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第27話

真田昌輝「難しいですね。」

山県昌景「問題は敵の飛び道具。鉄砲なんだよ。ただ鉄砲にも弱点はある。」

真田昌輝「それは何でありますか?」

山県昌景「鉄砲は白兵戦で使う事は出来ない。味方を誤射してしまう恐れがあるから。尤もそうでは無い事も無いわけでは無いが。」

真田昌輝「ところで山県様。」

山県昌景「どうした?」

真田昌輝「出陣間近の今、対策を練られている。と言う事は某か目処が立っていると言う事でありますか?」

山県昌景「あぁ。待望の物が手に入ってな。」

真田昌輝「となりますと……。」

山県昌景「見て見ろこれを。」


 戻って、設楽原。大久保忠世率いる徳川の部隊に突撃を敢行する山県昌景。山県の突進を食い止めるべく鉄砲を構える大久保忠世隊。怯む事無く兵を進める山県の赤備え。山県の部隊がいよいよ大久保率いる鉄砲隊の射程距離に入ったその時。

「放て!!」

の大音声と共に弾を放ったのは……両者。


 いくさ前の躑躅ヶ崎館。


 山県昌景が真田昌輝を連れ、やって来たところにあった物。それは大量の鉄砲と弾薬。


真田昌輝「これは何処から手に入れたのでありますか?」

山県昌景「跡部が頑張って謙信と和睦を結んだだろ。」

真田昌輝「はい。そのおかげで私も全軍を率い、織田徳川とのいくさに参加する事が出来るようになりました。」

山県昌景「お前の兄さんも高坂も来る事が出来るようになったのは跡部が上杉との和睦並びに上杉と北条の仲を取り持つ事が出来たおかげである。しかしその効果はそれだけに留まる事は無かったんだよ。」

真田昌輝「と言う事は、ここにある鉄砲と弾薬は……。」

山県昌景「そう。全て越後から仕入れた物である。これには長年。抗争と言う形ではあるが、越後と境を為していた高坂の持つ人脈。尤もこれは越後を混乱させるために用いていたものではあるのだが。」

真田昌輝「平和利用でありますね。」

山県昌景「……間違ってはいないな。高坂の持つ越後の人脈を活用し、内藤が調達して来た物である。」

真田昌輝「それにしても膨大な数でありますね。」

山県昌景「詳しくはわからないが、相当の出費であった事は確か。」

真田昌輝「そうですね……。」

山県昌景「お前の所にある麻織物の増産指示が出る事は間違い無いぞ。」

真田昌輝「……そうなりますね。」

山県昌景「しかしこれを寝かしていては意味が無い。これだけあれば今まで出来なかった理想を実現させる事が出来る。お前にも教えようか?」

真田昌輝「お願いします。兄を連れて来ても宜しいでしょうか?」

山県昌景「おぉ。頼む。」


 真田信綱合流。


山県昌景「今からやろうとしている事は元々、別の対策が切っ掛けになっているのだが。村上義清って居ただろ?」

真田昌輝「父が忌み嫌っていた。」

山県昌景「そう。お前の父幸隆を上野に追いやったあの村上義清だ。尤もこれは武田も絡んでいる事ではあるのだが。」

真田信綱「亡き御館様のもう1代前の話であります故、お気になさらず。」

山県昌景「信虎様が駿河に追放され亡き御館様が跡を継いでから再び信濃進出を図る事になったのだが、そこに立ち塞がったのが村上義清であった。」

真田昌輝「板垣様や甘利様が……。」

山県昌景「そう。非業の死を遂げる事になったあの村上義清だよ。奴が……。今、上杉と和睦した手前。この表現は良く無いな。村上が我らと相対した際、新しい戦術を採って来た。」

真田昌輝「どのような戦術でありましたか?」

山県昌景「それは……。」


 村上義清本人も含む本隊もろとも武田信玄の本陣目掛け突撃すると言うもの。


山県昌景「ただそれだけであるのなら対応する事は可能ではあったのだが、問題は本隊が突っ込む前。村上本隊の露払いの役目を担った連中である。彼らが持っていた物が……。」


 弓矢とその当時は更に高価だった鉄砲。


山県昌景「これらを村上は集中的に運用して来た。鉄砲の存在は知っていた。破壊力抜群である事も知っていた。しかし鉄砲は高価な代物。実戦に使うにしても、出来る事と言えば狙撃に留まっていたのが実態であった。しかし村上はそれを50丁だったか?用意し、一斉射撃で以て我らに襲い掛かって来た。虚を衝かれた我らは動揺。板垣様甘利様は討ち死に。多くの者が負傷。その中には亡き御館様も含まれていた等多くの犠牲を払う事になってしまった。しかしこの時はまだ良かった。」

真田昌輝「何故でありますか?」

山県昌景「そのいくさで甚大な被害を被ったのはむしろ村上の方であったからである。」

真田昌輝「勝利したのは?」

山県昌景「村上である。」

真田昌輝「それでいて甚大な被害?」

山県昌景「そのいくさで鉄砲を扱っていた者及び弓矢を扱っていた者の大半が討ち死にしたからである。理由は彼らが持っている弾が切れた後、持っていた刀を抜き。村上義清本隊と共に我らに斬り込んで来たからである。」

真田信綱「弓を引くには剛の者で無ければなりませんし、鉄砲となれば熟練の技が必要となります故。」

山県昌景「大事にしなければならぬ人材である。しかし村上義清の目的は亡き御館様を討ち果たす事。ただ1つであった。その後の事は考えていなかった事が我らにとっては幸いした。それに村上には……。」


 この戦術を繰り返し行うのに耐え得る資金が無かった。


山県昌景「人と金を失った村上は我らの反撃に抗する事が出来なかった。しかし問題はここからである。」

真田信綱「村上義清が上杉謙信に助けを求め越後に去ったからでありますね。」

山県昌景「そう。村上の要請に応じ、その後謙信は幾度となく信濃に進出して来た。村上義清が我らに対し用いた戦術を引っ提げて。ここにある鉄砲と弾薬を見てもわかるように越後は鉄砲と弾薬を手に入れる術を持っている。加えて越後は、お前らの所の名物。麻織物に欠かす事の出来ない青苧の産地であり、かつ京や出雲。更には大陸へと繋がる道。海路を有している。港からの上がりも莫大。故に10回を超える関東遠征が可能となり、うちにこれだけの鉄砲と弾薬を売っても問題無いだけの備蓄があると見て間違いない。」

真田昌輝「つい今しがたまで敵対していた相手でありますからね。うちは。」

山県昌景「商才に長けた者が多いのかもしれないな。」

真田信綱「駿河に塩を止められた時もそうでしたね。」

山県昌景「即商人を送り込んで来たからな。越後は……。」

真田昌輝「しかし村上の戦術は人の損耗も激しいものでありました。幾ら鉄砲と弾薬があったとしましても、それを使いこなす事が出来る人材は一朝一夕で育てる事は出来ません。」

山県昌景「謙信はそこに手を加えて来よった。」

真田昌輝「と言われますと?」

山県昌景「経済力の違いもあり、越後は村上と比べ抱える事の出来る人の数も多い。故に隊の編成も大きくなる。そのため村上の時は自らも抜刀しなければいくさを継続する事が出来なかった鉄砲隊と弓隊を後方に退避させる事が出来るようになった。長槍を持った部隊と最後方に控えている馬を用いた本隊が前に押し出す事によって。

 鉄砲と弓矢。長槍。そして本隊。その間に次の発射準備が整った鉄砲と弓矢が再び前線に躍り出て、その後を長槍に本隊。これを繰り返して来た。目的は同じ。亡き御館様を討ち果たすためである。しかし村上との違いは人を使い捨てにする事無く、鉄砲に弾薬。そして弓矢がある限り、際限なく繰り返す事が出来るようにした事である。

 その後幾度となく上杉と戦う事になり、その都度被害を被る事に相成ってしまった。」

真田昌輝「身体が幾つあっても足りませんね。」

山県昌景「そう。特に(武田信玄の弟)信繁様が討ち死にされたいくさの後から抜本的な対策を練る事になった。上杉の戦術を再現して様々な方策を探る事になった。そこで得た結論が……。」


 鉄砲には鉄砲。弓矢には弓矢。長槍には長槍。騎馬隊には騎馬隊で対応するのが望ましい。

 戻って設楽原。


山県昌景「ようし!敵の鉄砲は封じた!次なる発射の前に白兵戦に持ち込む!!柵の中に逃げ込ませるな!!!」

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