表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

なんか違う日本

実家には本を読む妖怪がいる。あるいはなぜか同居人が増えた話

作者: あかね

「小説家になるには何冊本を読めばいいのか、という答えが500冊らしいけどそのくらいある?」


 部屋を見回した後の友人の質問に私は唸ってしまった。

 いつもは外で会うのに部屋に来たいなんて言うから何かと思った。暇人だなと思いながらも私も冊数を思い出し……。


「段ボールで」


「え? 段ボール?」


「20箱は超えた。前の引っ越しで、30箱中20箱本で笑った」


「引っ越し屋さんの膝が笑いそーだな」


「んー、検索すると単行本なら一箱20~30冊、文庫本サイズなら80冊くらいはいるみたいだな。ほんとか? ぎちぎちに詰めなかったから、まあ、50冊くらいにしておこう。

 それなら文庫本700冊、その他200冊くらいか?」


「で、今、溢れているのを見るともう1000冊超えてる? どんだけ持ってんの?」


「そうは言われてもな。総数はわからないよ。実家にも定期的に送っているし、そっちにも本を食う妖怪がいて、2000冊は行くと思うな」


「妖怪って」


「じゃあ、仙人」


「人間じゃねぇのかよ」


 私は微妙な半笑いでごまかした。

 問い:人間か?

 答え:人間じゃねぇ。


 だからと言ってアレがなんなのかわからない。実家に長いこと住んでるなんかだ。そいつはノルウェージャンフォレストキャットに似てる単眼の生物だ。ぴょんと長い触手みたいな毛が生えていてその毛で本のページをめくっている。本を食うというが、実際は飲むように本を読むナマモノだ。

 吾輩という名前になっている。

 なんでも吾輩は猫であるに感銘を受けて吾輩言いだしたそうだ。どらなんとかのように僕とか言わないらしい。


「というか引っ越し屋さんかわいそう。文庫本一冊150gだってよ。10冊で1.5キロ」


 仙人の続報がないとわかったのかその話題に戻ってきた。そんな軽いだろか、あれ。と思うが、漫画ならそのくらいかもしれない。


「大丈夫、米入れるより軽い」


「引っ越し屋さんと配送業者を同様に扱わない」


 私は肩をすくめる。

 そのまま友人はそこらの本を手に取る。あ、これ、流行りのと読み出す。邪魔するのも悪いかと思って珈琲を用意してほっとくことにした。

 既刊20冊。今日中に読めることはないので、貸出袋を用意してだな。私は布教に余念がないのだ。隙あらば沈めるスタイルをとっている。

 流行っててももっと流行ってほしい。なんなら、グッズと映画になるようなくらい爆発的なものが欲しい。


 そういう情熱はあるのだ。問題は、私が浮気性のためにそういうシリーズが一つだけではないので、どうしても分散してしまうこと。

 それに布教するわりに読み込みも浅い。もともと一つの本を深堀りするよりいっぱいの本を溺れるように読みたい。新刊愛してる。先月も同じことを言って今月も別のひとにそう言っている。おそらく、来月も。

 つまり私はそういう軽薄な人間である。


 この調子では私が本の世界に異世界転生してもあー、なんだっけかなーと思い出すところから始まるに違いない。それどころかと視線を部屋の隅に向ける。積まれた本の山脈がある。積読は徳だよ! と言い張って買い込むから……。作家さんの収入大事。買わないと市場から消える。一冊でも買うことが重要。

 しかし、この中から異世界転生したらお手上げである。あらすじくらいしか知らないし、なんならキャラクター覚えてもいない。

 しかもゲームも同じ調子なところがある。最近は積まないが、データとしてダウンロード済みで……。

 そーっと山脈から視線を外すと友人と目があった。


「で」


「でってなんだ」


「小説家にはなれるの?」


「それだけじゃ普通はなれないんじゃないかな。知識量の下積みってやつじゃない? 読むだけだったら日に一冊以上読む人もいるし。その人もみんな小説家というわけでもないでしょ。

 それに読みまくるうちの妖怪でさえ、なれないんだから」


 吾輩、人差し指打法のように触覚のような毛で打ち込んでいる。なんならWeb小説投稿しているが、うけねぇしと嘆いている。ランキングぅと鳴く生き物がうるさいとか弟が言ってた。

 吾輩、人と感性違いすぎて、それがドはまりでもしなければランキング入りは難しいだろう。いや、でも、な。ケモナー界では結構いけてるとか。ニッチなとこで生きていけそうだ。


「妖怪ねぇ……。僕からすれば、君もすでに妖怪みたいな」


「なんだそれ」


「本のために稼いで本のために家を選んで愛を注いで……。

 あれ? 妖怪じゃない。奴隷だ」


「否定はしないよ。ただ、私なんてまだまだひよっこで」


 世の中には、本のために床を強化する人もいる。私は夢見るだけのかわいいものだ。いつか一階に死ぬほど本を詰めた書斎を。ふふふ。

 実際するなら地震が来たらマジで死にそうなので、耐震工事はしたいから雰囲気ちがくなりそうだけど。


「そういうの言い始めたら泥沼にどっぷりつかってるって。

 じゃ、これ借りてく。ほかに面白い漫画ない? 最近、電子書籍ばっかりでさ」


「ん。まあ、このあたりかな」


「ありがと。おお、大河」


 そんなことを呟きながら、本を選定している。

 ……うむ。


 私は小さい段ボールを取り出してきた。きっと、持ち帰れない量になる。

 年に数回、知り合いと段ボールで本を送り合っている。そのときのものだ。


 案の定、宅配便のお世話になることになった。


「送料代わりに夜おごる」


「おう。何の原材料買おうかな」


「原材料。いや、お店に食べにいこ?」


「知ってたか。この家には50冊近い料理本があるんだ」


「なんだって!?」


 私も驚いた。あちこちに散ってるのを積み上げたらタワーができた。


「さあ、何食べたい」


「そういうことなら」


 二人でああでもないこうでもないと言い合いながら、メニューを決める。

 機嫌よく買い物に出かけると友人がこんなことを言いだした。


「今度、実家に行っていい?」


「は?」


「いやぁ、そこまでの本の山? 山脈? 連峰とかみたいじゃないか。

 本棚バーンのお宅なんだよね?」


「……いや、まあ、そうかな?」


 一部屋、図書館の書架か、というの状態である。素敵書斎というより、無機質ななんかである。

 吾輩がキュートな写真を売って稼いで購入したと両親が言っていた。私はそのころ家を出ていたのでその事実を知らなかったのだが、写真は知ってた。うちの妖怪に似てると思ってたけど……。さすがに実家の妖怪が、写真集出すなんて思わなかった。

 その時に目隠し長毛猫の頂点を極めたぞと言ってた。


「行きたい」


「いいけどさ」


 実家に連絡しないとな。勘違いしないように、と。そうじゃないとお祭りですね!くらいの勢いで準備しそうだ。正直めんどくさい。この友人とはそういうのじゃないんだ。

 しかし、友人の楽しそうな顔を見てるとまあ、悪くはない。


 それに。

 あの妖怪をみた反応を見たい気もする。



 後日。

 我が家に住人が増えた。一人と一妖怪増量。そろそろ引き継げと吾輩様がおうちに来た。それはいい。


「吾輩様、これ、どうですか」


 友人が猫が好きなと言われるものを片っ端から貢いでいる。吾輩もそれを悪く思っているという風でもなく、付き合ってる。うざくないのかね?

 そんな感じに吾輩の魔力に屈した友人が入り浸るようになり、最終的に一緒に住むことになった。今、家を探している最中である。

 友人は、あ、目的は吾輩様なのでときっちり断りを入れてくるのが、腹が立つというか。


 ……まあ、楽しそうなのは、いいか。

 そのまま何年か経過して、気がついたら家族してたというのは想定外だった。

電子書籍ですが150冊ほど料理関係の本がありました……。特売のときになんも考えず会計した結果です。一生分のレシピがすでにある気がします。それでもまだ欲しいんですから、物欲というのは……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ