「カレのLIKEに花丸を」
ご一読ありがとうございます。
どこにでもいるような、少し無気力な女性の日常を切り取ったお話です。
ゲーム、漫画、そして子守り。
実家というモラトリアムの中での、ささやかな心の機微を感じていただければ幸いです。
第一部 久しぶりの実家ぐらし。
わたしは人気者になりました。
ちょっと前の事。
わたしは乙女ゲームを楽しんでいました。
ラスボスは王子様。
一生懸命に攻略を楽しみましたが、中だるみしてきたので、攻略サイトにたよることにしました。
そのうち、ステータスがどんどん上がって本命の好感度も鰻登り。
わたしは楽ちんだなと思いました。。
コントローラーをとスマホを持ち替えながら進行を見て楽しんでいました。
ですが、だんだん持ち替えが面倒になり、攻略サイトだけ見るようになりました。
最後までサイトを読み終えると、なんだか虚しくなりました。
わたしは失敗した。と思いました。
失敗しないように、理想を追っかけてもあんまり面白くない。第2セーブデータを作りました。
攻略サイトは見ずに本命キャラ以外の好感度も上げたり、デートイベントを楽しみました。
メインだけじゃなくサブキャラもみんな魅力的で大好きになりました。
わたしは、多くのイケメンとと着実に愛を深めているように見えました。
そして、ラストシーンまで後5ターン。
わたしは、セーブ枠を7つ使いました。
最後だけ7つの終わり。7つの幸せ。
のつもりが、幾多の破滅エンド。
何度も繰り返してやっとラスボスの告白画面が見れました。
ポテチの袋が空になりました。
縦ロールのキツめの美女がハンカチを咥えてディスプレイの向こうから私を睨む。
「セーブしますか?」
いいえ。
ああ、終わった終わった。
第一部完
第二部 本屋に行って帰ってきたら、すきが待ってる。
そうだ、本屋に行こう。
ゲームにも飽きたし、久々にマンガでも買って読もう。
きっとこれを求めていたんだとわたしは思いました。
出かけるとなると、色々面倒です。パンツルックで良いとしても流石に部屋着じゃ出られない。
近くの本屋は閉店してました。2年前までは人もそれなりに入ってたのに。レンタルDVDももう借りる人いないし、時代の流れかな。とわたしは思いました。
JK時代の愛車のペダルは、昔より重く、別の書店は遥かに遠かった。昔のわたしは超人だ。
よし、こっちはまだ生き残ってる。
本屋の照明はあかるく、コミックをくるむビニールが光り輝いている。でも、中は見れない。好きな絵柄を頼りに内容を想像しながら帯の文字を追う。
どんなストーリーが待ってるんだろう。
レジで3巻分の会計を済まし、くたびれたマイバッグに新世界をしまう。
帰りのペダルは少し軽く、実家への道のりは行きより近かった。
寝っ転がって1巻を読み終えた。当たりだ。わたし、これ好き。
ネットで他の人の感想とかを探してみた。
アニメ化されてるらしい。しかも、かなり高評価。
無駄に課金してる動画サイトでも見れるらしい。
わたし考えました。そっちでいいか。
風呂に入った後、肘をつきながら、アニメを見終わった。
2巻と3巻の新世界のビニールは破られていない。
もう、真夜中だ。
ところが、いざ布団に入ってみると、意外と寒いし、なかなか寝付けません。
わたしは、もう一度、お風呂に入ることにしました。温まって寝よ。
第二部完
第三部 カレ、重いでたち。
わたしは思う。ドライヤーで髪を乾かしながら。
あれ、顔がちょっと太ってる?。
転職するつもりで仕事をやめて実家ぐらし。もう2月目。
そろそろ、次の仕事さがそうと思ってたら、母がくれた。
お金にならない仕事。
あんた、暇でしょ。ちょっと買い物行ってくるからこの子見てて。
母は、近所のシングルマザーの息子の面倒をたまに見てる。
小さなお友達を抱き上げようと思ったが、カレは意外と重かった。
日頃の運動不足、やや乙女の細腕。重くない筈はない。
退屈させたらいけないよね。
わたしは探し物を始めた。
見つけた。
「たからもの」
押し入れの奥から、20年前の新品のおもちゃたちをだしてみた。
・使用済み塗り絵
・フルヌードの着せ替え人形
・成長しない永遠の赤ちゃん
・電池式。音と光の魔法ステッキ
ect..ect…
男の子にはちょっと合わないかもしれない。キラキラ目のピンク髪の少女が書かれた「使用済み塗り絵」を手にとってわたしは苦笑した。
カレは意外と楽しんでた。
魔法のステッキに跨るフルヌードが赤ちゃんと合体してる。
何に見えてるんだろうと、わたしは思った。
—
しばらくしたらカレは飽きたらしい。わたしはスマホでアニメを見せた。
「お腹すいた。」
冷蔵庫の中から、母が作った肉じゃがを取り出し、鍋に入れ水を入れお子様用のルウを割り入れる。
今、カレー作ってるからちょっとまってて。
「やったー。おばちゃん大好き。ぼくおっきくなったらおばちゃんと結婚する。」
はいはい。わたしは軽く聞き流すけど、口角がちょっと上がってると思う。お鍋の中で泡が踊りだす。
わたしは、鼻歌が出そうになったのを止めた。
お姉ちゃんとカレー、どっちが好き?
カレは時々首を傾げながら、うーんとうなり、眉間にしわを作る。
「カレー。」
それでも良い。いや、それがいい。
テーブル上。カレの前には、カレーライス。
わたしは、カレーの上にマヨネーズでグニュっと花丸を書く。
はい。よく出来ました。
わたしは 余った水を飲み干した。
そして、わたしは笑わない。
おわり
最後までお読みいただきありがとうございました。
「カレーとお姉ちゃん、どっちが好き?」という問いへの、あまりにも正直な答え。
それでも、マヨネーズで描いた花丸ひとつで、少しだけ救われる気持ちを込めて書きました。
笑わない「わたし」の口角が、ほんの少しでも読者の皆様に伝われば嬉しいです。




