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第28話

 大久保忠世率いる鉄砲隊による攻撃の効果を、自身が新設した鉄砲隊の反撃で以て無力化する事に成功した山県昌景。発砲したばかりの鉄砲隊を即座に後退させると同時に、鉄砲隊を守るように押し出したのが長槍隊。柵への退避が間に合わなかった大久保隊を白兵戦に持ち込んだ所で登場したのが山県の本隊とも言うべき騎馬隊……。


 戻って躑躅ヶ崎館。


馬場信春「先制攻撃を浴びなくても良くなったからと言って、禁止事項を忘れるでは無いぞ。」

真田昌輝「あっ!?これは馬場様。気付かず申し訳御座いません。」

馬場信春「いや構わぬ。山県の話。懐かしく聞いていた所である。そうだな。これだけの鉄砲と弾薬があれば、織田とまではいかないが。徳川となら渡り合う事は可能かもしれないな。」

山県昌景「そうですね。後はどのようにしてその場に持ち込むか?になりますが。」

真田信綱「ところで馬場様。」

馬場信春「どうした?」

真田信綱「先程禁止事項と仰りましたが、どのような事でありましょうか?」

馬場信春「いつもと変わらぬ。部隊長自らが深入りしてはならない。それだけである。」

山県昌景「謙信はそうでは無いけどな。」

馬場信春「まぁ仕方ないであろう。原案を作った村上義清の戦い方。

『亡き御館様を倒すためには相打ちになっても構わない。』

を踏襲しているのであるのだから。」

山県昌景「戦わなければならないこちらにとっては堪ったものでは無いがな。」

馬場信春「確かに。しかしうちは謙信とは違い、その後の統治の事も念頭に置いている。そのためには統治の任を担当する事にもなる部隊長にもしもの事があっては困る。故に亡き御館様は部隊長自らの突進を禁止しているのである。」

山県昌景「組討ちなど以ての外だからな。」

真田信綱「わかっています。」

馬場信春「でもその禁を破っていたのが殿と信豊様だったけどな。」

山県昌景「御館様も笑っていた。

『いつもながら軽率。』

と……。」

真田昌輝「御館様と信豊様が。でありますか?」

馬場信春「俺らがいけなかったんだろうな。武田の血を引いた。それも二代目と言うだけで重臣に列せられている。実績を積まなければ家中で認められない雰囲気を知らず知らずの内に出してしまっていたのかも知れぬ。」

真田信綱「いえ。武田ではありませんが私も二代目あります。しかしそのような圧力は……。」

山県昌景「其方らは父(真田幸隆)の苦労を見ている事を皆が知っている。特に信綱は所領を追われ、上野で逼塞している父を覚えているであろう。失地回復に頑張っていた父の姿。けっして忘れてはならぬぞ。」

真田兄弟「わかりました。」

真田昌輝「しかしこれですと……。」

山県昌景「気になる事でもあるか?」

真田昌輝「騎馬隊の破壊力を十分に発揮する事が難しいように思うのでありますが如何でしょう?」

馬場信春「それは確かな事である。ただこれには理由があって。」

真田昌輝「どのような事でありましょうか?」

馬場信春「最も大きな理由は敵の持つ鉄砲隊の大規模化と複数の鉄砲隊の存在が挙げられる。一度の銃撃に対処する事が出来たとしても、それだけで次の準備が完了するまで銃口から火を噴かないわけでは必ずしも無い。別の鉄砲隊から放たれる危険性がある。長時間同じ場所に留まる事が難しい状況に陥っているからである。」

山県昌景「そのため騎馬隊は敵を破る事もさることながら、全ての隊を安全な場所に避難させる役も担っている。」

馬場信春「勿論敵の陣を乱れさせる。積極的でなければならないがな。ただし深追いは厳禁である。面白味に欠ける。手柄の機会を失うつまらなさはあるかも知れない。ただそこは我慢してもらわなければならぬ。手柄と引き換えに命を落とされては困る故。」

山県昌景「査定の仕方も変化して来るだろうな。」

真田信綱「となりますと査定する側の腕も?」

馬場信春「問われる事になる。今回はそのいくさになる事は間違いない。」

山県昌景「それで何だけど。」

真田昌輝「如何なされましたか?」

山県昌景「謙信に比べ破壊力に欠ける問題の解決策について何だけど……。」


 戻って設楽原。柵の内側への避難を試みる大久保忠世隊を柵の手前で打撃を与える事に成功した山県昌景隊は深追いする事無く撤収。これを見た徳川の諸隊が大久保隊の救援並びに態勢の立て直しを図ろうとしたその時。彼らの目の前に現れたのは……真田信綱。


 躑躅ヶ崎館。


山県昌景「例えば私の隊が一通りの作業を終え。撤収しようと試みている所を信綱が敵陣に向け鉄砲を放つ事により、敵に打撃を与えると同時に私の撤収を助ける。次に信綱が鉄砲に槍。そして騎馬隊を動かし引き返す所を昌輝が。昌輝の後を態勢を立て直した私が敵陣を。と間断なく攻撃を加え続ける事により、自軍の損耗を極力抑えながら敵の抗戦能力を削いでいく。もし何かがあった時のために、例えばだけど馬場が後ろで控え指示対応にあたる。」

馬場信春「手柄については作戦に参加した者全員に齎される事になる。抜け駆けは許さぬ。」


 設楽原。山県に信綱。そして昌輝の3隊による連携により徳川陣は防戦一方。いつ潰走となってもおかしくない状況に陥った所……。


 織田軍の退却を見届けた馬場信春は、徳川との戦況を確認するべく茶臼山に移動。


馬場信春「(柵に妨害されてはいるが、徳川は坂の下で地盤も悪い。うちは奴らが拵えた土塁を使えるため、兵の運用に問題は無い。山県に信綱。そして昌輝の連携も上手く行っている。徳川の背後には連吾川。地の利は我にあり。後は自然に崩れるのを待つだけで良い。)」


 すると徳川に動きが……。


馬場信春「(ん!?柵内の連中が動き出したか?大久保を助けるために出張って来ると面倒。兵を動かすか……。)」


 しばらくして……。


馬場信春「(いや違う。後ろの連中が川を渡り始めているか……。これは大久保をしんがりにして兵を退こうと試みているのか?いや違う。長篠に向かっているぞ。)至急狼煙を上げよ!徳川が長篠に向け動き始めたぞ!!」


 少し戻って武田勝頼本陣。


内藤昌豊「殿はどうしている?」

武藤喜兵衛「暇を持て余しています。」

内藤昌豊「優雅だな。」

武藤喜兵衛「いえ。高坂様から

『勝手な真似はするな。大人しくしていろ。』

と念を押されていましたので。」

内藤昌豊「脅されたんだろ?」

武藤喜兵衛「そうとも言えますね。」

内藤昌豊「殿も変わったよな。」

武藤喜兵衛「そうですね。あれだけ煙たがっていた高坂様に教えを請うたのでありますから。」

内藤昌豊「ところで高坂はどうしている?」


 茶臼山。


馬場信春「(大久保が踏ん張っているため、こちらからすぐに追い掛ける事は難しい。しかし織田の大軍は既にここには居ない。山県が居た有海には小幡が居るし、篠場野には信廉様と穴山様が引き続き守っている。もしもの事があれば小山田様や殿が対応すれば済む話。相手は徳川のみ。しかも追い込まれての無理攻めに過ぎない。注意しなければならないのは長篠城だが、城は鳶ヶ巣から一望する事が出来る。何かあれば報せが届く手筈になっている。問題無い。

 後は大久保なのだが、なかなか……。ただこちらが優位である事に変わりは無い。ならば織田が去った所から徳川を挟み撃ちにしようか……。)」


 と馬場信春が長篠城方面を眺めたその時。


馬場信春「何であいつがそこに居るんだ!?」


 武田勝頼本陣。


武藤喜兵衛「『馬場様を救援する。』

と言って隊を率い川を渡って行きました。」

内藤昌豊「えっ!あいつが独りで!?」

武藤喜兵衛「はい。」

内藤昌豊「あいつ攻めいくさ何か出来ないぞ!」

武藤喜兵衛「何でも

『馬場様から授けられた策がある。』

と仰っていました。」

内藤昌豊「喜兵衛!殿に私から合図があったら、至急川を渡る手筈を採るよう連絡してくれ。私は先に高坂の所に向かうと。」

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