道にまよったのです」
「お兄さんは生まれた時からずっとこの町にすんでるんだ。どこにだって案内できるよ。住所はわかる?」
「うん、えとね。住所は……。お母さんがずっとまってるの」
なんだ、近所じゃないか。ここから、そう遠くないな。
「ついておいで」
僕は少女を案内するがてら、今回の顛末をきいていた。母親に頼まれてお使いにでたはいいものの道に迷ったこと。どうしたらいいのかずーーっと迷っていたら、僕が話しかけてきたそうだ。
「ここかな?」
その住所にはちょっと今の流行とはあわないけど、白い新築の家が建っていた。表札には「佐藤」と書かれている。
「うん、ありがとう、亮君」
少女はチャイムをならすとお母さんらしき人が出てきた。
少女は走り出すとお母さんに抱きつく。
「ごめんね。お母さん。待たせたね」
ちょっと苦労しているのかこの子の母親にしては老けている気がした。母親は泣き、少女も泣いていた。
僕は少しオーバーな家族だなとおもいながら邪魔をしないように、家へとかえった。
今日はいいことをしたと思いながら部屋でくつろいでいると、妻の声が聞こえた。
「ごはんできたよ。」
いつものようにテレビをつけながら、雑談に華を咲かせる。
妻とは小学校のころからの付き合いで腐れ縁のまま結婚してしまった。
「ねぇ今日はね。母の命日なの。覚えてる?」
僕はきまづくなった。妻の母は妻が小さい時に焼身自殺しているのだ。妻が住んでいる家もその時焼けてなくなってしまった。
「私が、お使いにいっている間母親は死んでしまったのよね。もう少し早く私が早く帰っていたら母を助けることができたかもしれないのに。」
「仕方ないよ。自分を責めることはない」
「ううん、違うの今年はなぜか悲しくないの。なぜかしらね?あの家があった所にも行ってみたけど、前ほど悲しくないのよね」
あの家の跡地は今でも焼けた後、空地になっている。
あれ?
「ごめん、ちょっとでかけてくる」
僕は少女を案内したあの家まで走った。
そこには、
空地があった。
妻の旧姓は「佐藤」だったな……。
僕は、花を一輪摘むと空地にそっとおき、手をあわせるのだった。
どこからか、「ありがとう」という声が聞こえたような気がした。
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