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イースト・ヤードの魔法使い  作者: さびお
走れトロイカ編
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5 ロッタ・スヴァルト

ロッタ・スヴァルト。

欧州との先の戦争において、軍の将校の妻たちを中心に自然発生的に興った、準軍事組織の名称である。


女性のみで構成されていながら、王国軍と連携して負傷者の看病や炊き出しなどの後方支援から、避難の先導・対空警戒に至るまで、勇ましくも幅広く活躍し、終戦後に王妃殿下から褒状が与えられるほどの功績をあげている。


それがこの度、王妃殿下の御名において正式に準軍属職として設定されることとなり、彼女たちが用いた通称(ロッタ・スヴァルト)がそのまま職名となった。

扱いは王国所属の国家公務員であり、最高長官は国母である王妃殿下である。


ヨリとオリヴィエルもそんな準軍属職員(ロッタ・スヴァルト)の一員である。

正確に言えば一員なのはヨリで、オリヴィエルはその助手・連れ・同伴者という立場だ。


ロッタ・スヴァルトは、表向きには、女性による自衛と防衛の組織として設立しているが、もうひとつの顔がある。

それは、北欧(ノルディック)地域各地で起こる「人ではない者達の起こす問題に対処するための部門」としての役割だ。


欧州での、断続的に続く戦争に追われた人々と、産業化による人口流動で、人々はそれまで未踏の地であった「人ではないものたち」の力の強い領域にも進出するようになった。

未開の原野にフィヨルドの奥地、果てはまだ見ぬ大地への希望を乗せて、冷たい海原へ。

この新たな土地への入植の動きによって、対処に困る問題が各地で次々と起こっているのは王国(フィンランディア)だけではない。


魔女に魔術師、神子にシャーマン。

呼び名は様々だが、以前はこれらの人々が、街や村で起こる「人ではないものたち」の起こす問題に対処していたのだが、今ではすっかり市井から姿を消し、人里離れた場所に籠ってしまうか、彼らだけの里を作り隠れ住むようになってしまった。

欧州地域の政教統一の波が北欧(ノルディック)諸国にも押し寄せ、異端とされた彼らが迫害されてきた歴史があるからだ。


今では、自国の司法の手に追えない問題が起こると、各地に点在する隠れ里へ行政の担当者が密かに訪れ、高い契約料を支払って事態の終息を依頼するのが一般的だ。

諸国から入る依頼料は、彼ら隠れ里の良い収入源になっている。


国外の感応力持ちへの依頼には、関税がかかる。

他国の働き手を一時的に借りることになるため、自国の民に依頼するよりも割高なのだ。

なので、属国や同盟国、婚姻などで姻戚関係にある国同士で、感応力持ちやその隠れ里を共有するのが一般的だった。


ところが、折しも欧州全体での戦争の長期化と、有力諸侯による利権と領土・領民の取り合いによって、土地の統治者が頻繁に変わる動乱のご時世。

一昨日(おととい)属国だった地域が、昨日(きのう)併合され他国になり、本日革命により政権が覆される時代。


属する国や統治者が変わるたび、依頼料とそこにかかる関税・手数料(マージン)もコロコロ変わるのだ。それも相手方の言い値で。予算もなにもあったものではない。


そこで、自国の感応力持ちを出来るだけ把握し、囲いこもうというのがこの度のロッタ・スヴァルト制定の背景にある。

より多くの、多種多様な人材を抱えることは国家の財産なのである。


加入には、信頼できる出自の確かな王国人2名の推薦状と、一定以上の感応力が必要だ。


ヨリの本職は、自身の卒業した学校において原石の研究に勤しむ研究員だ。

原石からの効率的な「力」の引き出し方、意図した「力」の定着のさせ方が、主な研究テーマだった。

これらが解明されれば、効率的かつ定期的に魔法の道具を作り出すことが出来るようになる。


日々真面目に研究に取り組んでいたのが功を奏したのか、学長に太鼓判を押されての推薦となった。

同じく、基礎科の学生であるオリヴィエルは、同級生との喧嘩で校舎を半壊させた「力」も使いようだと、謹慎と奉仕活動を免除する代わりに同伴させられた。


もうひとりの推薦人は宮勤めの大叔母で、彼女もまた(イーストヤード)の出身者である。

王妃殿下の覚えめでたいこの大伯母は、ヨリの前の代での谷1番の感応力の持ち主であり、オリヴィエルと同じ『使い』手でもあり、王宮勤めになる前は学校で『使い』手のために教鞭を奮っていた教師であり……色々頭が上がらない人物である。


準軍属職ということで、だいたいのメンバーが非常勤の登録で必要時に召集されるという扱いだ。


平時は一般職に就くことが出来るかわりに、ひとたび辞令が降りると何を差し置いても優先して馳せ参じなければならない。

それが例え、数週間かけて行っていた実験結果がようやく出揃うタイミングだったとしても、今回の実証実験はうまくいきそうで、考察と検証次第では運用化の糸口になりそうだったとしても。

泣く泣く引き継ぎをして、研究室(ラボ)を後にしてきた。


いつの時代も下っ端に拒否権はないし、小役人となればなおさらだ。

トップダウンは世の常なのだ。

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