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ショートショート7月〜4回目

コンビニ行ったら魔王だらけで草、でも大人だから…毅然とした態度を貫く

作者: たかさば

 ……なんか、腹減ったな。


 そういえば、今日はまだ何も食べていない。


 最後に何か食ったのは…昼間の、ハンバーガーセット。

 ……もう16時間も何も口にしていないのか。


 なんか、食うかな。


 ………何もないな。

 そうだ、昨日の夜中に、最後のカップ麺を食ったんだった。


 今の時刻、3:32。

 当然、スーパーはやっていない時間帯だ。


 ……コンビニでも行くか。


 スマホを持って、靴をはいて、徒歩6分。


 ………?


 なんか…イベントでもあったのかな?

 やけに、コンビニの中に人がいる。


 ……ま、いっか。


 てれれれれれん♬

 てれてれれん♪


「いらっしゃませー」


 やややる気のない、眠たそうな店員の声。

 レジの向こう側で、こちらを見向きもせずに…発注用のタブレットを触っている。


 ……せめて顔ぐらい上げて客を確認したらどうなんだ。

 もし俺が暴漢だったりしたらどうするつもりだ。


 そんな事を思いつつ、ずかずかと弁当売り場に向かい……


「あ、すみません」


 お菓子の棚のある通路から、勢いよく誰かが飛び出してきてぶつかりそうになった。


「いえ、こちらこそ、ごめんなさ…


 謝られたので、とりあえず無難に返事をしようとして…言葉をのんだ。


 ……なに、この人。


 おおよそ、夜中に出歩いていなさそうな…派手な衣装。

 床を擦る黒いマント、真っ黒い腰よりも長い長髪、とんがったブーツ、LEDライトを反射してキラキラと光る黒い宝石のネックレス、ゴテゴテとした指輪が全部の指にはまっていて…何より、頭から立派な角が生えている。


 ……どこをどう見ても、魔王そのものだ。


 なにか…、イベントでもあったんだろうか。

 そういえば…ここから歩いて10分ほどのところに、ライブスタジオがあったような気がする。


 思わず、目が…くぎ付けになる。

 こんなに出来のいいコスプレは、見たことがない。


 ……さりげなくカウンター横のホットスナックを見るふりをして、様子を窺う。


 俺の視線には全く気付かず、魔王はレジに並んで…何かを買っている。


「袋いいです」


 店員が袋がいるか聞く前に、自己申告をして…真っ赤なエコバッグをポッケから取り出して広げ、ポテトチップスとヨーグルト、BOXティッシュを詰め込んでいる。


「…988円です」

「ペイペイで」


 ~♪


「ありがとーござーっす」

「ありがとう」


 てれれれれれん♬

 てれてれれん♪


 魔王はごく普通に、買い物を済ませて…店を出て行った。


 ……なんか、すごいもの、見たな。


 ほんの少し、得をしたような気分で…おにぎり売り場へ……、って。


 ………ちょっと待て。


 なんか……、店内に……。

 めっちゃ……、魔王っぽい人が、いる。


 変な王冠をかぶってる人、黒い翼が生えてる人、目が赤い人、肩に魔物の爪っぽいものが乗っている人に、龍の鱗みたいな刺青がある人、変な仮面をかぶってる人……、棚があって全体像は見えないが、鹿の角っぽいものやユニコーンの角っぽいものが、雑誌コーナーらへんを移動している。


 全員が全員、オリジナリティのある魔王の姿で、思い思いに買い物をしている。

 たまに談笑している人もいる。


 ……いったいどんなコアなイベントがあったんだろう。

 ま、俺には……関係ない世界の事だとは思うけど。


 ……あんまりじろじろ見るのも失礼だろう。


 極力視線を向けないようにして、明太子の爆弾おにぎりとギガプリン、ジャスミンティのペットボトルとカップ焼きそばを持って、レジまで移動する。


 ヒツジっぽい角の生えた魔王が、会計をしている。

 ……かごの中には、細かいお菓子がいっぱい入っているのが見える。


 この時間帯、ここのコンビニには店員が一人しかいない。

 まあ……気長に待つか。


 やけにリアルなくすんだ角と、皮っぽいつやつやした尻尾を眺めながら…順番が来るのを待つ。


 店内には、最近人気のボーカロイドの曲がかかっている。

 何となくざわついているのは、魔王同士で何かしゃべっているからだろうか……。


「これはこれは…、珍しく……」

「いいもんだよ、そう……、僕の時は……」


 イマイチ……、会話の内容が聞き取れない。


 こんなミーハーな格好はしているが、魔王たちは皆…店内での会話のボリューム感に気をつかうことができる、良識的な大人なのだろう。


「そうだね…、たぶん……」

「そのうち、会える……」


「お待たせしました、お次の方どうぞ―」


 プリンをカウンターにのせ、その前におにぎりを置いて、横にカップ焼きそばを……。


「あっ!」


 手を滑らせて、ペットボトルを落としてしまった。


 慌てて、それを拾おうとしたら……後ろの、魔王が。


「はい、どうぞ」


 長い爪の生えた手で、丁寧に拾ってくれて、キバの生えた口元で、にっこりと…すごいな、どう見ても本物にしか見えないぞ。


「ありがとうございます」


 ……驚いたりしては、失礼だしな。

 冷静に、ごく普通に、ほんの少し愛嬌をもって…、お礼を伝えておく。


「袋どうしますか」

「いや…いいです」


「1111円です」

「アイディーで」


 ~♪


「ありがとうござっしたー!お次の方どうぞー」


 両手に買ったものを抱えて、ペットボトルを拾ってくれた魔王に…ペコッと頭を下げてから、出口に向かい。


「いい若者だったね」

「あれは……、たぶん……かな?」

「いやぁ、昔の自分…出しますよ……」


 てれれれれれん♬

 てれてれれん♪


「「「「あはははは……」」」」


 背中の方で、陽気な笑い声が上がっているのを……聞き。


 なぜだか……、わからないけれど。


 自分も…いずれ、魔王になるんだろうな、と。


 漠然と……、思った。

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