金髪の少女
短編「鑑定士=エンジニア」のスピンオフです。本編が始まる一年半くらい前の話を書きました。
2107年、10月。第四次世界大戦開戦から十年以上が経っていた。どこもかしこもロボットだらけで、人間といえば俺くらいしか見当たらない。皆、どこかへ行ってしまったようだ。
俺は荒れ果てたコンビニを拠点にしていた。他の建物よか頑丈で、設備も申し分ない。食料だって、完全栄養食が山積みになっているし、これ以上の拠点はのぞめまい。そう自分に言い聞かせながら、この数年間過ごしていた。
カチャン、という音が突然耳に入った。慌てて武器を手にし、監視カメラを起動する。侵入者だ。
「何の用だ。目的を言え。」
マイク越しに声をかけると、侵入者はじっとカメラを見つめた。
侵入者は十代くらいの少女で、とても美しかった。揺れる、金色の長い髪と、素晴らしい輝きを持った瞳が、その美しさに磨きをかけている。この子も人間だろうか。
「あなた、ロボットじゃないわね。」
少女が口を開いた。イギリス訛りの英語…外国人か。
「俺は人間だ。君は?」
尋ねると、少女は問いには答えず、ただじっとカメラを見つめた。
「あなたに終戦を伝えに来たの。」
「俺に?」
言葉が出ない俺に、少女は微笑みながら続ける。
「ここに一人で暮らしてる人間派がいると聞いたの。人間派だと情報源は何もないだろうし、伝えなきゃと思って。」
言い終えると同時に、彼女はドアを無理矢理開けてこちらへ入ってきた。
「ちょ、おい、」
必死の抵抗も虚しく、彼女は俺の首を掴む。
「人間は負けた。だから、あなたは死ななくちゃならない。」
「お前…ロボットか…」
少女は何も言わない。ただ俺の首を掴み、どこか微笑んでいるようにも見えた。
一方で俺はとても焦っていた。いかん、このままではこいつに殺される!
…いやそうだ。俺は武器を持っているじゃないか。
思いつくがまま俺は少女の腕を掴んでいた手を離し、斧で思いっ切り彼女の背中を殴った。
驚いた少女が一瞬、手の力を緩める。俺はその隙に彼女を突き飛ばし、銃を取った。
「武器を捨てなさい。」
少女の声が響く。
「なぜ抵抗するの。あなたは私には決して勝てない。」
少女の声は微かに怒りを含んでいた。ロボットとは思えない程細かい感情の再現だ。不覚にもそんな声に聴き惚れながら、銃口を彼女の頭に向ける。狙うは、メインコンピュータ!
しかし、銃弾は思った軌道で飛ばなかった。弾は少女の頭をかすめ、傷一つ付けられていない。
「終わった…。」
もう弾は手元にない。肉弾戦だって、あの力に勝てる気は全くしない。絶望して、俺は立ち尽くすことしかできなかった。ただ、最後の一撃を待つしかなかった。
だが、いつまで経っても攻撃される気配はなかった。恐る恐る目を開けると、少女はこちらに背を向け、星を見ていた。
「俺を殺すんじゃなかったのか?」
思わず問うと、彼女は星を見つめたまま答えた。
「ただあなたの戦闘能力を試しただけ。人間派は敵でもないし、別にあなたを殺す意味はない。ちょっとしたいたずらだったっていうか…。」
この言葉に、俺は安堵でその場に崩れ落ちた。そういえば、はなから彼女には殺意が感じられなかった。全く、ロボットのお遊びは趣味が悪い。
軽蔑の眼差しで少女を見つめると、彼女もまたこちらを見て、いたずらっぽく笑った。
「あなたがここまで強いとは思わなかったからさ、私もマジになっちゃった。本当は首絞めてるときにネタバラシする予定だったんだけど……ほら、死なないように手加減だってしてたしね。けど、背中殴られてムカついたからいたずら続行することにしたの。」
これ、なおるかなぁと、彼女は配線がむき出しになってしまった背中を指差す。
「…悪かったよ。」
「ああ、いや、いいの。もとはといえば私のくだらないいたずらのせいだし。」
少女の苦笑いをよそに、俺は半ばパニック状態だった。
終戦も嘘?この子は何者?どうやって俺のことを?本当の目的は?
深い溜息をついて、思考を諦める。こんなこと考えたって答えは出ないのだから仕方がない。
ふと、少女が俺の手を握った。ロボットなりに俺のことを気遣ったのだろうか。
とても静かだった。ただひたすらに、二人で星を眺めた。気付けば雪がちらついている。もう十月のはじめでこんなに寒いというのに、それすらも気にならない程暖かい。
「私、ここに一人で生きている青年がいるって聞いて来たの。」
少女が口を開いた。
「こんな世界に一人だなんて、さぞ寂しかろうと思って。それに、部隊も自由に行動できる時間だったしね。」
俺はすっかり少女に見惚れていた。この時だけ、時間が経つのも忘れてただただ彼女の声を聞いた。
「でも、ただ普通に行くだけじゃつまらないから、何かドッキリを仕掛けようと思ったの。面白い、現実みのあるやつね。終戦した、なんて嘘ついて驚かせてやろうと思った。でも、ちょっとやりすぎちゃったみたい。」
少女の顔が少し曇った気がした。俺はなんと言って良いかわからなかった。
「あ、そろそろ行かなきゃ。」
ふいに少女が声を上げ、立ち上がる。その表情は闇に紛れてよく見えなかった。
「…待って。」
俺の声に、彼女の動きが止まる。
「君の名前、知らなかったから。」
彼女は振り向かず、小さな声で言った。
「クロエよ、可愛い人間派さん。」
「クロエ。また会えるかな。」
「ええ、きっと」
気が付けば彼女の姿は見えなくなっていた。
「司令部、こちらB-01。例の人間派の青年に接触しました。彼に戦闘能力はありません。ええ、こちらに害をなす存在ではない。放っておいても問題はないでしょう。引き続き、調査を行って参ります。」
よければ本編「鑑定士=エンジニア」も読んでいってもらえたら嬉しいです。




