プロローグ
ボード・オブ・マスターズ――通称ボブマス。
オリジナルアニメの大成功を受けてTCG化されたそのカードゲームは、将棋の戦略性とカードの駆け引きを融合させた革新作として、鳴り物入りで登場した。
モンスターを盤上に配置し、前線を押し上げるか。
あるいは守りを固め、一手先を読むか。手札のカードと、目の前のボードをどう噛み合わせるかで勝敗が決まる――その緊張感は他にない面白さだった。
俺――隠札良人は、その波に乗るべく念願のカードショップを開いた。
最初は大当たりだった。
客が押し寄せ、アニメを見て熱を帯びたファンがデッキやパックを買い漁り、店は毎日お祭り騒ぎのようだった。
……だが、熱狂は長くは続かなかった。
『場所を取りすぎる』『ルールが複雑すぎる』『一戦が長すぎる』『動画で見るだけで十分』。そんな声が少しずつ増えていき、客足はみるみる減っていった。
気づけば、残ったのは山のような在庫と、背負いきれない借金だけ。
積み上がる未開封のパック。
誰も来ない店内。
空っぽのレジ。
俺はただ、その光景を無力に見つめることしかできなかった。
デジタルカードゲームとして出していれば、また違ったのかもしれない。
けれど、もう遅い。
「……もう嫌だ。この世界にボブマスなんて、無ければ良かったのに……」
そう呟いた瞬間だった。
店全体が、ガタガタと地震のように揺れ始めた。
「な、なんだ!?」
商品棚から落ちるパック。
カウンターの上で跳ねるデッキケース。
俺は慌ててそれらを庇った。どれほど憎んでいても、結局カードを放ってはおけなかった。
次の瞬間、眩い光が店内を包み込み、俺と店は――宙へと浮かび上がった。




