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第1話

 天正2年。武田勝頼は遠江の要衝高天神城を攻略。甲斐に戻った武田勝頼は祝いの宴を催したのでありましたが……。


武田勝頼「……昨日いったい何があったのか?」


覚えていない御様子。介抱しに来た武藤喜兵衛を捕まえて……。


武田勝頼「昨夜飲み会の件なんだけどさ?」

武藤喜兵衛「はい。」

武田勝頼「高天神城奪取を祝しての……。」

武藤喜兵衛「えぇ。」

武田勝頼「そこで何か変わったは無かったか?」

武藤喜兵衛「いえ。皆上機嫌で酒を酌み交わしていました。」

武田勝頼「私の所に来た者は居らなかったか?」

武藤喜兵衛「殿のお立場がお立場でありますので、全ての家臣が酒を持って殿の所に赴いていました。」

武田勝頼「そこでのやり取りで変わった事は無かったか?」

武藤喜兵衛「無礼講ではありましたが、それを鵜呑みにする者は当然居ません。」

 


 無礼講だの 言葉を信じ ハメを外して 職探し。注意しましょう。



武田勝頼「誰かをかばっては居ないよな?」

武藤喜兵衛「いえ別に……。」

武田勝頼「今後の武田について危機感を覚えている者は居なかったか?もし居たら教えて欲しい。」

武藤喜兵衛「……そうですね……。」

武田勝頼「酒の席の事だ。咎めたりなどせぬ。」


 それが信用出来ないんですよ。


武藤喜兵衛「殿の目の前で諫言された事でありますし、聞いていて腑に落ちる所もありました。もっと言えば、それを殿が忘れてしまっている事の方が問題なのかもしれません。」

武田勝頼「すまん。教えてくれ。」

武藤喜兵衛「内藤(昌豊)様が高坂(昌信)様と共に殿の所に来まして……。」


 内藤昌豊は武田勝頼の祖父信虎に仕えた工藤家で出。一時出奔するも父信玄の代に帰参。その後、上野の箕輪城代に就任。箕輪城は対上杉、対北条の最前線。そこで上杉北条との折衝並びに西上野の内政。更には関東の国衆との取次を担う人物。


 高坂昌信は甲斐石和の土豪春日家の出。遺産争いに敗れた昌信は信玄の奥近習として採用されると同時に信濃攻略にも従軍。その後、対上杉最前線で激戦地でもあった川中島一帯を任され、北信濃の国衆の取次を託される人物。


 共に重臣中の重臣。


武田勝頼「そこで彼らは何と申したのだ?」

武藤喜兵衛「本当に覚えていないのですね……。まさか私から報告された事にして、彼らを亡き者にしようとのお考えではありませんよね?」

武田勝頼「そのような事は絶対にせぬ。本当に忘れてしまったのだ。」

武藤喜兵衛「内藤様と高坂様は私の父幸隆と共に信濃上野で戦って来た間柄でありますし、今も私の兄2人が世話になっています。もし彼らを罰せようものなら御館様と言えども承知しませぬ。」

武田勝頼「何故そこまで警戒しているのだ?」

武藤喜兵衛「それは……。」

武田勝頼「心配せぬとも良い。申してみよ。」

武藤喜兵衛「内藤様と高坂様。そして馬場(信春)様に山県(昌景)と、跡部(勝資)様並びに長坂(釣閑斎)様との関係が芳しいものでは無いからであります。」


 馬場信春は甲斐巨摩の教来石家の出。信玄による信濃攻略で功績を挙げた人物。今は深志城の城代として筑摩郡を統括すると共に信濃の国衆との取次。越中飛騨の外交を託されている人物。


 山県昌景は武田家家老飯富家の出。武田軍の一番槍として活躍を続けた昌景は現在駿河江尻城の城代を務め、駿河の内政に携わると共に対織田徳川の最前線で最も危険な遠江三河。そして美濃の外交軍事を託される人物。


 一方の跡部、長坂は信玄の時代より武田家政全般に携わって来た重鎮で勝頼も引き続き重用している人物。それだけ影響力の強い両者と対立する内藤と高坂が勝頼の前で発した言葉。それは……。


武藤喜兵衛「もし私が今から話した内容によって内藤様と高坂様が不利な状況に追い込まれる事はありませんよね?」

武田勝頼「約束する。」

武藤喜兵衛「それでも危害を加えるような真似をしました場合、私も罰していただけますか?」

武田勝頼「心配するな。そなたも武田にとって重要な事だと思っているのだろ?」

武藤喜兵衛「はい。」

武田勝頼「申してみよ。」

武藤喜兵衛「はい。内藤様は殿に……。」


 内藤昌豊が高坂昌信を伴って武田勝頼に伝えた事。


「東美濃で多くの城を攻め落とし、高天神城も手に入れれば御館様(武田勝頼)は有頂天になってしまう事でしょう。さすれば亡き御館様(武田信玄)からの家臣の意見を聞かなくなる事でありましょう。その結果、無理な決戦を行い。それが原因で多くの家臣は討ち死にを遂げ。結果、武田は滅びる事になってしまいます。」


武藤喜兵衛「内藤様と高坂様はこのように述べ、殿に考えを改めるよう訴えていました。」

武田勝頼「私は彼らの事を軽んじている?」

武藤喜兵衛「いえ。そのような事は御座いません。内藤様は上野。高坂様は北信濃の重要拠点を託されている事がその証左であります。同じ事は馬場様や山県様。そして内務を担当する跡部様に長坂様にも言える事であります。」

武田勝頼「だよな……。しかし何故このような事を言って来たのだ?」

武藤喜兵衛「どうやら内藤様が……。」


 内藤昌豊はこの宴席の場で長坂釣閑斎と口論。その内容と言うのが……。


武藤喜兵衛「『山県は結果を出したが、そなた(内藤昌豊)はこれまで何をして来たのだ?亡き御館様(信玄)の温情だけで出世したのでは無いのか?』と言われた事がどうにも収まりがつかなかったらしく……。」

武田勝頼「実際はそうでは無いだろう?」

武藤喜兵衛「はい。比較対象となりました山県様が内藤様の事を『(昌豊は)誠の副将である。』と称している事でもわかるかと。」

武田勝頼「わかっていない奴が俺の周りを侍らっている事を知らせたかった?」

武藤喜兵衛「酒に酔ったふりをして殿に伝えたかったものと思われます。」

武田勝頼「しかし跡部、長坂の実務能力も?」

武藤喜兵衛「中に入って見て、跡部様長坂様の仕事ぶりには感嘆の思いであります。」

武田勝頼「この1年。私は彼らとは……。」

武藤喜兵衛「美濃三河。そして遠江といくさ続きでありましたので、内藤様と高坂様との意思疎通は……。」

武田勝頼「4人(内藤、高坂。馬場、山県)はまだここに居るか?」

武藤喜兵衛「はい。」

武田勝頼「全員集まる機会はなかなか持てぬ。皆を集めてくれ。」

武藤喜兵衛「わかりました。」

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