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金髪の少女

作者: 十月詩衣
掲載日:2026/06/18

短編「鑑定士=エンジニア」のスピンオフです。本編が始まる一年半くらい前の話を書きました。

 2107年、10月。第四次世界大戦開戦から十年以上が経っていた。どこもかしこもロボットだらけで、人間といえば俺くらいしか見当たらない。皆、どこかへ行ってしまったようだ。

 俺は荒れ果てたコンビニを拠点にしていた。他の建物よか頑丈で、設備も申し分ない。食料だって、完全栄養食が山積みになっているし、これ以上の拠点はのぞめまい。そう自分に言い聞かせながら、この数年間過ごしていた。

 

 カチャン、という音が突然耳に入った。慌てて武器を手にし、監視カメラを起動する。侵入者だ。

「何の用だ。目的を言え。」

マイク越しに声をかけると、侵入者はじっとカメラを見つめた。

 侵入者は十代くらいの少女で、とても美しかった。揺れる、金色の長い髪と、素晴らしい輝きを持った瞳が、その美しさに磨きをかけている。この子も人間だろうか。

「あなた、ロボットじゃないわね。」

 少女が口を開いた。イギリス訛りの英語…外国人か。

「俺は人間だ。君は?」

尋ねると、少女は問いには答えず、ただじっとカメラを見つめた。

「あなたに終戦を伝えに来たの。」

「俺に?」

言葉が出ない俺に、少女は微笑みながら続ける。

「ここに一人で暮らしてる人間派がいると聞いたの。人間派だと情報源は何もないだろうし、伝えなきゃと思って。」

言い終えると同時に、彼女はドアを無理矢理開けてこちらへ入ってきた。

「ちょ、おい、」

必死の抵抗も虚しく、彼女は俺の首を掴む。

「人間は負けた。だから、あなたは死ななくちゃならない。」

「お前…ロボットか…」

少女は何も言わない。ただ俺の首を掴み、どこか微笑んでいるようにも見えた。

 一方で俺はとても焦っていた。いかん、このままではこいつに殺される!

…いやそうだ。俺は武器を持っているじゃないか。

 思いつくがまま俺は少女の腕を掴んでいた手を離し、斧で思いっ切り彼女の背中を殴った。

 

 驚いた少女が一瞬、手の力を緩める。俺はその隙に彼女を突き飛ばし、銃を取った。

「武器を捨てなさい。」

少女の声が響く。

「なぜ抵抗するの。あなたは私には決して勝てない。」

少女の声は微かに怒りを含んでいた。ロボットとは思えない程細かい感情の再現だ。不覚にもそんな声に聴き惚れながら、銃口を彼女の頭に向ける。狙うは、メインコンピュータ!


 しかし、銃弾は思った軌道で飛ばなかった。弾は少女の頭をかすめ、傷一つ付けられていない。

「終わった…。」

もう弾は手元にない。肉弾戦だって、あの力に勝てる気は全くしない。絶望して、俺は立ち尽くすことしかできなかった。ただ、最後の一撃を待つしかなかった。


 だが、いつまで経っても攻撃される気配はなかった。恐る恐る目を開けると、少女はこちらに背を向け、星を見ていた。

「俺を殺すんじゃなかったのか?」

思わず問うと、彼女は星を見つめたまま答えた。

「ただあなたの戦闘能力を試しただけ。人間派は敵でもないし、別にあなたを殺す意味はない。ちょっとしたいたずらだったっていうか…。」

この言葉に、俺は安堵でその場に崩れ落ちた。そういえば、はなから彼女には殺意が感じられなかった。全く、ロボットのお遊びは趣味が悪い。

 軽蔑の眼差しで少女を見つめると、彼女もまたこちらを見て、いたずらっぽく笑った。

「あなたがここまで強いとは思わなかったからさ、私もマジになっちゃった。本当は首絞めてるときにネタバラシする予定だったんだけど……ほら、死なないように手加減だってしてたしね。けど、背中殴られてムカついたからいたずら続行することにしたの。」

これ、なおるかなぁと、彼女は配線がむき出しになってしまった背中を指差す。

「…悪かったよ。」

「ああ、いや、いいの。もとはといえば私のくだらないいたずらのせいだし。」

少女の苦笑いをよそに、俺は半ばパニック状態だった。

 終戦も嘘?この子は何者?どうやって俺のことを?本当の目的は?

 深い溜息をついて、思考を諦める。こんなこと考えたって答えは出ないのだから仕方がない。

 ふと、少女が俺の手を握った。ロボットなりに俺のことを気遣ったのだろうか。


 とても静かだった。ただひたすらに、二人で星を眺めた。気付けば雪がちらついている。もう十月のはじめでこんなに寒いというのに、それすらも気にならない程暖かい。


「私、ここに一人で生きている青年がいるって聞いて来たの。」

少女が口を開いた。

「こんな世界に一人だなんて、さぞ寂しかろうと思って。それに、部隊も自由に行動できる時間だったしね。」

俺はすっかり少女に見惚れていた。この時だけ、時間が経つのも忘れてただただ彼女の声を聞いた。

「でも、ただ普通に行くだけじゃつまらないから、何かドッキリを仕掛けようと思ったの。面白い、現実みのあるやつね。終戦した、なんて嘘ついて驚かせてやろうと思った。でも、ちょっとやりすぎちゃったみたい。」

少女の顔が少し曇った気がした。俺はなんと言って良いかわからなかった。


「あ、そろそろ行かなきゃ。」

ふいに少女が声を上げ、立ち上がる。その表情は闇に紛れてよく見えなかった。

「…待って。」

俺の声に、彼女の動きが止まる。

「君の名前、知らなかったから。」

彼女は振り向かず、小さな声で言った。

「クロエよ、可愛い人間派さん。」

「クロエ。また会えるかな。」

「ええ、きっと」


気が付けば彼女の姿は見えなくなっていた。



「司令部、こちらB-01。例の人間派の青年に接触しました。彼に戦闘能力はありません。ええ、こちらに害をなす存在ではない。放っておいても問題はないでしょう。引き続き、調査を行って参ります。」

よければ本編「鑑定士=エンジニア」も読んでいってもらえたら嬉しいです。

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