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イースト・ヤードの魔法使い  作者: さびお
ゆりかごの夢編
34/37

34 犬より馬が良い

ユドルネルへは北方軍の軍馬を借りられることになった。

もちろん馬車も軍用のものだ。

さらに、御者と馬車に並走して移動する護衛を北方軍から、馬車に同乗し調査自体に同行するものが警ら隊から、数名ずつついてくることとなった。


ここ(ラップランド)に来たときと同じように、オリヴィエルと2人で、乗合馬車(公共交通機関)で、と思っていたのだが。

警ら隊にも北方軍の皆さんにも全力で止められた。


中隊長に至っては真っ青を通り越し、もはや顔色が土気色だったので、本気でどこかが悪いのではないかと心配になったほどだ。

当事者であるグレインさんも入れると総勢7名。

ずいぶんと大所帯になったものだ。


軍用馬車は3頭立ての()車だった。

ここまで犬橇率がとても高かったので正直とてもありがたい。

犬は可愛いが、お尻が痛いのだ。

変に力んでしまい筋肉痛も悩ましい。

そろそろ中年に差し掛かる、普段大して運動もしていない女が連日乗るものとは想定されてないに違いないのだ。


「街道に出た後は、ケルミ川沿いを上っていきましょう。見通しも良いし、多少高低差があっても距離を詰められるので早く着くはずです」


心なしか顔色の回復した中隊長が、馬車の窓を叩き声を掛けてきた。


護衛2名と御者を北方軍から、馬車内の警備及び調査同行に1名を警ら隊から出すことで落ち着いたらしい。

人数の多い護衛役を、軍部と警ら隊とどちらが担うかで相当揉めていた。

本当は、馬車に同乗しての護衛を行いたかったのたが、最低3人は軍から人を出したかったのでしかたがない。

馬車内は進行方向を向いて右側にヨリ、その隣にオリヴィエルが座り、ヨリの向かいにはグレインさん、その隣に警ら隊員という席次となった。

途中に一度の休憩と馬の入れ替えをはさみ、半日ほどの移動だという。


ラップランド地方を流れるケルミ川は、北極圏の北東部より3つの川が合流して巨大な流れを作り、その後多くの支流と合わさりながら北方ラップランド地域を南西へと流れる、王国フィンランディアで最も長い河川である。

この川の流れに沿って遡るらしい。


ユドルネルは王国最長河川ケルミ川と最大の支流オーナス川との合流地点。

そして最大量の水量を湛えたまま、バルト海北端のボスニア湾へと注ぎ込む。

下流の湾岸都市ケルミでは、広がり切った川幅がまるで湖のような水面を作り出しており、実際立ち寄った際には川だと言われるまで気がつかなかった。

この豊かな水量を保つための集水域は北方(ラップランド)ほぼ全域。

数えきれない種の生態系を支え、人々や動物の水源となり、命を支える豊かな流れ。

河川と湖水の多いこの国では、川や湖も神聖視されている。

ゆったりと揺蕩(たゆた)う水面に人知を越えた存在を感じる気持ちはよくわかる。


ふと、馬車が走行する振動とは違う振動を感じた気をして隣を見る。


「えっどうしたの?!」


オリヴィエルが不思議な表情をして小刻みに揺れていた。

世話しなく足を揺すり、掌を握ったり開いたりひらいたりしている。


「なんか、なんか、なんか」


口元は笑みの形をとっているが困惑しているような表情である。


「なんか、とっても、そわそわするし、ぴりぴりするんだっ」


なにそれどうゆうこと。

ヨリが聞き返そうとしたその時。


「ヘラジカだ!!野生種だ!」


オリヴィエル側の北方軍の護衛が声をあげると同時に



どんっっ!!



馬車に衝撃が走った。

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