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姉妹の視点

 私たちの幼いころからある神社。ここに祭られている神は随分と嫉妬深く、その村の女性を全て絞殺してしまった。所帯を持っている者も、いない者も、男と接した事がある者は問答無用で殺された。

 しかし、私たちだけは助かった。母親は外出しているところを絞殺されたが、外の騒動に気が付いた父が社の元へ行き、自らを捧げたからだ。神に婿入りしたのだ。どうやら、それでも神の怒りが収まるのは10年間だけらしく、10年に1人、新たな婿を探しさなければならない。それも誰でもいいという訳ではなく、神の歌う歌に誘われた者だけでないといけない。そして、その「神の歌」。父が遺してくれた唯一のものだった。


 神の歌を歌えるのは女性或いは神に魅入られた男性のみらしく、私たちが何度も他の男たちに教えようとしても、一向に歌えるようにはならなかった。それどころか、旋律が気持ち悪い、と言い出す始末であった。そんな事があって、神の婿決めは私たち姉妹が請け負う事になった。男たちと辛うじて生き延びた女性たちは口々に「有り難う、有り難う」と言っていたが、どうにか押し付けようとしていたのであろう。その日から、私たちは山から下りず、ずっと社にいるようになった。



 父が婿入りしてからもうすぐ10年になる。私たちは新たな婿を探すために神社の石段で神の歌を口遊んでいた。それでもそう簡単に見つかるわけではないので、根気よく続けることが大切なのだ。

 もう2か月程経っただろうか。1人の男がやってきた。私たちは平静を装ったが、内心凄く喜んでいた。私たちはこの男を婿入りさせることにした。

 「神の歌」の力は素晴らしい! 男はすっかり歌の虜になっていた。2週間は経ったか、その時から男は毎日社に来るようになり、1日中入り浸るようになった。そして、色々な事を話すようになって分かったのだが、この男も両親を亡くしている様だった。それも、他殺だそうだ。どこか、私たちに境遇が似ていた。それに、この男と話している時が思いのほか樂しい。男を引き込むためだったのだが、時折純粋に会話を樂しんでいることもあった。だが、目的は果たさなければならない。男が引き込まれた今、この調子でいけば、婿入りも難なく進むだろう。


 あれからしばらくたった。もう元の生活に戻れない程になっているだろう。ここからは、あの男と神の2人で過ごさせた方が良いだろうと考え、私たちはしばらくの間は社から遠くで過ごすことにした。こうなるのは分かっていたはずだが、どこか寂しい気もした。


 越してきて2日経った日の夜、私たちは全く同じ内容の霊夢を見た。どうやら、男は神に興味は無く、歌と私たちに興味を持ったようで、必死になって探しているそうだ。そして、その事に神はお怒りだった。男を取られたことに。そして、その理由が私たちが男をたぶらかしたからだと思っている。私たちは言い返そうにも、言い返せなかった。私たちもあの男を気にしていたのも確かだからだ。一通り神は怒りをぶつけると、私たちに宣告した。「お前たちは、明朝、私が殺す」と。

夢から覚めた私たちは、肌襦袢が透けるほど汗をかいていた。そして、定められた運命を確認しあった。私たちは社に戻ろうかとも考えたが、話のまとまる前に強烈な眠気に襲われ、また眠りへと落ちていった。

 翌朝、いつもより2時間ほど早く起きた私たちは、身なりを整えてその時が来るのを静かに待った。もう、覚悟はできていた。そう思うと、私たちが意識するよりも早く輪縄に首を通していた。いつの間に縄がぶら下がっていたのだろうか。それすらも気が付かなかった。そして、目を見合わせ、台を後ろに蹴った。その後も目を合わせたままだった。

 私のかわいい妹。

 私のかわいいお姉ちゃん。

神に恨まれても、最期まで一緒にいられた。私たちは、そんな喜びの中に息絶えた。


 現世を去る時に社が見えた。もうすっかり朽ちてしまった社。1人石段に座り、「神の歌」を口遊んでいる男。

 男は神を愛していなかった。神は男を振り向かせられなかったのだ。



 姉妹は2人仲良くあの世へ下って行った。

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